営業で成果を出すトップセールスと投資で儲ける人には共通点があります。それは何でしょうか。鷲沢社長と蝶野会長の会話で確認してみてください。
●蝶野会長:「社長、投資で大損したと聞きました」
○鷲沢社長:「FX(外国為替証拠金取引)のことか。あれは投機だ、マネーゲームに過ぎん。乗せられてむきになった私がバカだった」
●蝶野会長:「いくら損したのですか」
○鷲沢社長:「40万円くらいだ。ただ、金額の問題じゃない。元銀行マンとしてお金の大事さは誰よりも知っているつもりだ。正直言って悔しい」
●蝶野会長:「揚羽課長と対決したそうですね、元手20万円で」
○鷲沢社長:「完敗した。大人気ない話だがそれもかなり悔しい。株の売買をしていたときチャート分析はしていたから、FXでも応用がきくと思っていた」
●蝶野会長:「株とFXとは違いましたか」
○鷲沢社長:「値動きを見るだけなら似たようなものだ。揚羽課長も私も、あまりファンダメンタル分析に重きを置かない。テクニカル分析の勝負なら勝てると思った。日本でFXの年間取引金額は5000兆円を超えているから、値動きは素直になり、株よりもテクニカル分析がしやすいはずだ」
●蝶野会長:「そういうものですか」
「現実のビジネスなんて簡単だ」
○鷲沢社長:「今回の勝負で、すごくわかったことがある」
●蝶野会長:「何ですか」
○鷲沢社長:「現実のビジネスなんて簡単だ。株や為替のトレードのほうがよっぽど難しい」
●蝶野会長:「えっ。でも、副業で儲けている人もいるじゃないですか」
○鷲沢社長:「会社員をしながら、株やFXでずっと儲けられるような人なんてそうはいない。企業だって3年連続黒字の会社は18%しかない」
●蝶野会長:「うーん、やっている人の10%ぐらいですか」
○鷲沢社長:「そんなにいないだろう」
●蝶野会長:「よくわかりませんが、どうしてリアルなビジネスのほうが簡単なのですか」
○鷲沢社長:「相手が人間だからだ」
●蝶野会長:「え」
○鷲沢社長:「事業はお客様から成り立っている。お客様は人間だ。まずその点がとても大きい。そして組織を構成するメンバーも人間」
●蝶野会長:「人間のほうが難しくありませんか」
人間だから心理バイアスをかけられる
○鷲沢社長:「むしろ簡単だ。私が銀行マンだったころ、いろいろな企業を見てきた。毎日会議にばかり明け暮れている管理者や、メールばかり書いている企画部の連中を多く見つけた」
●蝶野会長:「……」
○鷲沢社長:「昔は現場でバリバリ仕事をしてきたのかもしれないが、それなりに年齢を重ねると、昔の10分の1以下のチカラで仕事をしている奴が大勢いる。それでも高い給料をもらえる」
●蝶野会長:「そういう人に給料分の仕事をさせるのは大変では」
○鷲沢社長:「人間なら心理バイアスをかけられる。過去に世話をしてやったとか、貸しのある相手なら、それほど工夫しなくても相手をリーディングできる」
●蝶野会長:「しかし、相場が相手では無理だと」
○鷲沢社長:「その通り。人間ひとりなんて、まるで無力だ」
●蝶野会長:「心理バイアスなんか、まったくかけることができませんね」
○鷲沢社長:「頼りになるのは自分の技術だけだ。そう思って今回やってみたが、過去の経験なんて意味をなさないな」
●蝶野会長:「……」
○鷲沢社長:「最初、私は毎日のように5000円から1万円勝っていた。順調だった。揚羽課長はなかなか勝てず、損切りばかりしていた」
●蝶野会長:「へえ」
○鷲沢社長:「私は調子に乗って、どんどん攻めて手持ちの20万円を40万円にまで増やした。一カ月で」
●蝶野会長:「凄いですね」
テクニカルではなくメンタルが大事
○鷲沢社長:「年甲斐もなく、有頂天になった」
●蝶野会長:「やはり高揚感がすごいのですか」
○鷲沢社長:「それが罠だ。2カ月目に入っても絶好調で、70万円にまで増えた。揚羽課長は当初の20万円を半分ぐらいに減らしていた」
●蝶野会長:「それでも逆転されたのですか」
○鷲沢社長:「3カ月目で見事に逆転された。……というか、私がダメだった。調子に乗って損切りルールを守らなかったら一気に手持ち資金がゼロになった」
●蝶野会長:「えええ」
○鷲沢社長:「そんなものだ。あっという間にお金が消えた。さらに20万円用意して続けたが、それも無くなりそうになり、ギブアップした」
●蝶野会長:「揚羽課長は」
○鷲沢社長:「ずっと負けてばかりいたが、3度だけ勝った。うまくトレンドフォローができて、利益を増やし、3カ月で20万円を36万円にまで増やした」
●蝶野会長:「すごい利回りですね」
○鷲沢社長:「半年、1年と続けたら、さらに彼は増やしただろう」
●蝶野会長:「達人ですか」
○鷲沢社長:「認めざるを得ない」
●蝶野会長:「ただ、テクニカルには社長のほうが上だったのでは」
○鷲沢社長:「損切りを繰り返しても、彼は自分で決めたルール通りに取引を続けた。そのメンタルが勝利の要因だ。テクニカルなら勝てると思ったが、なんのことはない、私のメンタルが弱かった、情けない」
感情を殺してルール通りにやる
●蝶野会長:「……なんだか、予材管理と似ていますね。社長が持ち込んだ、営業目標の2倍の材料を予め仕込んで、目標を絶対達成させるマネジメント手法です」
○鷲沢社長:「なるほど、結果がすぐに伴わなくとも決めたことをやり続ける、確かにそうだな」
●蝶野会長:「目標の2倍の予材を仕込むためには、予材ポテンシャルのあるお客様に淡々と接触しつづけなければならない」
○鷲沢社長:「そう。行きやすいお客様ではなく、大きなポテンシャルがある取引先との単純接触が大事だ」
●蝶野会長:「一喜一憂せず、感情を殺してルール通りにやる」
○鷲沢社長:「トップセールスはそれができる。うまくいかないときでも、自分が作ったルールどおりに継続できる人間が、大きなリターンを手にするものだ」
●蝶野会長:「揚羽課長ははじめのうち、予材管理がぴんと来なかったようですが、最近かなり結果を出しはじめています。大口の取引先を作りましたし」
○鷲沢社長:「知っている。何事もメンタルの管理が大事だ。私のように熱くなって、その場しのぎのトレードをやっているようでは大火傷する」
トップセールスはやるべきことを淡々とやる
多くの人が投資で失敗するのは、技術の問題ではなく、感情のコントロールができないからです。
教えられたとおりにトレードができないから、AIのトレーダーのほうが稼ぐことがあります。
リアルな営業がルール通りに正しいタイミングでお客様のフォローをもれなく続けられないなら、コンピューターによるMA(マーケティングオートメーション)に委ねたほうが成果を出せるかもしれません。
長い目で見ると、自分なりの「持論」で、気持ちの向いたときに行動する人より、正しい「理論」に則って、淡々と行動できる人のほうがより高い成果を出すのです。
世の中のほとんどのトップセールスは、そのように淡々とやるべきことをやり続けています。
Powered by リゾーム?