世界中の企業が「マインドフルネス」をテーマにした研修を実施しています。雑念を振り払い、心を落ち着かせ、定期的に脳を省エネモードにでき、情報処理能力や判断力、洞察力が高まると言われているからです。
ところがその説明を聞いて反発する人もいます。鷲沢社長と鳥山人事課長との会話をお読みください。
●鳥山人事課長:「社長、ぜひとも今期は研修に力を入れたいと思います」
○鷲沢社長:「もちろんだ。人材育成にはきちんと金をかける。おおいに使いたまえ」
●鳥山人事課長:「ありがとうございます。それでは早速企画書を出します」
○鷲沢社長:「時期はいつだ?」
●鳥山人事課長:「11月から12月がいいかと。休みを返上してやってもらおうかと考えています」
○鷲沢社長:「おいおい。休みの日は休ませろ。平日にやればいいだろう」
●鳥山人事課長:「しかし……」
○鷲沢社長:「働き方改革の時代だぞ。がんばって日々の業務をこなし、時間をやりくりして平日にやろう」
●鳥山人事課長:「わかりました。そうできれば受講する社員たちも喜びます」
○鷲沢社長:「研修の前後に仕事で無理をしないようにしないとな。研修があるから忙しくなったと思われたら本末転倒だ」
●鳥山人事課長:「仰る通りです。ところで社長、どうしてもやりたい研修があります」
○鷲沢社長:「どういう研修だ」
●鳥山人事課長:「マインドフルネスです」
○鷲沢社長:「マインド……フルネス?」
●鳥山人事課長:「聞いたことがありませんか」
○鷲沢社長:「言葉だけはどこかで聞いたような気がするが、どういうものか、詳しくは知らん」
●鳥山人事課長:「世界中で企業研修として取り入れられているものです。グーグルやフェイスブック、インテルもマインドフルネス研修を実施しています」
○鷲沢社長:「それで? 有名企業が採用しているから、うちもよくわからん研修をやろう、というのか」
●鳥山人事課長:「マインドフルネス瞑想はよくわからない研修ではありませんよ、社長」
○鷲沢社長:「どんな研修かわからんと言ったのに、『グーグルやフェイスブック、インテルもマインドフルネス研修を実施しています』と返してきたのは君だろう。それになんだ? 瞑想って」
●鳥山人事課長:「マインドフルネスというのは、ストレスのない、心が満たされたような状態を指します。この状態にするために瞑想を使うのです」
○鷲沢社長:「瞑想の研修か。瞑想ならわざわざ研修なんてせず、やりたい奴だけ自分でやればいいだろう」
●鳥山人事課長:「社長、なんてことを言うのですか。マインドフルネス瞑想の研修を受けることで、情報処理能力、状況判断力、決断力、洞察力などが鍛えられると言われているのですよ」
○鷲沢社長:「瞑想の研修など受けなくても、そういう能力を身に付けられるようにしてくれよ」
●鳥山人事課長:「ええっ」
○鷲沢社長:「どうしてもやりたいなら休日に希望者だけでやれ。研修費は自己負担。平日にやることは許さん」
●鳥山人事課長:「どうしてそんなに毛嫌いするんですか。さっきまでの態度と全然違うじゃないですか」
○鷲沢社長:「なんで会社の金を使って、平日に社員をリラックスさせなければならんのだ。ぼけーっとしたいのだったら家に帰ってからやれ」
「仕事を放っておいて瞑想なんかやれるか」
●鳥山人事課長:「ちょ、ちょっと待ってください。マインドフルネス状態とリラックス状態とは違います。マインドフルネスというのは、いま現在起こっている内面の事象に心を集中させることです。それができるには正しい知識と訓練が必要です。ぼけーっとリラックスするわけではありません」
○鷲沢社長:「何が違うかよくわからん」
●鳥山人事課長:「脳のエネルギー消費を抑え、ストレスを低減させることが目的です。そういうテクニックを学べますから、社長には特に受講してもらいたいです」
○鷲沢社長:「なんだって! 私が瞑想の研修に出る? 冗談じゃない。そういうのは苦手だ」
●鳥山人事課長:「苦手なことをあえてやることが研修の目的です。研修でなければ、こういうことをやらないでしょう」
○鷲沢社長:「大きなお世話だ。私の場合、脳を働かせておいたほうがストレスが減っていく。いいか、目の前に処理しなければならないタスクが5つある。放っておいたまま、瞑想なんかやれるか。瞑想すればするほどストレスがたまる」
●鳥山人事課長:「じゃあ、どうすればいいんですか」
○鷲沢社長:「タスクを片付けるんだよ! マインドフルネスだか瞑想だか知らないが、やることもやらずに目を閉じて深呼吸なんか繰り返していたら、仕事が迷走するわ!」
●鳥山人事課長:「駄洒落なんか言わないでください。とにかくひたすら仕事をしろ、っていつの時代の話ですか。社長がそんな態度だから、みんなストレスまみれなんです」
○鷲沢社長:「話をすり替えていないか。では聞くが、タスクを先送りしてかまわない、定刻になったら何があろうとも仕事を止めて帰ってよいというのか」
●鳥山人事課長:「ですから、そういう話ではないのです。先ほどもお伝えしたとおり、マインドフルネス瞑想を繰り返すことで仕事をこなす力がついてくるのです。すぐ効果が出るとまでは申し上げませんが、結果として仕事をうまくこなせるようになるでしょう。走ってばかりいれば、走るスピードは上がりますか。今の選手は違うトレーニングをするでしょう」
○鷲沢社長:「わが社の社員が陸上選手のように走っているのか? さっき言っていたグーグルやフェイスブックで働く社員のように頭を使っているのか? 私には信じられん」
●鳥山人事課長:「そんな」
○鷲沢社長:「たいした量の仕事もしてないのに、脳のエネルギー消費を抑え、心が満たされた状態にしたいってか! もっと働いてから言えよ」
●鳥山人事課長:「しゃ、社長……」
○鷲沢社長:「決めたぞ。さっき言った通り、君がやりたければマインドフルネスの研修を採用してかまわん。ただし休日にだ。そして日ごろの仕事の中でアクションフルネス瞑想をやってもらう」
●鳥山人事課長:「え? アクションフルネス……瞑想?」
○鷲沢社長:「大量行動によって雑念を振り払っている状態にもっていく。短時間で爆発的に行動量を増やせば超集中状態に入ることができる」
●鳥山人事課長:「時折仰っている1日の訪問件数を増やせ、というあれですか」
○鷲沢社長:「そうだ。外回りとは限らない。普通なら1時間かかるタスクを半分の30分でやろうとすれば超集中状態に入れる。これもアクションフルネス瞑想の一種だ」
●鳥山人事課長:「あのう、意図は分からないでもないですが、瞑想とは違うような……」
○鷲沢社長:「大量行動をやり切り、満たされている状態になれば、頭の中の思考ノイズや疲れた気分など吹っ飛んでしまうわ!君が瞑想に期待していることと同じだよ」
大量行動で意識を集中できる
私はマインドフルネス瞑想を否定しているわけではありません。「いま」「ここ」「自分」に意識を集中させて脳を活性化させるというやり方はありだと思います。
ただし、「いま」「ここ」「自分」に意識を集中させるために大量行動をするという選択肢もあると私は考えているのです。
大量行動について本連載で何度か触れていますが、ノルマをやたらに増やすとか、注文がとれるまで帰宅を許さないとか、そういうことを言っているのではありません。
普段仕事をしているときでも、時間短縮を意識し、複数のタスクを一気に処理していくと、雑念を振り払えるものです。
大量行動もタスク集中もすぐにできるわけではありません。上長が見守り、しかるべきアドバイスをします。研修や練習と同じです。
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