現代の中国において新聞やテレビなど従来からあるメディアは、中国共産党の宣伝機関である。だから、中国のマスコミが、自国の素晴らしさを大いに喧伝するような番組を作るのは、ある意味普通のことだし、与えられた役目を果たしているのだとも言える。こうした視点で日本のメディアが近年、「日本はすごい」という自己PRめいた番組を盛んに作るようになったこと、そして、政権にとって都合の悪い問題について大手マスコミにょる報道が極端に少ないことがあるという指摘が昨今、盛んに出ていることを改めて考えてみると、日本のメディアも、大きな力が定めた日本人のあるべき姿や素晴らしさを宣伝する役割を帯び始めているのではないか、と穿ったことを考えたくなる。

 テレビの影響力低下が言われて久しいが、それでもテレビによる「教育」効果には、少なくとも中国においては、まだまだ無視できないものがある。実際、上海での仕事を失って1年間、故郷の河南省の農村に帰っていた私の友人が、故郷でも仕事がなくヒマに飽かせてテレビばかり観て暮らしていた結果、本来、どちらかと言えば権力に批判的だった彼が、1年後に再会してみると、すっかり愛国主義者になっていて驚かされたことがある。彼が愛国主義者になった経緯は、このコラムの「激怒するゴジラと中国人の奇妙な沈黙 農民の中国礼賛を支える危うい楽観主義」の回で書いたのでここで詳しく触れることは避けるが、語り手が外国人か中国人であるかにかかわらず、中国のすごさを伝えるテレビ番組をたくさん観たのだということを彼は言っていた。外国人による日本礼賛の番組を繰り返し観ることが、日本人が自画像を描く上で、まったく影響しないとは言い切れないだろう。

中国でも時間厳守が広まっている

 さてここまで、外国人による「キミの国はすごい」的番組を語る際、私は「日本『は』中国に似てきた」ではなく、「日本『と』中国は似てきた」と意識して書いた。それは、「中国『も』日本に似てきた」ところがあるためである。

 中国で最近、デリバリーサービスの青年が、約束の時間に間に合わず、エレベーターの中でパニックになって泣き出してしまう様子を映した動画がネットで広まり話題になった。指定の時間に間に合わないと罰金を取られるのだという。

 中国では近年、ネット通販の急拡大等を背景に電動自転車を使った宅配便とレストランの出前サービスが猛烈な勢いで伸びている。そして、配達員の多くは、農村出身の人たちだ。近年の人件費の高騰で、「世界の工場」と言われた中国から製造業が東南アジア等に移る中、これまでこれら工場でライン工として働いたり、建設現場で肉体労働をしていたりした農村からの出稼ぎの人たちが、急台頭してきたこれら物流の配達員に流れているようである。