高い目標を持とう。しばしば聞く言葉です。ただ、実際に考えてみると、色々なことが気になり、高い目標がなかなか出てこないものです。
高い目標を持つために必要な思考パターンについて今回書きました。鷲沢社長と蝶野会長の会話を読んでみてください。
●蝶野会長:「もうすぐ今年も終わりです。社長とのお付き合いも終わってしまうのでしょうか」
○鷲沢社長:「本当にそうだ。もう終わりだ」
●蝶野会長:「以前社長をされていた広告代理店に戻られてからも定期的にお会いできませんか。顧問料とか、あまり出せないかもしれませんが」
○鷲沢社長:「うん……。顧問料はいらない」
●蝶野会長:「難しいでしょうか」
○鷲沢社長:「難しいかと言われると……」
●蝶野会長:「そうですか! それなら今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「ところで」
○鷲沢社長:「ん」
「ずっと疑問に思っていたことがあります」
●蝶野会長:「ずっと疑問に思っていたことがあります」
○鷲沢社長:「なんだ」
●蝶野会長:「聞いてもいいですか」
○鷲沢社長:「いいよ」
●蝶野会長:「どうして社長は当社のような創業3年目のベンチャー企業に来てくださったのですか」
○鷲沢社長:「なんだ、いきなり」
●蝶野会長:「報酬もすごく少なかったのに」
○鷲沢社長:「そんなことか」
●蝶野会長:「メガバンクでかなりのご実績を上げた後、広告代理店の社長をしていた。上場企業の経営をみてほしいと言われることもあったでしょう」
○鷲沢社長:「なかったわけじゃない」
●蝶野会長:「やっぱり。最初は私が開発したフィンテックアプリに興味があるのかと思っていました」
○鷲沢社長:「まるで興味がない」
●蝶野会長:「そうですよね。本当に興味がなさそうでした」
○鷲沢社長:「だが可能性を感じた。君のような起業家が日本を変えてくれそうだと」
●蝶野会長:「……」
「最後に私から質問がある」
○鷲沢社長:「私への質問はもういいだろう。それより最後に私から質問がある」
●蝶野会長:「はい。緊張します」
○鷲沢社長:「今後、君はどんな目標を掲げていくんだ」
●蝶野会長:「私の目標ですか」
○鷲沢社長:「そうだ。君の口から高い目標を聞いてみたい」
●蝶野会長:「まずは私が開発したフィンテックのアプリを多くの人、企業に使ってもらえるよう努力します」
○鷲沢社長:「おい」
●蝶野会長:「え」
○鷲沢社長:「そんなものは目標ではない」
●蝶野会長:「ええ!」
○鷲沢社長:「これまで私から何を習ってきた。『まずは』と言うな『まずは』と」
●蝶野会長:「そうでした」
○鷲沢社長:「今期の目標を営業に聞いて、『まずは一所懸命お客様をまわります』と答えたら君はどう思う」
●蝶野会長:「すいません」
○鷲沢社長:「ベンチャーには資金が必要だ。出資してくれるかもしれない人から経営ビジョンを聞かれて、そんな受け答えをしていたら1円も入らん」
●蝶野会長:「わ、わかりました」
○鷲沢社長:「この会社の資産はひとつだけだ」
●蝶野会長:「……」
「情熱資産を積み上げろ」
○鷲沢社長:「『情熱資産』だ」
●蝶野会長:「じょ、情熱資産……」
○鷲沢社長:「君の熱い気持ちを語れ! ベンチャー企業のトップなら情熱資産をしっかりと積み上げ、その資産で金や人を引き寄せろ」
●蝶野会長:「わかりました」
○鷲沢社長:「もう一度聞く。君の目標はなんだ」
●蝶野会長:「日本を代表するフィンテック企業にします」
○鷲沢社長:「目標が低すぎる」
●蝶野会長:「フィンテックだけじゃありません。日本を代表するベンチャー企業にします」
○鷲沢社長:「甘い」
●蝶野会長:「世界有数のフィンテック企業になります」
○鷲沢社長:「熱いものをまるで感じない」
●蝶野会長:「世界ナンバーワンになります」
○鷲沢社長:「つまらん。誰もできなかったことをやれ!」
●蝶野会長:「だ、誰も……」
○鷲沢社長:「世界ナンバーワンなんて誰でも言える」
●蝶野会長:「誰でも……」
○鷲沢社長:「他社や他人と比べて成り立つ目標をつくるな。ナンバーワンと言ったらナンバーツー以下を意識することになる」
●蝶野会長:「そ、そうですね」
「君は何のために起業した」
○鷲沢社長:「君は何のために起業した」
●蝶野会長:「日本を元気にしたかったからです」
○鷲沢社長:「なぜ」
●蝶野会長:「父は政治家でした。日本を変えようと政治の世界に足を踏み入れたのに――」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「政争に敗れ、志なかばで亡くなりました」
○鷲沢社長:「……そうか」
●蝶野会長:「父の意志を受け継ぎたい。政治の道ではなく、別の道で日本を変えたいと思いました」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「父が亡くなったのは中学2年のとき、それから私はほとんど部屋に引きこもってパソコンの前で過ごしました」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「自分にできることはアプリを作ることくらい。でも、起業して世界が変わりました。大きなチャンスをいただけたのです」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「だから私は自分の技術とアプリで日本を変えます」
「日本のGDPを2倍にします」
○鷲沢社長:「どう変える。目標がいるぞ」
●蝶野会長:「日本のGDPを2倍にします!」
○鷲沢社長:「お」
●蝶野会長:「日本のGDPを2倍にします! どうやったらいいか、まだわかりませんが、それぐらいの気持ちでやります」
○鷲沢社長:「おお」
●蝶野会長:「鷲沢社長から予材管理を教えてもらいました。目標を達成させるためには、目標の2倍の営業の材料を予め仕込まなければならない、と」
○鷲沢社長:「うん」
●蝶野会長:「だから私は日本のGDPを2倍にするために、今のGDPの4倍の予材を考えます」
○鷲沢社長:「す」
●蝶野会長:「絶対にやります。絶対達成します」
○鷲沢社長:「すごい」
●蝶野会長:「ありがとうございます、鷲沢社長。おかげで目が覚めました」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「現状維持バイアスがはずれました」
○鷲沢社長:「最後に君からそんな言葉を聞けて本当に嬉しいよ」
●蝶野会長:「これからも見ていてください。絶対達成しますから」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「社長!」
○鷲沢社長:「悪い」
●蝶野会長:「え」
○鷲沢社長:「悪いが見届けることはできない」
●蝶野会長:「ど、どうしたのですか」
○鷲沢社長:「来年から広告代理店に戻ると言ったが違う」
●蝶野会長:「ど、どういうことですか」
○鷲沢社長:「もう長くない」
●蝶野会長:「――!」
○鷲沢社長:「最後の最後に若き経営者の大きな熱情に触れられて本当に幸せだ」
●蝶野会長:「……社長」
○鷲沢社長:「ありがとう」
比較思考に陥るな
「世界で最も高いビルを建設してほしい。君だったら、どれぐらいの高さで建てる?」
こう質問されたとき、多くの人は次のように考えます。
「今、世界1位のビルの高さは何メートルだろう」
こういう思考パターンでは本当の意味で高い目標を掲げることはできません。
世界一の高層ビルはドバイのブルジュ・ハリファ(828メートル)です。この情報を知っていれば「850メートルのビルを建てる」「1000メートルを超えれば世界一だ」と答えられるでしょう。ですがこれを本当の意味で高い目標と呼べるでしょうか。
この情報を知らなければ、どうでしょう。「いま世界一のビルがどれだけの高さかわからないから答えようがない」と言う人が多いのではないでしょうか。目標どころではなくなります。
すでに存在した何かと比較する思考パターンに慣れてしまっていると新しいこと、本当に価値が高いことに挑戦できません。
真の意味で高い目標を立てられる人は比較対象など気にしません。実現するかどうかは別にして「高さ100キロメートルのビルを建てれば世界一だ」「最上階に宇宙エレベータを取り付け、宇宙まで行けるようにする」といった目標を瞬時に答えます。
こういう思考パターンの人がイノベーションを起こすのです。ここぞという目標を考えるとき、比較思考に陥っていないか、気を付けましょう。
2014年1月からスタートした本連載「絶対達成2分間バトル」は今回をもって終了いたします。
全232回、5年にわたり付き合ってくださった読者の皆さまには感謝の気持ちしかありません。
コラムは終わってしまいますが、今後も「絶対達成スピリッツ」をもって、日本経済の発展に寄与していきたいと存じます。
またどこかでお会いしましょう。長い間、ありがとうございました。
Powered by リゾーム?