組織内には様々なコンフリクト(衝突)が起きます。経営者対中間管理職、工場対営業、ベテラン対若者、正社員対パートスタッフ等々。言うまでもなく、上司対部下もあります。
「ベテラン上司対若者部下」というお馴染みの構図に、今は「ミドル上司対アラ定部下」という構図が重なりつつあります。「アラ定」とは、「アラウンド定年」の略です。
今回のバトルをお読みください。
●竹虎常務:「社長、お話があります」
○鷲沢社長:「どうした」
●竹虎常務:「総務部の部長が悩んでいます。主任の2人についてです」
○鷲沢社長:「あの2人か。来週、私が2人と面談する予定だ」
●竹虎常務:「存じ上げています。ですから話があると申しました」
○鷲沢社長:「なんだ」
●竹虎常務:「とにかくお手柔らかに、総務部長はそう言っています」
○鷲沢社長:「お手柔らかに?」
●竹虎常務:「はい、58歳と59歳ですので」
○鷲沢社長:「アラ定か」
●竹虎常務:「はい。アラウンド定年の方となると色々問題が……」
○鷲沢社長:「わからないでもない。私よりも年上で、人生の先輩だ。ところで問題とは何だ」
●竹虎常務:「先日、弊社のイベントに参加されたお客様に電話フォローをしていただこうと思ったのですが、なかなか」
○鷲沢社長:「やらないのか」
●竹虎常務:「『こんなことをやる必要があるのかね。私が若いころは仕事のほうから飛び込んできたものだが』とか言うのです」
「定年間近の私に、そんなプレッシャーをかけないでくれ」
○鷲沢社長:「昔と今は違う」
●竹虎常務:「『そこを何とかお願いします』と頼むと、『定年間近の私に、そんなプレッシャーをかけないでくれよ』と」
○鷲沢社長:「開き直っているのか」
●竹虎常務:「というより、あっけらかんとしています。アラ定の方は普通なら言わないだろうということを平気で口にします」
○鷲沢社長:「その無邪気さは見習いたい」
●竹虎常務:「『もう少しで定年だ、勘弁してくれよ。わかるだろう』なんて言われたら、私もどう言っていいかわかりません。先代の社長が生きていたら、ガツンと言えたのでしょうが。今では誰が話しても言うことを聞きません」
○鷲沢社長:「だから私が来週面談をする。普通なら部課長に任せるところだが、彼らに敬意を払ってそうするつもりだ」
●竹虎常務:「はい、ありがとうございます。それで、先ほどお伝えしたとおり、お手柔らかにお願いしたいのです」
○鷲沢社長:「お手柔らかにというのはどういう意味だ」
●竹虎常務:「来週、社長が2人と面談することは社内で噂になっています」
「私は相手の話をきちんと聞き、言い分を受け止めている」
○鷲沢社長:「どんな噂だ」
●竹虎常務:「いつものテンションで社長はあの2人とバトルするのか。それともさすがに今回はソフトな感じで接するのか、とか」
○鷲沢社長:「待て。君たちは私を勘違いしている」
●竹虎常務:「ど、どういうことですか」
○鷲沢社長:「誰かと話をするとき、私は相手の話をきちんと聞き、言い分を受け止めてから自分の意見を言っている。バトルを目的としているわけではない」
●竹虎常務:「そ、その……ご自身の意見を言うときに、相当激しく仰るじゃないですか」
○鷲沢社長:「たまにそういうことがあるかもしれんが、実際は滅多にないはずだ。社員とバトルしたいだなんて、思ったこともない」
●竹虎常務:「それではあの2人にはどのように言うつもりですか」
○鷲沢社長:「私が新しくやってきた社長だと改めて自己紹介する。相手はわが社の功労者だ。まず仕事に対する私なりの考えを伝え、相手のこれまでの仕事ぶりなどを聞く」
●竹虎常務:「え、それだけですか」
○鷲沢社長:「打ち解けてきたと思えば、本題を切りだすだろう」
●竹虎常務:「本題と言いますと」
○鷲沢社長:「上司が言っていることはきちんと聞き、やりたまえ、ということだ。他にない」
●竹虎常務:「社長の前では『わかりました』と言うに決まっています」
○鷲沢社長:「そうなのかな。その気配が感じられたら『口だけだと後でわかったら容赦しない』と付け加えよう」
「『もしも社長がバトルしたら』なんて考えるな」
●竹虎常務:「ですから……。そういう喧嘩腰の言い方はよくありません」
○鷲沢社長:「おいおい。決め付ける言い方を私にするから、こちらもついむきになってしまう。そもそも君は先入観が強すぎる。敬意を払うことと、腫物に触るように接することは違う。先入観を忘れ、きちんと相手に向き合って話せばわかってくれる」
●竹虎常務:「わかってもらえなかったら、どうするのですか」
○鷲沢社長:「その言い方がもう駄目だ。わかってもらえないという先入観がある。相手を信じていないから、そういう言い方になる。明日、会社に君は何時に出社する」
●竹虎常務:「え、どうしたのですか、突然」
○鷲沢社長:「明日、何時に出社する。当社は9時出勤だぞ」
●竹虎常務:「いつも8時半に出勤しています、私は」
○鷲沢社長:「本当に9時までに出勤できるのか」
●竹虎常務:「できますって、さっきも言ったとおり、毎日8時半に出勤していますから」
○鷲沢社長:「それは今までの話だ。明日のことはわからん。もし明日9時までに出勤できなかったらどうする」
●竹虎常務:「もし、なんてありません!絶対に明日も8時半までに出勤します」
○鷲沢社長:「そうだ、そういうものだ」
●竹虎常務:「どういうことですか」
○鷲沢社長:「君は君自身を信じている。だから『もしもできなかったらどうしようか』なんて考えない。それが人を信じる態度だ」
●竹虎常務:「……アラ定の2人を信じるということですか」
○鷲沢社長:「そうだ。だから『もしも相手がこう言ったらどうするか』などと妙な先入観を持たず接する。君も『もしも社長がバトルしたらどうなるか』などと考えないでくれ」
アラ定部下を持つ時代に
今後、日本のミドルマネジャーにとって、入社2~3年目の若者部下と、定年まで2~3年のアラ定部下を同時にマネジメントしていかなくてはならない時代がやって来ます。育休をとる男性の部下、親の介護をする部下など、様々な問題に直面していきます。
今の日本企業は30~40代のミドルマネジャーによって支えられています。彼らが定年間近なベテランの方を部下に持つと、なかなか苦労します。
しかし、あれこれ考えたら、いい手が出てくるわけではありません。先輩であり、会社に貢献してきた方ですから、敬意を払いつつ、先入観を持たず、仕事は仕事として淡々と命じることです。
一方、「アラ定」の方々は後輩のミドルマネジャーの心の支えになるとともに、定年まで頭と体を動かし続けなければなりません。そういう時代になってきたことへの自覚が求められます。
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