「残業って、楽しいじゃないですか」

○鷲沢社長:「覚えていないのか。さては業務の役割分担がまだできてないな。この紙を見ろ。君の残業時間が記録されている。月間90時間の残業が年初から続いている。たまに100時間を超えている」

●柳本課長:「それぐらい普通だと思いますよ」

○鷲沢社長:「そういう感覚が駄目だと言っている。こっちを見ろ。他の課長の実績だ。私が社長になってから2カ月で、ほとんどの課長が残業を毎月30時間以上減らしている」

●柳本課長:「へえ、そうなのですね」

○鷲沢社長:「君の業務を棚卸しした結果を忘れているようだから、もう一回言っておく。『使途不明時間』があまりに長かった。要するに無駄な仕事をしすぎだ」

●柳本課長:「使途不明時間って、オーバーですよ、社長。そもそも、どうしてそんなに残業を目の敵にするのですか」

○鷲沢社長:「な、なんだって」

●柳本課長:「残業って、楽しいじゃないですか」

○鷲沢社長:「……」

●柳本課長:「静まりかえったオフィスのほうが仕事に集中できますし。夜遅くにオフィスに残っている連中とコーヒーでも飲みながら喋っていると信頼関係がうまれてきます。私が20代だったころ、夜の10時からでしたよ。先輩社員と仲良くできるゴールデンタイムは。先輩や仲間と話がしたくて、仕事があってもなくても会社に残っていたものです。そういうコミュニケーションはやっぱり大事じゃないでしょうか」

「鈍感モンスターと呼びたくなる!」

○鷲沢社長:「……」

●柳本課長:「どうかされましたか」

○鷲沢社長:「ここまで時代錯誤の課長が当社にいただなんて、私の感度も鈍っていたようだ。まったく信じられない。時代の先頭を走る広告代理店だから、一般企業と比べて新しい価値観を持った人が働いているものだと思い込んでいた。よくもまあ、そんな感覚で仕事ができたものだ。鈍感モンスターと呼びたくなる」

●柳本課長:「モンスターって、何をおっしゃっているのですか」

○鷲沢社長:「黙れ! いくらなんでもノリが悪すぎる。もっと感度、感性を磨きたまえ。だいたいなんだその髪型は。無精ひげもなんとかしろ。くたびれたスーツを着てくるな。ここは会社だ。寝起きのような恰好で来るところじゃない」

●柳本課長:「流行の格好をしろと言うことですか」

○鷲沢社長:「むやみにお洒落をしろとまでは言わん。だが、それなりの給料をもらっているだろう。もう少し、感度を高めて流行に気付け。まずはそこからだ。『自分は自分、他人は他人』と言いたそうな顔をしているが、そんな発想では駄目だ。周囲のペースと合わせられない奴は、世間の流れも業界の動きも察知できない。とにかくノリが大事だ。ノリたまえ。これは業務命令だ」

●柳本課長:「わ、わかりました。ただ、ノリを良くしろといきなり言われましても」

○鷲沢社長:「話題の店に行ってみる。流行っている映画を仕事帰りに観にいく。そうすれば今のように会社に長くいられなくなる。もう17時だ。ロッカーの片付けは早々に切り上げ、オフィスから出ろ。行くところを思いつかなかったら、さっさと帰って家族に何が流行っているのか、聞いてみたまえ」