言われたことしかやらない人がいます。何らかの手段を学ぶものの、それを使っていればよしとする人もいます。
共通するのは、思考が目先の仕事や手段でストップしていることです。その先にある目的に焦点を合わせていません。
だからといって、「目的も考えずに仕事をしているのか」と叱り、答えを渡してしまっては、相手に「考える機会」を与えることができません。どうしたらよいでしょうか。
仕事の目的をよく理解できていない牛尾部長と鷲沢社長とのバトルをお読みください。
●牛尾システム部長:「社長、お話があります。こちらの書類に押印してもらえないかと思いまして」
○鷲沢社長:「押印? 何の書類だ」
●牛尾システム部長:「来年1月に導入するシステムに関する決裁です」
○鷲沢社長:「システム? どうして君がわざわざ持ってくるのかね。システムのことなら君に権限があるだろう。10人や20人の会社じゃあるまいし。前の社長がうるさかったのか」
●牛尾システム部長:「そうですね。一つひとつ確認して承認されていました」
○鷲沢社長:「君はこの会社に入って何年だ」
●牛尾システム部長:「26年です」
○鷲沢社長:「生え抜きだよな。もうすぐ50歳か」
●牛尾システム部長:「はい。来年です」
○鷲沢社長:「それだけのベテランで、システム部門のトップなのだから、相応の権限は持たないといけない。同等の責任をとってもらうが。まあ今日のところはいい。どういう案件かね」
●牛尾システム部長:「グループウエアを全面刷新します。見積もりはざっくり7000万円です」
○鷲沢社長:「……。ざっくり、なな、せん、まん……」
●牛尾システム部長:「はい」
○鷲沢社長:「おい! 何がざっくりだ! 7000万円の見積もりとはどういうことだ。初耳だ。社長だからといって、こんな大きな投資を即決できると思うか。管理部長を呼べ」
●牛尾システム部長:「ちょ、ちょっと待ってください。専務や常務も知っていることです。前から議論していた話ですから」
○鷲沢社長:「……外堀を埋めてから私のところへ持ってきたのか」
●牛尾システム部長:「外堀って……」
○鷲沢社長:「なぜ役員会で話し合わない。ベテラン社員はすぐ根回しに走るから困る。今まではそれでよかったかもしれないが、私には通用しない」
●牛尾システム部長:「しかし、もうほぼ決まっていることでして。システムベンダーも決定していますし、ハードウエアの導入時期も決まっています」
○鷲沢社長:「ちょっと待て。ハードウエアも買うのか」
●牛尾システム部長:「グループウエアを刷新するついでにサーバーを入れ替えようと思いまして」
○鷲沢社長:「いくらだ」
●牛尾システム部長:「1500万円ほど……」
○鷲沢社長:「おいおいおいっ! ついでに1500万円って、どういう神経なんだ。人をなめるのも、いい加減にしろ。こんなやり方で大金をドブに捨てることがあってたまるか」
「その売り上げをつくるのに、どれぐらいの商談が必要なのか」
●牛尾システム部長:「大金をドブに捨てるって……。必要経費ですよ」
○鷲沢社長:「何が必要経費だ。いいか、8500万円の利益を上げようとしたら、営業はどれぐらい仕事をとらないといけないのか、君はわかっているのか。当社の平均利益率から逆算してみろ」
●牛尾システム部長:「そ、それは」
○鷲沢社長:「その売り上げをつくるのに、どれぐらいの商談が必要なのか。それだけの商談をつくるのに、どれぐらい営業がお客様をまわらなくてはならないのか」
●牛尾システム部長:「申し訳ありません。社長に相談することなく裏で話を進めてしまい、反省しています」
○鷲沢社長:「何が反省だ!」
●牛尾システム部長:「ひぃ」
○鷲沢社長:「グループウエアを刷新したら、どうなる」
●牛尾システム部長:「え」
○鷲沢社長:「もう一回聞く。新しいグループウエアを当社に導入したら、どうなるんだ」
●牛尾システム部長:「ど、どうなるって……。今よりも利便性がよくなります。メールを検索したり、スケジュールが見やすくなったり」
○鷲沢社長:「それで?」
●牛尾システム部長:「え?」
○鷲沢社長:「え、じゃないよ。それで、何だ?」
●牛尾システム部長:「そ、それで……。使い勝手がよくなるわけですから、社員が喜びます」
○鷲沢社長:「社員が喜ぶんだな」
●牛尾システム部長:「うー……ん。いや、社員が喜ぶだけで1億近い投資をしていいはずがありません。ええっと……新しいグループウエアを導入することによって、交通費の決済がスムーズにできるようになります」
○鷲沢社長:「それで?」
●牛尾システム部長:「それで……。社員が、喜ぶ……。いや、そうじゃなくて、管理部の業務が効率化するというか……」
○鷲沢社長:「それで?」
●牛尾システム部長:「管理部の業務が効率化すると……。管理部の連中が喜びますね。我々システム部門は仕事が増えるので忙しくなりますが……」
○鷲沢社長:「それで?」
●牛尾システム部長:「それで……。うちのシステム部門は喜ばないですね。大規模なシステムの入れ替えは大変ですし、社内教育も手間取るでしょうし……」
○鷲沢社長:「それで?」
●牛尾システム部長:「それで……」
○鷲沢社長:「それで、なんだ」
●牛尾システム部長:「システム部門が大忙しになって、大変なことになるかと」
○鷲沢社長:「なんだそれは。こんな大きな投資をするのに、目的をはっきり言えないなんて話にならん。26年もやっているベテランのくせに、そんな整理のつかない話をしていて大丈夫か」
●牛尾システム部長:「……も、申し訳ありません。確かに目的が曖昧でした」
○鷲沢社長:「私は銀行時代、IT企業のお客様をたくさん受け持っていたからわかる。いま導入しているグループウエアで充分に使える。活用できていないだけだ。この投資は見送る」
「それで?」と質問し、思考を前に進めさせる
「なぜなぜ分析」をご存じの方は多いと思います。「なぜ?」を5回以上繰り返し、問題の真因を探っていく手法です。
それでは問題の原因ではなく、仕事の目的を探るためにはどうすればよいでしょう。冒頭で述べた通り、思考が目先の仕事や手段のところで止まり、目的を把握できていない部下自身に考えさせなければなりません。
思考を前に進めさせるために、「それで?」を5回以上繰り返すことをお勧めします。いわば「それでそれで分析」です。
牛尾部長のように、「それで?」に答えていくうちに自分の頭が混乱してくるようであれば、正しく目的を理解せずに仕事をしていることになります。そこに本人が気付けます。
目的を考えさせるには、「なぜ?」を繰り返し、問い詰めてはいけません。「なぜ?」と質問されると原因を探ってしまい、思考が後ろに戻りがちです。
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