○鷲沢社長:「ああ」

●蝶野会長:「ただ、社員の自主性はやはり尊重したいと思っています」

○鷲沢社長:「確かに」

●蝶野会長:「……え!」

○鷲沢社長:「社員の自主性は尊重したほうがいい」

●蝶野会長:「そ、そうなのですか。『部下に自主性など期待するな』と言っていませんでしたか」

○鷲沢社長:「言っている。ただし、色々な社員がいるし、色々なケースがある。社員のその時の調子にもよるだろう」

●蝶野会長:「と言いますと」

○鷲沢社長:「モチベーションだってそうだ。すべてのケースでモチベーションなどいらないと言ったわけではない」

●蝶野会長:「ケースバイケースということですか」

○鷲沢社長:「当たり前だ」

●蝶野会長:「うーん」

○鷲沢社長:「おいおい。心配になってきた。私がいなくて本当に大丈夫か。社長としてやってくる球田は剛腕だぞ」

●蝶野会長:「先が思いやられてきました」

○鷲沢社長:「落ち着いてよく考えろ。すべてにおいてモチベーションも自主性もいらない。そんな乱暴なことを言っているわけではない」

●蝶野会長:「……」

モチベーションは道具、使い方を頭に入れよ

○鷲沢社長:「モチベーションも自主性も道具みたいなものだ。どんなときに、その道具が必要か、頭にちゃんと入ってないと、せっかくの道具も無駄になる。そう言ってきただけだ」

●蝶野会長:「おさらいさせてください。ええと、やって当たり前のことをやるときにモチベーションなどいらない、でしたよね」

○鷲沢社長:「お客様のところへ約束の時間通りに到着する。当たり前のことだからモチベーションなどいらない」

●蝶野会長:「決められた回数の顧客訪問をこなすのも当たり前です」

○鷲沢社長:「会長は英語を勉強したいと言っていましたね」

●蝶野会長:「はい」

○鷲沢社長:「それを私が聞いたのは何カ月も前だ。だが、いまだに勉強を始めていない」

●蝶野会長:「なんだか目の前の仕事に追われてしまって。英語は高校時代にかなり勉強したので、もう一回やり直したいのですが」

○鷲沢社長:「今のあなたにとって『英語の勉強』はやって当り前のことではない。それならモチベーションが必要だ」

●蝶野会長:「単にやりたい、ではなく、もう少し強い動機付けが必要ということですね」

○鷲沢社長:「今後、あなたのアプリを海外でも売っていく。開発者のあなた自身が英語でプレゼンテーションする。例えばそういう話だ。無理に仕事に絡めなくてもいいが」

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