山田:産業界の罪は大きいですね。
内田:大きいです。長期的に考えたら、今のビジネスモデルにとって使い勝手のいい人材だけを教育機関が生産し続けたら、産業構造が変化した時に対応できなくなる。特にイノベーションを考えたら、「いかにして知の多様性を担保するのか」は一国の未来にとっては死活的に重要なことのはずなんですけれど、日本の産業界は目先の人件費コストをどう切り下げるかしか考えなかった。
山田:そうですか。本当にビジョンがまったくないんですね。20年かけたんだから大変ですね。今から挽回しようとしても。

内田:今気がついて、教育の再生に取り組んでも、20年前のレベルに戻すまでに同じか、それ以上の歳月がかかるでしょう。だから、一刻も早く、今の教育行政について失敗を認めるべきなのですけれども、官僚は絶対に失敗を認めませんから。
京都大学の山極寿一総長とか、そういうはっきりとしたことを言っている人はぽつぽつといることはいるんですけれども、本当に少数ですよね。
山田:産業界ではまだ誰も言わないですか。
内田:産業界は相変わらずですよ。人文系や教育系の学科なんか要らないと公言する人がいくらもいますよ。
山田:いや、恐ろしい。どうしてそういう発想になるのか。本当に理解できない。
内田:頭が悪いんです。本気でどうやったらお金儲けができるかを考えたら、ものごとをロングスパンで考えるはずなんです。でも、頭が悪いから先のことは考えられない。今の日本のビジネスマンって本当、四半期ベースでしか考えてないですから。
山田:そうですね。
内田:後は野となれ山となれです。別にそれほど邪悪なわけじゃない。イデオロギー的に偏っているというのでもない。ただ頭が悪いだけなんです。自分の主観的な願望とか好き嫌いとか価値観をカッコに入れて、少し遠目から自分の置かれている環境を考えてみたら自分がどれほど愚かなことをしているかわかると思うんですけれど、そういう思考習慣がまったくない。
中国人には国境線の概念がない
山田:中国についていえば、とにかく中華思想は「言うだけ言ってみる」というようなところがある。だめだったら、「まあ、しょうがないか」みたいな。日本人には、中国の言っていることを真に受けすぎという部分が、とてもあると思うんです。強面でがーっと言われる、「怖い」みたいな感じで。
僕は日々、中国で暮らしていると、仕事でも生活でも日々「ばかも休み休み言え」と、そういうようなことの連続なんです。でも彼らはとにかく自分を主張してみる、言ってみる、だめだったらだめでしょうがないとすぐあきらめる。ですから、日本の皆さんもぜひ真に受けすぎないで、これが中国という国の習慣だからそれを理解すればいい。そのうえで、持ち上げるところは持ち上げて、風呂敷を広げさせてあげるなら広げさせてあげて、それで自分の益になるところを取ればいいというようなことを、一貫して言っているつもりなんですが、そこがどうも理解してもらえない。
内田:『増補版 街場の中国論』の中で一番分かってくれなかったのは、「中国人はおそらく国境線という概念がない」ということでした。どうしても理解してもらえなくて、いったい君は何を言っているんだという顔をされた。
山田:それはどういう人が言いますか。
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