「ノリが悪い人ほど残業が多い」。私はこう見ています。
「ノリが悪い」とは、周囲に合わせる意識に乏しかったり、世の中の動きに対する関心が低かったりということです。そういう人は感度が落ちていきます。「長時間残業はもはや許されない」という時代の変化に気付かないのです。
鈍感で他者の視点を慮ることができない柳本課長と鷲沢社長のバトルをお読みください。
●柳本課長:「社長、お呼びですか」
○鷲沢社長:「ああ、ちょっと私は怒っている」
●柳本課長:「ロッカーの整理をしている最中で時間があまりないのですが」
○鷲沢社長:「私は君に怒っている、そう言ったんだ」
●柳本課長:「総務がロッカーを早く整理してほしいと言ってくるものですから」
○鷲沢社長:「おい! 私の話を聞いているか」
●柳本課長:「聞いてますよ、社長。それで御用は何でしょうか」
○鷲沢社長:「D社との飲み会の席のことだ」
●柳本課長:「D社の広報戦略を当社が支援することが決まった日の件ですね。商談の後、食事に行きました。うちの竹虎常務も一緒でした。常務はあの社長のことがお好きのようでした」
○鷲沢社長:「D社の社長は君の態度にかなりご立腹だそうだ」
●柳本課長:「え、そうなのですか。初めて聞きました。あの人って怒りっぽいのですか」
○鷲沢社長:「竹虎常務が言っていた。君が場の空気を悪くさせたってな。社長が君をゴルフに誘ったら『ゴルフなんてスポーツではない、絶対にやりません』と答えたとか」
●柳本課長:「あの社長、赤ワインをけっこう頼んでいた気がします」
○鷲沢社長:「ワインなんてどうでもいい。ゴルフの話だ。どうして絶対にやらない、だなんて言いきった。相手が怒るのも当然だ」
●柳本課長:「社長が飲んでいた赤ワイン、どんな銘柄だったか忘れましたが高級品でした。すごく見栄を張っちゃって」
○鷲沢社長:「おいおいおいおいおい!」
「あのう、ロッカーの整理に戻っていいですか」
●柳本課長:「な、なんですか。社長」
○鷲沢社長:「全然、話が噛み合っていない。会話のキャッチボールができないのか、君は。私の言っていることに正対したまえ」
●柳本課長:「ですから高い赤ワインを飲み過ぎて酔っぱらっていたのですよ、あの社長は」
○鷲沢社長:「そんなことはどうでもいい! たとえゴルフに行く気がなくても、その場の雰囲気に合わせたらどうかね」
●柳本課長:「は? そう言われましても本当にゴルフはしませんし……」
○鷲沢社長:「相手と調子を合わせることもできんのか。大人の対応だろ」
●柳本課長:「大人の……ですか。よくわかりませんが」
○鷲沢社長:「なぜ、よくわからんのだ。ああ、イライラする」
●柳本課長:「あのう、ロッカーの整理に戻っていいですか」
○鷲沢社長:「話は終わっとらん! よくそんなコミュニケーション能力で営業課長が務まるな」
●柳本課長:「お言葉ですが好きで営業課長をやっているわけではありません。成り行きでこうなっているのです」
「ノリが悪いということは感度が鈍いということ」
○鷲沢社長:「ノリが悪すぎる」
●柳本課長:「は?」
○鷲沢社長:「ノリが悪いということは、感度が鈍いということだ」
●柳本課長:「私のことですか」
○鷲沢社長:「ようやく反応したな。感度が鈍いことをどう言うか知っているか。鈍感だ。君のような鈍感な人間が広告代理店の営業をしてきたとは信じがたい」
●柳本課長:「社長はまだ当社に来たばかりでご存知ないかもしれませんが、以前はもっとよくわからない人が営業課長をやっていました。どんな人がいたかというと……はは、これが傑作で」
○鷲沢社長:「私の話を聞け!」
●柳本課長:「そ、そんなに大きな声を出さなくても聞いています」
○鷲沢社長:「鈍感と言われて何も感じないのか、君は。だいたいロッカーの整理って何だ」
●柳本課長:「営業部にあるロッカーのことです。部内で購入した物品や資料が入っておりまして」
○鷲沢社長:「そんなことは聞いてないっ! なぜ営業課長の君がロッカーを整理するのか。私が社長に赴任してすぐ全員の業務を棚卸しした。部室の物品整理は課長の仕事から外したはずだ」
●柳本課長:「業務の棚卸しですか……」
「残業って、楽しいじゃないですか」
○鷲沢社長:「覚えていないのか。さては業務の役割分担がまだできてないな。この紙を見ろ。君の残業時間が記録されている。月間90時間の残業が年初から続いている。たまに100時間を超えている」
●柳本課長:「それぐらい普通だと思いますよ」
○鷲沢社長:「そういう感覚が駄目だと言っている。こっちを見ろ。他の課長の実績だ。私が社長になってから2カ月で、ほとんどの課長が残業を毎月30時間以上減らしている」
●柳本課長:「へえ、そうなのですね」
○鷲沢社長:「君の業務を棚卸しした結果を忘れているようだから、もう一回言っておく。『使途不明時間』があまりに長かった。要するに無駄な仕事をしすぎだ」
●柳本課長:「使途不明時間って、オーバーですよ、社長。そもそも、どうしてそんなに残業を目の敵にするのですか」
○鷲沢社長:「な、なんだって」
●柳本課長:「残業って、楽しいじゃないですか」
○鷲沢社長:「……」
●柳本課長:「静まりかえったオフィスのほうが仕事に集中できますし。夜遅くにオフィスに残っている連中とコーヒーでも飲みながら喋っていると信頼関係がうまれてきます。私が20代だったころ、夜の10時からでしたよ。先輩社員と仲良くできるゴールデンタイムは。先輩や仲間と話がしたくて、仕事があってもなくても会社に残っていたものです。そういうコミュニケーションはやっぱり大事じゃないでしょうか」
「鈍感モンスターと呼びたくなる!」
○鷲沢社長:「……」
●柳本課長:「どうかされましたか」
○鷲沢社長:「ここまで時代錯誤の課長が当社にいただなんて、私の感度も鈍っていたようだ。まったく信じられない。時代の先頭を走る広告代理店だから、一般企業と比べて新しい価値観を持った人が働いているものだと思い込んでいた。よくもまあ、そんな感覚で仕事ができたものだ。鈍感モンスターと呼びたくなる」
●柳本課長:「モンスターって、何をおっしゃっているのですか」
○鷲沢社長:「黙れ! いくらなんでもノリが悪すぎる。もっと感度、感性を磨きたまえ。だいたいなんだその髪型は。無精ひげもなんとかしろ。くたびれたスーツを着てくるな。ここは会社だ。寝起きのような恰好で来るところじゃない」
●柳本課長:「流行の格好をしろと言うことですか」
○鷲沢社長:「むやみにお洒落をしろとまでは言わん。だが、それなりの給料をもらっているだろう。もう少し、感度を高めて流行に気付け。まずはそこからだ。『自分は自分、他人は他人』と言いたそうな顔をしているが、そんな発想では駄目だ。周囲のペースと合わせられない奴は、世間の流れも業界の動きも察知できない。とにかくノリが大事だ。ノリたまえ。これは業務命令だ」
●柳本課長:「わ、わかりました。ただ、ノリを良くしろといきなり言われましても」
○鷲沢社長:「話題の店に行ってみる。流行っている映画を仕事帰りに観にいく。そうすれば今のように会社に長くいられなくなる。もう17時だ。ロッカーの片付けは早々に切り上げ、オフィスから出ろ。行くところを思いつかなかったら、さっさと帰って家族に何が流行っているのか、聞いてみたまえ」
感度や感性を高める努力をしよう
飲み会で周囲が盛り上がっているのに、ノレない人がいます。悪ノリはいけませんが、周囲と“シンクロ”しようとする努力を全くせずに、一人でブスーっとしていたり、「自分は自分だから放っておいて」という態度をとったりすると「場の空気」を悪くします。これは飲み会に限ったことではありません。
ノリが悪いということは、周囲へのアンテナが十分に機能していないということ。世間の空気や場の空気がどのように変化しているかをキャッチできなくなります。乗り遅れていくということです。時代も環境も常に変わっていきますから、それではいけません。
「長時間労働を是正しよう」という動きや声がこれだけある中で、他人事のように受け止めている人は感度が低すぎると言われても仕方がないでしょう。
日頃の心掛けとして、たとえ好きではないもの、関心がないものでも、流行していると聞いたら、一回体験してみる、味わってみることが大事です。感度や感性を高める努力をしましょう。
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