哲学者で『街場の中国論』をはじめ多くの著書を持つ内田樹さんにお聞きする2回目。前回は、現在の中国を内田さんがどのように見ているかをお聞きするとともに、中国がなぜ西に向かうのかなどについて解説いただいた。今回は、グローバル化を進めるうえで、日中が抱えるそれぞれの問題などについて、意見を伺った。

(前回の記事「内田樹氏に改めて聞く『街場の中国論』」から読む)

内田 樹(うちだ・たつる)
1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。神戸女学院大学文学部助教授・教授を経て2011年に退職。現在、神戸女学院大学名誉教授。京都精華大学客員教授。昭和大学理事。神戸市内で武道と哲学のための私塾「凱風館」を主宰。合気道七段。執筆活動全般について第三回伊丹十三賞を受賞。主な著書に『ローカリズム宣言』(デコ)、 『街場の天皇論』(東洋経済新報社)、『アジア辺境論 これが日本の生きる道』(集英社)、『増補版 街場の中国論』(ミシマ社)など。(写真=大亀京助、以下同)

山田:内田さんはご退官なされてもう何年かたちますけれども、最近の学生さんを教えていらっしゃった。日本の若い人も、そういうような興味の持ち方を中国や韓国に対してしていますか。

内田:してないですね。いや、中国や韓国についてはほとんど情報を持ってないんじゃないかな。

山田:そうですかね。興味もない。

内田:興味がないというか。もう若い人は新聞を読まないし、テレビも見ないし、ニュースソースはネットだけですから。

山田:内田さんがお書きになった本も読まないですか。

内田:僕の本なんか読まないでしょう。ネットからしか情報を取らない人たちは本当に「たこつぼ」なんですよね。恐ろしいほど物を知らないです。

 でも、それは若い人に限ったことじゃなくて、40代、50代ぐらいの人としゃべっていても、信じられないぐらい物を知らないなと感じることがありますからね。中学校の授業を受けていたら、それくらい知っているだろうということを知らないですから。特に歴史とか地理とか、ほんとうに無知ですね。

山田:とにかく小学校でも中学校でも高校でもそうですけど、明治維新ぐらいまでは教えられますけど、そこでだいたいおしまいですよね。

内田:近現代史は教えないんです。

山田:教えてくれないですね。

内田:だから、世界の近現代史についても知らないんですよ。過去100年ぐらいの歴史を知らない。過去100年の世界の歴史を知らないで「グローバル化」とかいっているわけですからね、恐ろしいですよ。

山田:本当に。それでは日中戦争のこととか、相手の立場に立って考えられるわけがないですね。

内田:本当にそうだと思います。想像力も足りないとは思いますけれど、基本にあるのは無知ですよね。今みたいに歴史修正主義がこれだけ跳梁跋扈できるというのも、一般の人があまりにも歴史的事実を知らないからなんです。だから、「みんな知らないだろうが、実は歴史的事実はこうなんだ」と断言されると、簡単に「ああ、そうなんだ」と信じてしまう。多少でも知識があれば「自分が知っている話と違う」ということで頭が混乱するということがあるはずですけれど、葛藤がまったくない。もとが無知だから。これは怖いですよね。