「勘」と「度胸」と「出たとこ勝負」ではやっていけない時代です。勝つためにはどの数字を意識すべきか。結果を出すにはどんな指標に着目すべきか。それを考えなければなりません。
これはスポーツの世界も営業の世界も同じです。鷲沢社長と柳本課長との会話を読んでください。
●柳本課長:「社長! 聞きましたよ。新しいコンサルタントが来るそうですね」
○鷲沢社長:「なんだ。いま知ったのか」
●柳本課長:「前のコンサルタントはどうしたのですか」
○鷲沢社長:「小鹿さんの契約期間が切れたから別の人にお願いした」
●柳本課長:「え……」
○鷲沢社長:「続投をお願いしたのだが、小鹿さんは忙しい人なんだ。色々な会社を支援している。当社より業績の悪い会社があって、そちらの建て直しをしなくてはいけないらしい」
●柳本課長:「そうでしたか。今度のコンサルタントはどんな人ですか」
○鷲沢社長:「大リーグに精通している」
●柳本課長:「はあ?」
○鷲沢社長:「私が先月、アメリカまで行って直接交渉してきた。すごいコンサルタントだよ」
●柳本課長:「ちょ、ちょっと待ってください。当社は広告代理店ですよ、しかも日本の。プロ野球チームじゃありませんし、ましてや大リーグとか関係ないでしょう」
○鷲沢社長:「営業チームも野球チームもよく似ている」
●柳本課長:「ええっ」
○鷲沢社長:「どうした」
●柳本課長:「それっておかしくないですか。営業目標の2倍の材料を予め仕込んで目標を絶対達成させろと言っていたじゃないですか」
○鷲沢社長:「そうだ。『予材管理』だ」
●柳本課長:「私は最初、予材管理がよくわからなくて反抗してきました。しかしコンサルタントの小鹿さんに社長の意図をうまく翻訳してもらって、ようやく理解してきたところです」
○鷲沢社長:「小鹿さんのおかげだ」
●柳本課長:「それなのにもう方針転換だなんて」
「予材管理はセイバーメトリクスによく似ている」
○鷲沢社長:「方針転換なんてしとらん。予材管理は私のポリシーだ。絶対に譲らない。目標は絶対達成させるものだ」
●柳本課長:「じゃあ、どうして大リーグとか野球とか出てくるのですか」
○鷲沢社長:「セイバーメトリクスだ」
●柳本課長:「は? セイバー?」
○鷲沢社長:「予材管理はセイバーメトリクスによく似ている」
●柳本課長:「どういうことですか。そもそもセイバーメトリクスって何ですか」
○鷲沢社長:「データを使って野球を分析し、チームを勝利に、そして優勝に導く手法だ。野球は数字のスポーツと言うだろう。数字を眺めているだけで結構楽しい」
●柳本課長:「防御率とかセーブポイントとか打率とか盗塁数とか、確かに色々あって話題になりますね」
○鷲沢社長:「試合の勝ち負けだけでなく、それぞれの選手がどれぐらいの数字を残したのか。数字で細かく表現され、記録される」
●柳本課長:「試合の結果とは別についつい新聞か何かでチェックしてしまいます」
○鷲沢社長:「セイバーメトリクスで最も重要視されている指標を知っているか」
●柳本課長:「いや……ピッチャーの勝利数とか」
○鷲沢社長:「確かにピッチャーがどれぐらい勝ち星を上げるのか、それは大事だな。しかし違う。答えはOPSといって、出塁率と長打率を足した指標だ。OPSが高い選手がいるチームのほうが試合に勝つ確率も高くなる」
●柳本課長:「それはそうでしょう、というか、そんな単純な話ですか」
○鷲沢社長:「もちろん試合で勝つにはそれだけでは済まない。ただ、こういう指標や考え方がある、ということは大いに参考になる」
●柳本課長:「出塁率というとヒットやホームランを打つだけではなく、四球を選んで出塁した数も含めるのですか」
○鷲沢社長:「そうだ。だから選球眼が求められる。それから犠牲フライの貢献も入ってくる」
「野球もデータ。営業もデータ」
●柳本課長:「ただ、客からすると四球を選ぶより、かっとばして欲しいですが。フォアボールなんか待っていなくて打てよ、と私なんか言いたくなります」
○鷲沢社長:「気持ちはわかる。しかし得点との相関関係をOPSと打率だけとを比較すると、OPSのほうが高い」
●柳本課長:「そうかもしれませんが、営業と何か関係があるのですか。新しいコンサルタントは当社の営業を支援してくれるのですよね」
○鷲沢社長:「そうだ。球田(きゅうだ)コンサルタントの指導は厳しくなるぞ。とにかく徹底的に数字を見るからな」
●柳本課長:「達成率でしたら今でも十分、社長や部長から言われていますが」
○鷲沢社長:「違う。さっき言った通り、OPSだ」
●柳本課長:「ええと営業にOPSがどう関係するのですか」
○鷲沢社長:「まず出塁率だ。打てる球が来たら打て。しかしボール球のときは我慢しろ。なんでもかんでもバットを振り回せばいいってもんじゃない」
●柳本課長:「ははあ、なるほど、相手がその気になってもいないのに売り込むなって、そういうことですね」
○鷲沢社長:「そうだ。気の利いたトークができなくてもいい。しかし、相手の気分を害すようなことはするな。営業の基本は顔と名前を憶えてもらうことだ」
●柳本課長:「単純接触効果ですね」
○鷲沢社長:「テレビCMと同じ。いかに同じビジュアルを見せ続けるか、だ。単純接触を繰り返していくうちに関係構築ができていく。そうしてから、はじめて打ちにいけ」
●柳本課長:「なるほど、そう考えれば予材管理と矛盾はしませんね。営業の種をまいて水をかけ続ける。辛抱強く待っていれば、いい球がくる時がある。そこで打って、長打率も上げるというわけですね」
○鷲沢社長:「そういうことだ。出塁率も大事だし、長打率も大事だ。OPSはその両方を組み合わせている。野球もデータ。営業もデータ。球田さんに手伝ってもらい、ドライにデータを分析して営業を変えていくぞ」
人の印象に惑わされず、データできちんと評価を
野球をはじめ、スポーツの世界でデータ分析を取り入れるチームが増えています。現状の戦力を把握し、それより大きな戦力を持つ相手にどう勝つのか、研究しているのです。
ここで大切なのは選手の印象に惑わされず、データできちんと評価していくことです。
私は数え切れないほどの現場に出て、営業のコンサルティングをしてきました。痛感するのは、世間が抱いている「できる営業マン」「トップセールス」の印象と、実際に結果を出す営業の姿がかけ離れていることです。
お客様に愛想よく振る舞ったり、相手が驚くような感動的なプレゼンテーションをしたり、気付きを誘発する提案営業をしたりする人はいます。ところが、目標を絶対達成しているかというと、必ずしもそうではありません。
人見知りと言ってもよいくらい大人しく、商談のときもボソボソ喋ったり、接待の飲み会にもあまり付き合わなかったり、そういう人なのに、毎期毎期、必ず目標を達成し、伸ばしていく人がいます。
後者の人の印象は地味ですが、圧倒的な行動量と誰にも負けないスピード感、諦めない心を持っているものです。
印象にとらわれず、組織として目標を絶対達成させるためには、どんな数字を「見える化」すべきでしょうか。
次回から登場する球田コンサルタントに披露してもらいます。
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