瀬口:中国の優秀な指導層であれば、すぐ分かりますよね、そのリスクの怖さは。

 たぶんかつての中国の指導者たちが一番怖かったのは、ルーマニアで独裁政治を行い最後は公開処刑されたチャウシェスク、ああはなりたくないなということだったと思います。今、たぶん怖いと思うのは、トランプやサンダースやピケティのような人たちが出て、礼賛されるような国に中国がなったら共産党はどうなるんだということです。

 その意識がみんなに共有された段階で出てきたのが、今回の習近平主席の党大会でのスピーチなのではないかと思います。あれを見ると脱貧だとか国民の獲得感だとか、一般庶民に対しての配慮が随所にあふれていますよね。経済発展だけじゃなくて困った人たちへの対応を考えています。これはものすごく大きな変化が起きていると私は思っています。

山田:あの3時間のスピーチの背景には、そういうこともあったのですね。

日本は一番国民に優しい国

瀬口:世界の国の中で、一番国民に優しい先進国って日本なんです。制度としてはそこまで優しくなっていない点もいっぱいありますが、少なくとも企業経営者は間違いなく従業員を大切にしますよね。例えば企業が倒産の危機に瀕したとき、日本はまず社長が自分の給与をカットしますよね。自分は半分カット、役員は3割カット、部長は10%カット。その次にどうにもならなかったら課長の給与をカット。従業員の給与やリストラに手をつけるときは、社長が辞任しますよね。日本では当然のことだと思われていますが、そんな会社は世界中どこを探したって、中国にも韓国にももちろん欧米にもどこにもないわけですよ。

 この企業文化というのが、日本社会の安定の根底にあるわけで、欧米、韓国、中国がみんな社会不安になりそうになっている中で、日本には反丸の内も反大手町も反霞が関も反永田町も聞いたことがないですよね。みんな政治家や役人や経営者をあまり尊敬はしてないですけれども、でも社会は安定しています。

 これはなぜか。政治家が特別優秀か、No。行政マンが特別優秀か、No。企業経営者が特別優秀か、No。もし企業経営者が優秀だったら、もっと日本の企業は世界で羽ばたいているはず。マーケティング能力が一番低い国ですから経営者が特別優秀なわけがない。

 でも、企業の従業員や社会の人々はみんな安心して働いている。なぜか。みんなのことを真剣に考える経営者というのが立派な経営者なんだというのが、国民の心の中に擦り込まれているんです。だから誰が経営者になってもそれ以外のことはできない国になっている。

 人口が1億3000万人もいてほかの国とは独立した文明圏を形成しているので、世界とは違う発想が日本の中で生き残っているんです。それが今の日本の企業文化になっている。社会への貢献、長期の信用保持、従業員の日々の安心安全、幸せ、自己実現、これらを一番大事な経営目標と考えるのが日本の経営者。

 欧米だったらまず株価を上げる、それから経営者の給料を上げる、そっちが先ですよね。日本の企業は従業員とカスタマーの幸せのために社会に貢献することがまず一番。そのための手段としてもうけなくちゃ会社が続かないから、株価も上げるし利益も稼ぐ。しかし、それはあくまでも中間目標であって、ゴールじゃない。

 日本の経営者の年収はほとんどの企業が1億円以下。新入社員の年収が300万円だとすると30倍程度しか開かない。アメリカでは一番もうける経営者は新入社員の約1000倍、あるいはもっと取りますよね。中国も似たようなものです、1000倍ぐらい離れている。日本だけが30倍程度で止まっているんです。

(撮影=瀬口清之)