中国国家統計局は1月18日、2017年の経済成長率(実質GDP=国内総生産の伸び)が6.9%だったと発表した。成長率が前年を上回ったのは7年ぶり。政府の目標は「6.5%前後」であったが、世界経済の回復により輸出が好転するなどして、予想を上回る結果となった。

 では果たして今後、中国経済は順調に成長していくのか。私のみならず、中国ビジネスに関わるビジネスマンなら、おおいに気になるところであろう。今回は、中国のマクロ経済に精通し、毎月のように中国を訪問して経済の実態について調査しているキヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之氏に今後の中国について分析していただいた。

山田:瀬口さんの最新のリポートを拝見しました。その中で日本の中国ビジネスが若干好転しているという傾向があり、一方で欧米はその逆といったことをお書きになっており、興味深く読みました。具体的にはどのような変化が見えてきているのでしょう。

<span class="fontBold">瀬口 清之</span><br />キヤノングローバル戦略研究所研究主幹<br />1982年、東京大学経済学部を卒業、日本銀行に入行。2004年、米国ランド研究所に派遣(International Visiting Fellow)。2006年に北京事務所長、2008年に国際局企画役。2009年からキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。2010年、アジアブリッジを設立して代表取締役に就任。2016年から国連アジア太平洋食品安全プロジェクトシニアアドバイザーを兼務。(写真=吉成大輔、以下同)
瀬口 清之
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1982年、東京大学経済学部を卒業、日本銀行に入行。2004年、米国ランド研究所に派遣(International Visiting Fellow)。2006年に北京事務所長、2008年に国際局企画役。2009年からキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。2010年、アジアブリッジを設立して代表取締役に就任。2016年から国連アジア太平洋食品安全プロジェクトシニアアドバイザーを兼務。(写真=吉成大輔、以下同)

瀬口:最初に変わってきているなと気付きはじめたのは、2016年12月にホンダが武漢の第3工場を着工すると発表したときです。稼働は2019年の前半の予定です。この発表がすごくインパクトがありました。

 もともとうわさはあったのです。実はその1年前、2015年10月ぐらいには発表になるだろうと思われていました。ただ、後になっていろいろな方のお話を伺うと、ホンダ自身が判断に迷っていた。ホンダの周りのサプライチェーンに関係する方々が「本当に大丈夫なんですか?」ということを非常に強くおっしゃって、それがやっぱりホンダ自身の決断を鈍らせる要因にもなっていた。

山田:サプライヤーの不安はどんな点にあったのでしょう。

瀬口:ホンダは、2012年9月の尖閣諸島の問題が激化する前に、中国において大きな投資をして新しい工場を動かしました。その後に尖閣諸島問題が激化して、中国におけるホンダ車の販売は他の日本車メーカー同様、2013年、2014年とこの2年間は非常に厳しい状況だったんです。2015年ぐらいから回復しはじめて、ようやく2016年から正常に戻った感じです。

 ホンダの各工場の稼働率が上がらなかったときは、サプライヤーの工場の稼働率もみんな上がらなくなった。「ホンダに付き合って中国に工場を造ったのに、ひどいじゃないか」と不満がまん延していました。

 ホンダは2回も同じ失敗はできないので、すごく慎重になっていました。だから決断を1年遅らせた。けれども、その間もホンダのクルマはますます売れて、絶好調が続いて、売るクルマが足りないという状態。40万台ぐらいの生産能力の工場で、70万台を造っているんです。

 普通だったら2交代の工場を、3交代にして超フル稼働態勢。今は、めちゃくちゃ無理をして造っているという状態らしいです。だから新工場の投資へと結びついた。

山田:それは大増産ですね。

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