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鉄くずを売りに行く

 2018年12月中旬のある日。

 ゼンカイさんが、「鉄くずと段ボールを売りに行くからついてこないか?」と誘ってくれた。直接言いはしないものの、米中貿易戦争と農民工の仕事との関係に私が関心を持っているのを知り、長年の友人のよしみで、現状を実地に見せてやろうと配慮してくれたのだろう。

鉄くずの回収業者はかつてのスラム街にあった(上海光復西路。2018年12月)

 「数年前までなら、リヤカーの荷台に載せていってやれたけど、今は取り締まりが厳しくてすぐ罰金を取られてしまうから、現場で落ち合おう」と、申し訳なさそうな顔をしているに違いないゼンカイさんを思い浮かべながら電話を切り、教えられた住所を頼りにして午後7時、上海を東西に貫く蘇州河のほとりにある回収業者のもとへたどり着いた。そこはかつて光復里という上海有数のスラム街があった場所だったが、そのスラム街も3年前に取り壊された。回収業者の入り口には野良犬が3匹いて、人が通る度に狂ったように吠える。上海の農民工の住み家や仕事場の周囲には必ずと言っていいほど野良犬がいるが、ここも同じだった。

 日中にうっすらと積もるほどの雪が舞ったその日。スマホの天気アプリが体感気温マイナス1℃を示す中、蘇州河を伝って上がってくる重く湿った風に震えながら待つこと1時間、午後8時になって、電動リヤカーの荷台に鉄くずと段ボールを積み上げたゼンカイさんと、助手として着いてきた奥さんの電動自転車がやって来た。

 荷をほどいてまず段ボール、次に鉄くずを秤に乗せる。ゼンカイさんは騙されまいと食い入るように秤の目盛りに見入っていた。

損が出ないよう、リヤカーを慎重に秤に乗せる(上海光復西路。2018年12月)

 300キロ以上の荷物をリヤカーで引いてきたゼンカイさんのこの日の収穫は、段ボールが89元、鉄くずが320元の、締めて409元だった。

 「午後8時を過ぎれば取り締まりも緩くなるから家まで送るよ」とゼンカイさんがリヤカーの荷台に載せてくれた。湿った冷たい風に顔や体に突き刺されて震えながら話を聞く。

 「鉄は1キロ1.2~1.3元。米中貿易戦争後も別に安くなってないよ」とゼンカイさんは言う。

 今日ほどの収入が毎日あれば、月収は数年前のピーク時に届く。ただゼンカイさんが「最近は稼ぐのが難しくなった」というのを聞くと、今日ほど稼げる日はそうそうないのだろう。

 でも、ゼンカイさんは嬉しそうだ。