有機ELにも使えるシャープの技術

 さて、ここからは主に、鴻海の側から、同社がシャープを買収する目的について書いてみる。

 EMS業界や鴻海のお膝元である台湾で言われている買収の目的は、(1)シャープの液晶技術を応用し、iPhoneに有機ELディスプレーを供給する、(2)次の巨大市場と言われるインドでの製造と販売、(3)ガソリン車や電気自動車(EV)に搭載するディスプレイの供給、の3点だ。

 昨年11月、日本経済新聞の報道がきっかけで、アップルが2018年モデルのiPhoneから、ディスプレーにこれまでの液晶パネルをやめ有機ELを採用するとの観測が強まっている。その後、同12月にはブルームバーグが、アップルが有機ELを手がける開発センターを台湾に極秘裏に設立していたことをすっぱ抜き、iPhoneの有機EL搭載がさらに注目されるようになった。

 鴻海は現在、iPhoneの完成品組立の受注で圧倒的なシェアを誇っているほか、コネクター、金属筐体、プリント基板、タッチパネルなど主要部品の一部も供給している。半面、スマートフォンの重要部品の1つであるディスプレーでは、イノラックスという液晶子会社を持つものの、iPhoneが搭載する低温ポリシリコン(LTPS)液晶の供給は、韓国LGディスプレイ、ジャパンディスプレイ、シャープの3社の壁に阻まれ果たせないでいる。

 ただ、鴻海はスマートフォンのディスプレー受注で目立った実績が無いにもかかわらず、近年、LTPS工場への投資を積極的に進めてきた。台湾高雄に350億台湾ドル(約1190億円)を投じて工場を整備しているほか、中国の貴州省貴陽と河南省鄭州にそれぞれ1カ所ずつ建設するLTPS工場が2017年末から量産に入る予定だ。このうち鄭州工場の投資額について、地元紙『河南日報』(2015年11月9日付)は350億元(約6125億円)だと伝えている。

 日経新聞がiPhoneの有機EL採用を報じる直前の昨年11月上旬、ある台湾の著名なアップルウオッチャーは、iPhoneが有機ELパネルを採用する可能性は極めて低いとの見方を示したのだが、その根拠として挙げたのは、鴻海が河南省鄭州に巨費を投じてLTPS工場の設立を決めたばかりだということだった。鄭州には鴻海の子会社、冨士康科技(フォックスコン)が運営する世界最大のiPhone組立工場がある。鴻海が鄭州に設けるLTPS工場もiPhoneへの供給を目指したものであり、早晩、iPhoneが有機ELに変更するのであれば、鴻海が無駄な投資をするわけがない、というわけである。

 ところが最近になって、アップルがiPhoneに使う有機EL技術として、LTPSと酸化物半導体(IGZO)を融合したLTPO(Low Temperature Polycrystalline Oxide)と呼ぶ技術を開発中だとの観測が浮上し、注目を集めた。中国の群智諮詢という調査会社が今年2月3日に出したレポートで主張したもので、省電力に優れた酸化物と、製造コストは安いものの省電力に難のあるLTPSを融合する双方のいいとこ取りができる技術だと指摘した。IGZOといえば、シャープの代名詞的な技術。さらにLTPSでもシャープは鴻海を先行している。この指摘が出てEMS業界では、「2012年にいったん破談となったにもかかわらず、鴻海がシャープを諦めなかった理由はこれだったのか」という感想が広がった。さらに、鴻海の動向から、同社がかなり早い段階で、アップルがiPhoneに有機ELを搭載するという情報をつかみ、そのための準備を着々と進めてきたことになるとして、「鴻海恐るべし」の評価がさらに強くなったのである。

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