「自分勝手に作った物語が君を妄想天国へ導いている」

○鷲沢社長:「10年もやっているのだったら常識をわきまえたまえ。いいか、雑談だったらいつでも気軽に話しかけてくれ。だが、君は社長が考えた人事案にいきなりノーと言っている。まあいい、白金さんの課長昇格に反対するなら理由を言いたまえ」

●猫山課長:「反対ではなく、まだ早いと申し上げているだけで……。いえ、理由ですね。彼女にはお子さんが3人います」

○鷲沢社長:「それで?」

●猫山課長:「3人だけでも大変なのに、末っ子の4歳の男の子は足の具合が良くないのです」

○鷲沢社長:「それで?」

●猫山課長:「そ、それでって……」

○鷲沢社長:「それで何だ?」

●猫山課長:「ですから末っ子の面倒を見ないといけないのです」

○鷲沢社長:「うーん……」

●猫山課長:「というわけで白ユリに課長職は難しいと思います。亡くなった先代社長が遺した中期経営計画に『女性社員の数を3倍にし、女性管理者を現在の2人から10人にする』とあったのは知っています。その計画を絶対達成させたいという鷲沢社長のお気持ちも分かります。しかし焦ってはいけません。もっと社員の心の状態とか、家庭環境も考えた上で人事を決めるべきです」

○鷲沢社長:「……」

●猫山課長:「ご理解いただけたでしょうか」

○鷲沢社長:「やっぱり今の仕事は向いていないな、君には」

●猫山課長:「はあ?」

○鷲沢社長:「犬神専務がテレビ制作会社の役員と仲がいいはずだ。ドラマの脚本家を目指してみてはどうかね」

●猫山課長:「ど、どういうことですか」

○鷲沢社長:「先入観が強すぎて、自分勝手に物語を作っている。その物語が君を妄想天国へと導いている。営業課長としては短所だが、そこを何とか長所にできないかと考え、ひょっとして脚本家ではないかと思った」

●猫山課長:「失礼な! いくら社長でも、言っていいことと悪いことがありますよ」

○鷲沢社長:「確かに失礼だったな、脚本家に対してだが。君の脚本は駄目だ。言っていいことと悪いことがあるというのはこっちの台詞だ。勝手な妄想で物事を判断しおって」

●猫山課長:「しかし」

○鷲沢社長:「黙って話を聞け。人が話している最中に自分の意見をかぶせようとするな」

●猫山課長:「も、申し訳ありません」