情報遮断はどこかで壁を生み出す

山田:思い出したんですけれども、「Google」を遮断する中国というのがこれからどうなるのかと、先生がお書きになっていた。これは結構、大きい問題じゃないかと。

内田:大きい問題だと思いますね。

山田:一方で生身の人たちは日本に行く、アメリカに行く、ヨーロッパに行くという形で見聞を広めるというのはあると思うんです。その一方で中国国内での情報遮断というのが本当に最近ひどくなっている。「Google」もできない、「Facebook」もできない、「Twitter」もできない。海外の情報が見られなくてどうなるんだと。

内田:かなり危機的だと思います。これからAIが導入されて、シンギュラリティ(技術的特異点)を迎えて、世界の産業構造も社会制度も一変すると思うんです。ネット環境が不備な状態でその変化に果たしてキャッチアップできるのか。

 社会が劇的に変化する時には、「起きた変化に最適化する」能力をいくら開発しても、もう間に合わない。それよりは自分の方から「こういう仕組みにしたらどうですか」というアイデアを出して、先んじて自分で「世界標準」を決めてしまう方がずっと効率的なんです。一度後手に回ると、あとはとにかく「変化にキャッチアップする」しかできない。でも、変化の激しい局面でひたすらキャッチアップに徹するのって、疲れるし、費用対効果が悪いし、どんどん遅れてゆく。

 日本の「グローバル化」が悲惨なことになっているのは、「変化に最適化する」ということばかり20年もやってきたせいで、新しいものを何も産み出せなくなったからです。「新しいものを産み出す」才能を軽んじるどころか圧殺してきましたから。「バスに乗り遅れるな」と言っている人間は絶対にバスを運転する立場にも、行き先を決める立場にもなることができない。それがわかっていないんです。

 世界標準を自分で作るのが一番話が速いし、実は楽なんです。イノベーションが一番楽で、キャッチアップとか成功事例の模倣が一番つらい。だから、自分たちでイノベーションを担った方がいいんです。もちろんほとんどは「スカ」なんですけれど、それでも「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」で、どんどん数を出してゆけば、どれかが当たってそれが世界標準になったら儲けもの。イノベーションというのはそういうものですよ。

 今の中国は人口数がすごいし、お金もあるので、キャッチアップには有利なポジションです。他人が創ったモデルを取り込んで、換骨奪胎することで急成長を遂げた。でも、人海戦術と金で他人が考え出した最新流行を取り込んでゆくという手法は、必ずどこかで壁に当たると思うんですよ。「Google」や「Twitter」って、ジャンクなものも含めて世の中の玉石混淆・有象無象の情報が飛び交っているところです。だから、そこに身をさらしていると、ものの弾みで全く新しいアイデアが湧いてくる可能性がある。それを遮断するというのは、やっぱり知的生産性ということで言うと、大きなハンディになる可能性があると思いますね。

日本と中国の比較は意味がない

山田:なるほど。一方で、アリババに代表されるようなITの大企業が中国にいっぱいあって、AIの研究とかでは日本より先にいっているといわれています。

内田:日本よりはずっと先にいっています。でも、日本と比べても仕方ないですよ。日本はもう科学技術国としては二流国に没落しましたから。

山田:要は日本と比較してはだめということなんですね。

内田:日本と中国を比較することは、もう何の意味もないです。日本はもうどの分野についても「世界標準」となるものをほとんど持っていませんから。政治がダメなのは元からですけれど、それに加えて経済がダメ、最後の頼みの綱だった学術もダメになりましたから。

山田:そうですか。

内田:学術の劣化はすさまじいですからね。この10年間で。

 日本の教育研究水準は20世紀末までは東アジアではダントツだったんですよ。ところが今は中国に抜かれ、韓国に抜かれ、台湾に抜かれ、シンガポールにも抜かれという状況です。学術的発信力の劣化は致命的です。

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