山田:いや、本当です。気にしていないというところがちょっと心配なんです。

内田:ここまで気にしないとさすがに何かあると思うんです。昨年末には、サンフランシスコ市が「慰安婦」像の設置を承認したことで、大阪市が姉妹都市を解消しましたけれども、日本はアジアから、そして世界から孤立していくんじゃないかなという気がしますね。

慰安婦問題は謝ればいい

山田:慰安婦のことに関しても、「終わったことなんだから謝罪はもういいだろう」みたいな。会ったときにちょっと謝ればいいと思うんですけどね。

内田:何なんですかね。ごめん、でいいじゃないですかね。慰安婦問題に関しては、韓国に最初に行ったときに新聞記者の人にインタビューをされました。「内田先生は慰安婦問題についてはどうお考えですか」と。「まことに申し訳ないことです。日本国民を代表してお詫びします」とさくっと謝罪しました。それでその話は終わりました。「では、次の質問ですけど」。そんなものですよね。謝れば、それでいいんです。「謝れば済むというものじゃない。誠意を見せろ、誠意を」とかごねるのは反社会勢力だけですよ。韓国に5年続けていってますけれど、後にも先にも慰安婦問題について聞かれたのはその1回だけです。後は話題になったこともありません。

 でも、謝るのは当然だと思います。日本が帝国主義国家として半島を植民地支配していたわけですからね、散々なことをやっていた。それは少しでも歴史を勉強すれば誰にだってわかる。自分がやったことじゃないんだけど、僕には国民国家の一員としては謝罪するにせよ、弁明するにせよ、日本を代表する権利と義務があると思っています。海外に行ったら、そこではいやでも国民国家を代表しなければならない。僕にその気があろうとなかろうと、先方は僕をその場においては「日本人代表」と見なすわけですから。

山田 泰司

山田:中国と日本の問題は、中国に住んでいると避けては通れません。普段は、中国人もそんな話をしませんけど、よっぽど親しくなって、ちょっとお酒が入ったときなんかに、意を決して僕に尋ねてくるみたいな感じなんですよね。

 そうなったときに、中国に対する侵略は申し訳なかったというようなことを言ったりします。ただ、日本ではそういう態度を取ると、がーっとネットでたたかれたりするんですけれども、よくよく考えてもらいたい。そういう単純な話ではなく、要はその問題を当事者の中国の人たちと面と向かって話したときに、あなた方はそういう話し方をするんですかということです。面と向かって話したら、相手のことをおもんばかって表現にも気を付ける。好き嫌いの話ではなく、何かの話をするときに、目の前に相手がいるときに、あなたはそういう表現を使うんですかと、そんな言い方をするんですかと、そういうところをただ言いたいんですが、なかなか分かってもらえない。

 日本の言論とか、メディアとか、特にネットは、まあ、ネットは匿名性もあってちょっと論外というところがあるんですが、相手の国の人が読まないだろうと考えて、本当に無自覚なところが大き過ぎる。そこは、何度も言っていきたいなと思っているんです。

内田:もう10年以上前だけれども、『国家の品格』という本がベストセラーになったことがありましたね。著者は、アメリカの大学で数学の先生を長くされていて、国際人という触れ込みでした。びっくりしたのは、アメリカの悪口がずらずらと書いてあったことです。国家の品格というのは「他国はダメで、うちは素晴らしい」という言い方で語られるものじゃないでしょう。他者からの評価なんだから。

 この本を読んだ海外の読者が「なるほど、日本人というのは品格の高い国民だ」と思ってもらえることを目指して書くのが筋だと思うんだけれど、どうもそうではなかった。著者は自分の本が英語なり中国語なりに翻訳されて海外の読者が読むという事態をまったく想定していないで、ドメスティックな読者だけに向かって書いていた。それに僕は本当に驚いたのです。

 長くアメリカにいて、自由に英語を操れる人が、自分が書くものが英語に訳されて、英語圏で読まれた時に、読者がどう思うかということを想定しないということに驚いて、それを書評に書いたんです。

山田:書評に書いたんですか。

内田:書きました。普段は書評でもできるだけいいところを探してほめるようにしているんですけれど、その時はそういう夜郎自大な態度が一番国の品格を下げることなのにと思って、つい書いてしまいました。

 これからは自動機械翻訳が進化していくわけですから、日本語で国内向けに発信したつもりのものでも、すぐにそれぞれの国の言葉に翻訳されて読むことが可能になります。そうなると、国内向けに書いて、「内輪のパーティー」で受けを狙うようなものを書くことについてはもう少し警戒心を持たなければならなくなると思うんですよね。今は、それで飯を食っている人たちがたくさんいますけど。

山田:飯が食えるんですよね。