2015年3月には、中国のインターネット大手テンセント(騰訊)、中国でBMW、フェラーリ、レクサスなど外国高級車のディーラーとして知られる中国ハーモニー(和諧汽車)と共同で、インターネットと自動車を組み合わせたスマートEVの開発で提携。さらに、ハーモニーと組んで北京、浙江省杭州、河南省鄭州でEVのレンタカー事業を始めている。
中国や台湾の市場では、鴻海が米テスラモーターズあたりと組んで、EVの完成車製造に進出するとの見方が根強くある。ただ、鴻海が狙っているのは、参入に高い障壁がある畑違いの自動車製造よりも、EMSとして培ってきた技術と経験を十分生かせる電子部品、中でもバックモニターやインパネなど、EVのみならず従来のガソリン車でも液晶パネルを多用するようになった車載ディスプレーの供給だろう。中国市場でまず、レンタカー事業やEV開発に参与して市場進出への種まきをし、シャープ買収効果で一気にEV市場でのシェア拡大を図るという青写真が浮かび上がる。
インドに漂う不透明感ととん挫事業の数々

ただ、インドに製造拠点を設けるという話についても、気になる話が出てきた。インド紙「Business Standard」は2月19日付で、鴻海がマハーラシュトラ州に50億米ドルを投じる計画について、期日になっても同州政府に対して計画を提出していないと報じた。同紙が伝えたアナリストは、シャープに対する巨額の出資が、インドへの投資に影響している可能性があると指摘している。
ところが鴻海は2月25日夕方、シャープが新たに提出した文書を精査するため、シャープの買収契約をしばらく見合わせると表明。インド、シャープとも、先行きはなかなかクリアにならないのが現状だ。
もっとも、鴻海の郭会長がぶち上げた事業や計画が尻すぼみ、とん挫、停滞するのはシャープやインドが初めてのケースではない。
例えば中国の人件費高騰を受け郭会長は2012年、中国の製造工場に3年で100万台のロボットを導入し自動化を進めるという目標を打ち出した。ところが台湾メデイアによるとロボットの開発、導入とも計画を大きく下回り、「工商時報」(2015年7月4日付)は、導入ペースは年1万台に過ぎないと報じている。
このほか、iPhoneなど自社で製造を手がけた製品の販路を自ら広げることを合い言葉に、中国と台湾で進出した家電量販もとん挫。中国上海ではドイツの小売り大手メトロと組み、2010年末に家電量販店メディアマルクトを開店。2015年に中国全土に100店舗開店を目標に掲げたものの販売が伸びず、上海に7店舗を開いたのみで、2013年1月に提携を解消している。家電販売では、鴻海の中国工場で働いていた労働者を故郷に帰らせ地元で電気店を開店させるという計画をぶち上げ、実際に実行に移したものの、経営が素人でどこもうまくいかず、そのうち自然消滅してしまったということもあった。
iPhoneに搭載が予定される肝心の有機ELについても、鴻海子会社イノラックス社の競合である台湾AUOの受注が有力だとの見方もある。ただ、これまで見てきたように有機EL、インド、EVと鴻海が長期的で明確な戦略の線上でシャープ買収をとらえているのは明らか。シャープは鴻海の描いたビジョンに命運を賭けることになる。
最後に1つ。鴻海の中国工場で2010年、工員が10数人、連続で飛び降り自殺を図るという事態が発生。低賃金と職場や宿舎の劣悪な環境が原因だとして批判が集まった。同社の賃金や環境がさほどよくないということについては私も否定しない。ただ、「鴻海が中国に工場を設けていなければ、我々中国の若い世代は今ごろ路頭に迷っていたことだろう」と100万を超す就業機会を創出した同社を評価する声が、ほかならぬ労働者の側から上がっていたことを指摘しておきたい。
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