「もっと頭を使え!」
「もっと考えろ!」
こう叱咤する経営者や上司は沢山います。確かに何かの目標を絶対に達成するためにはよく考えないといけません。考えずに行動だけしていても結果は出ません。
ただし、「考える」といってもレベルがあります。鳥山人事課長と小鹿コンサルタントとの会話を読んでください。
○鳥山人事課長:「小鹿さん、あなたが当社にコンサルタントとして来たのは今年の5月でした。あちこちの現場に入ってもらいましたが、どうでしたか。人事の課長として率直なご意見を聞きたいのです」
●小鹿コンサルタント:「どのような切り口でお話しましょうか」
○鳥山人事課長:「『どうですか』という漠然とした質問をされても答えようがない、ということはわかっています。ただ、切り口と言われてもなかなか思いつかないのですが」
●小鹿コンサルタント:「それでは他の優良企業と御社を比べて、私なりに思ったことを言いましょうか」
○鳥山人事課長:「そうしてもらえるとありがたいです。当社の人材には色々と足りないところがあると思いますが」
●小鹿コンサルタント:「『考える』という切り口でいかがでしょうか」
○鳥山人事課長:「考える……」
●小鹿コンサルタント:「優良企業の社員はみんな、『考える習慣』を持っています」
○鳥山人事課長:「なるほど、当社の社員は『考える習慣』が足りないのかもしれません。当事者意識が足りないというか、目の前に問題があっても、どうすればいいか考えようとしないというか」
●小鹿コンサルタント:「まあ……」
○鳥山人事課長:「そういう輩が当社に多すぎると言うことですね」
●小鹿コンサルタント:「う……ん」
○鳥山人事課長:「どうしたのですか、小鹿さん。いつもと違って歯切れが悪いじゃないですか」
●小鹿コンサルタント:「そうですか」
○鳥山人事課長:「はっきり言ってくださいよ。コンサルタントなのですから言うべきことを言ってくれないと」
●小鹿コンサルタント:「仰る通りです」
○鳥山人事課長:「私の見方に同意できないということですか」
考えているのになぜ駄目なのか
●小鹿コンサルタント:「目の前に問題があるにもかかわらず、それを放置しておいて、誰かに指摘されても『無理です』『私には難しいです』などと答えるのは確かに『考える習慣』がないと言えます。ただ、そういう人はあまりいないですよ。御社には」
○鳥山人事課長:「そうでしょうか」
●小鹿コンサルタント:「私はそれほどいないと受け止めています。皆さん真面目でそれなりに考えて仕事をしています」
○鳥山人事課長:「しかしあなたが言い出したのですよ、『考える習慣』のことを」
●小鹿コンサルタント:「言葉足らずでした。『考える』という切り口で掘り下げてみたいと思ったのです」
○鳥山人事課長:「ははあ、考える深さが足りない、考えてはいるけれど考えが浅い、ということですね」
●小鹿コンサルタント:「正確に言うと『考え抜く習慣』があまりない。『考える習慣』はあっても」
○鳥山人事課長:「考え抜く……」
●小鹿コンサルタント:「トンネルを思い浮かべたらわかりやすいでしょう。浅く考える人はトンネルを掘ろうとしても、すぐ途中で止めてしまいます。深く考える人、つまり考え抜く習慣がある人は向こう側へ突き抜けるまで掘り続けます」
○鳥山人事課長:「うーむ。やりかけたら最後までやる人、ということですか」
●小鹿コンサルタント:「そうです。考え抜く人はやり抜く人です」
○鳥山人事課長:「確かに問題が起きると会議を開いて話し合ってはいるものの、解決するまでやり切っているかというと疑問ですね」
●小鹿コンサルタント:「ええ」
○鳥山人事課長:「なるほど、いい指摘をいただきました。『考え抜く力』を身に付けるためにどんな施策を打てばいいのか、人事課長として考えていきますよ」
●小鹿コンサルタント:「そうですか」
○鳥山人事課長:「はい」
●小鹿コンサルタント:「……」
○鳥山人事課長:「何ですか」
●小鹿コンサルタント:「いえ、別に」
○鳥山人事課長:「な、何ですか、小鹿さん。今日は思わせぶりな言い方が多いですよ。コンサルタントなのですから、はっきり言ってください」
●小鹿コンサルタント:「はっきり言ってよろしいですか」
○鳥山人事課長:「いいに決まっているでしょう。コンサルティング費用を払っているのですから、それなりの応答をしてください。遠慮は不要です」
「あなた、考えていますか」
●小鹿コンサルタント:「わかりました。社員に『考え抜く力』を付けてもらうための施策と仰いましたが、何ですか」
○鳥山人事課長:「え」
●小鹿コンサルタント:「どういう施策か、教えてください」
○鳥山人事課長:「いや、これから考えていこうという話ですから急に言われても」
●小鹿コンサルタント:「今すぐでなくてかまいません。いつ教えていただけますか」
○鳥山人事課長:「いつって」
●小鹿コンサルタント:「いつまでに施策を作るか、その期限を知りたいのです。仮の期限でいいですから教えてください」
○鳥山人事課長:「そう言われても……」
●小鹿コンサルタント:「課長」
○鳥山人事課長:「え」
●小鹿コンサルタント:「あなた、考えていますか」
○鳥山人事課長:「何ですって」
●小鹿コンサルタント:「考え抜こうとしていますか、今」
○鳥山人事課長:「う……」
●小鹿コンサルタント:「単に期限を決めるだけです」
○鳥山人事課長:「……」
●小鹿コンサルタント:「『考えていきますよ』と仰いました。もう一回聞きます。考え抜こうとしていますか。トンネルを開通させようとしていますか」
○鳥山人事課長:「そ、それは」
●小鹿コンサルタント:「色々な会社に入ってコンサルティングをしていると『いい指摘をしてくれた、何らかの施策を作らなくては』と皆さん、言います。そこから二つに分かれます。片方は、考え抜いてアイデアを色々出し、しかもそのアイデアを形にしようとさらに考え抜く会社です。もう片方は…言わなくてよいですよね」
○鳥山人事課長:「うーん。確かに我々人事課にそもそも考え抜く習慣がないのかもしれません」
●小鹿コンサルタント:「人事課が考え抜いていない施策で、社員が考え抜く習慣を付けられるわけがありません。これは考えなくてもわかります」
○鳥山人事課長:「はっきり言ってくれるなあ」
●小鹿コンサルタント:「はっきり言えと仰ったのは鳥山課長です」
「考えているか」ではなく「考え抜いているか」を問う
「考えているか」「考えていないか」の二択で質問したら、「考えている」と答える人のほうが多いでしょう。
「目標を絶対達成させるために、もっと頭を使え! もっと考えろ!」
こんなふうに叱咤激励する社長や上司は多いわけですが、こう言われると社員や部下としては反発したくなります。
「これでも頭を使っています」
「ちゃんと考えています。考えていないとどうして言えるのですか」
これでは堂々巡りです。無駄な問答を避けるためにも、「考え抜いているか」という質問に変えてみましょう。
トンネルを掘り始めたら途中で止めることなく、開通するまでやり抜けますか。それを問うのです。
目標を絶対達成させるために「考え抜く力」が不可欠です。
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