「だから、1カ月ぐらい休んでも、お客さんはすぐに取り戻せると高をくくっていたの。ところが11月に上海に戻ってみると、完全に状況が変わっていた。家事を頼むお金持ちが、減っていたのよ」と言うのだ。

 仕事が減っているのはやはり景気が悪くなっているから? と尋ねると、「家政婦仲間ではそういう認識。掃除だけ頼まれていた家から仕事を打ち切られたとか、掃除と食事の準備を頼まれていた家から『食事だけでいいわ』と言われたとか。そんな話がこの2カ月で急に増えた」。ハンさん自身も、最高で8軒あった固定客は2軒に減った。「いくら1カ月休んでいたからといって、2軒から増やせないとは思いもしなかった。次男が結婚して初めての春節だから、両親として帰省してくるお嫁さんを実家で迎えないわけにはいかない。でも、上海に残って少しでも稼ぎたいというのが本音よ」。

 ハンさんの夫も、上海の都心部に取り壊すべき物件がほとんど無くなり仕事が減ったため、この数カ月はつてを頼って、富裕層を中心に広がり始めた床暖房の敷設工事をやり始めた。だが、解体の仕事が毎日あったころの月収には届かない状況が続いているという。

「仕事奪われるの怖い」 帰省できない出稼ぎ層

 仕事が減っていると証言する家政婦はハンさんだけではない。やはり安徽省の農村出身で、シングルマザーとして4歳の一人娘を育てているチョウさんもその1人だ。チョウさんは、過去2年、スマートフォンやパソコンが日本でも人気の台湾メーカーの上海工場で夜勤の仕事をしていたが、夜中に12時間働いても月収が4000元(7万2000円)に満たないため、週末に家政婦をして家計の足しにしていた。ところが、過去2年は2軒あった得意先が、昨年の11月から1軒に減ったのだという。「切る理由は言われなかったけど、景気が悪くなったことが関係しているのは間違いないと思う」。危機感を覚えたチョウさんは、今年の春節は子供だけを帰省させ、自分は上海に残って家政婦の口を探すことにした。ただ、結果は、「1軒も見つからなかった」とチョウさんは不安そうな顔で唇をかんだ。

 上海のメディア『東方網』は2月4日付で、今年の春節は家政婦の時給が50元(900円)と通常の25元(450円)の倍になったと報じている。これだけを見ると家政婦は売り手市場のように思えるが、チョウさんは、「ひとくちに家政婦といっても、料理、洗濯、掃除など家事の需要と、老人や身障者の介護、乳児や子供の世話の需要に分かれる。今年、春節の相場が倍になったのは、家政婦がいなければ家族が本当に困ってしまう介護の家政婦の方。家事だけなら同じ25元のままでしたよ」と実情を語る。

 先に紹介した習近平夫妻のポスターを自宅に貼る家々がある安徽省の古村落から上海に出稼ぎに来て家政婦をして10年目になるというオウさんも、「春節は、去年までなら上海に戻るのは、早くても法定休日最終日の初六(春節6日目)。長いときには元宵節(春節15日目)まで田舎の自宅にいた。でも今年は初四(春節4日目)には上海に戻る」と言う。例年より前倒しで仕事を再開する訳を尋ねると、「景気が悪くなって仕事が減り始めていることを心配して、今年は春節に帰省しない家政婦が多いと聞いたから。他人に仕事を取られると困る。私は今のお得意さんとは長い付き合いだが、安心はできない。仕事が減れば、音楽大学に通う子供に仕送りをするのも苦しくなる」。