本連載は架空の会社における対話を使って、営業目標を絶対達成するコツを2分間でお伝えするものです。
まだ20代ながら優れたアプリを開発し、フィンテックベンチャーを起業した蝶野会長は、営業をはじめとする経営を50代の鷲沢社長に任せています。鷲沢社長はメガバンク出身、複数の会社で社長を務めてきました。
鷲沢社長と蝶野会長との会話を読んでみてください。いつもは鷲沢社長が蝶野会長を叱咤激励するのですが、途中から風向きが変わっていきます。
「あれだけ言ってるのにわかっていない」
○鷲沢社長:「まったくダメだな。あれだけ言ってるのに全然わかっていない」
●蝶野会長:「社長、少しお疲れになっているのでは」
○鷲沢社長:「大丈夫です」
●蝶野会長:「最近、調子が悪そうに見えます」
○鷲沢社長:「気のせいですよ」
●蝶野会長:「社長に頼りすぎている私に責任があります。私もマネジメントをやりますから」
○鷲沢社長:「あなたは創業者であり、オーナーであり、何よりも優秀な技術者です。わが社を軌道に乗せるには、あなたの頭脳が頼りです。マネジメントなんて、私や他の連中に任せればいいのです」
●蝶野会長:「ありがとうございます。ただ、私も経営について、マネジメントについて、きちんと勉強したいと思っています」
○鷲沢社長:「創業して3年、大手の金融機関から認められつつある。今が大事なとき。あなたはまだ若い。もっと事業が安定してから、いくらでも勉強してください」
●蝶野会長:「そうですか。わかりました」
「行動を変えない営業が多すぎる」
○鷲沢社長:「それにしてもひどい。わかっているくせに、行動を変えない営業が多い」
●蝶野会長:「ずいぶん変わったと思いますが。社長に来ていただいてから、みんな、外に出るようになりました。以前はパソコンの前にずっと座っている営業がいましたが」
○鷲沢社長:「これが普通の姿です。行動の量はこなせるようになってきました。私が怒っているのは行動の質です」
●蝶野会長:「商談につながりそうな材料を予め集める、予材がうまく積めないということですね」
○鷲沢社長:「そうです。目標の2倍の予材を仕込み、絶対達成させるマネジメント手法を定着させるために、私はここへやってきました」
●蝶野会長:「はい。予材管理の話を聞いて、ぜひ、とお願いしたのです」
○鷲沢社長:「なぜ、行動量を増やしてもらったか、わかりますか」
●蝶野会長:「たくさんの予材を仕込むためには、多くのお客様を訪問し、各部署のキーパーソンと接触を繰り返さないといけません。これまでは会いやすいお客様、買ってくれたお客様にしか、会わない営業が多かった」
○鷲沢社長:「その通り。ところが、行動量は増えたにもかかわらず、予材が積み上がってこない。行動に中身が伴っていない」
●蝶野会長:「中身ですか。訪問先でどう行動したらよいのか、中身を考えるのは難しそうです」
量を落とさなければ質を高められないのか
○鷲沢社長:「問題はそこです。『中身が伴っていない』と私が指摘したら……」
●蝶野会長:「指摘したら?」
○鷲沢社長:「『それでは中身を意識します』と言って、行動量を半分にする営業が続出した」
●蝶野会長:「あちゃあ」
○鷲沢社長:「行動の量を落とさなければ行動の質を高められない。この理屈はおかしい」
●蝶野会長:「パソコンのキーボードをたたくスピードを落としたところで、いいアプリがつくれるわけではないですからね」
○鷲沢社長:「うまいことをおっしゃる」
●蝶野会長:「それで昨日の朝、緊急の会議をした」
○鷲沢社長:「朝一番、営業全員を集め、私から厳しく話しました。会議を開いたわけではない」
●蝶野会長:「なるほど、それでか……」
○鷲沢社長:「……」
●蝶野会長:「……」
○鷲沢社長:「どうかされましたか」
●蝶野会長:「いや……。私が甘いので、組織を引き締めてほしいから社長に来ていただいたのですが」
○鷲沢社長:「それで」
●蝶野会長:「どうも……。営業のみんなは思考停止状態になっているのではないですか。ちょっと心配です」
○鷲沢社長:「思考停止?」
●蝶野会長:「たまたま、昨日の夜、みんなと飲みに行ったのですが、なんだか上の空だったのですよ。どうしたら目標を達成できるのか、達成するためには、どのような予材を増やさなければならないか、とか尋ねてみたのですが、わからないとか、社長を何とかしてくれとか、言ってくるならまだしも、みんな下を向いてばかりでした」
○鷲沢社長:「うーん」
●蝶野会長:「鷲沢社長は銀行マンとして、あるいは社長として、立て直しや改革を断行されてきたと伺っています。みんな、厳しくても社長についていきましたよね」
○鷲沢社長:「全員がそうではなかったですよ」
●蝶野会長:「全員ってどういう人たちでしたか。当社は私を含めて全員、20代の若い会社です」
○鷲沢社長:「ああ、そうか。そこは違いますね。私が在籍していたどの会社も、50代、40代、30代、20代、年齢が異なる者、社歴が異なる者、いろいろいました」
●蝶野会長:「当社の場合、年齢は全員近いし、創業者の私を含めて社歴も浅い。そもそも、社会人として半人前ばかりです」
○鷲沢社長:「うーん」
褒めること自体をマネジメントしよう
●蝶野会長:「それでですね。今朝から考えていました。ホメジメントをしたらどうかと思って」
○鷲沢社長:「ホメジメント? 相手を褒めてマネジメントするということですか」
●蝶野会長:「というか、まずは相手を褒めること自体をマネジメントしないといけないかなあと。褒めることはなかなか難しいので」
○鷲沢社長:「難しい。私の年は彼ら営業の倍以上だ。照れくさくてとても褒められない」
●蝶野会長:「それは現状維持バイアスですよ、社長」
○鷲沢社長:「現状維持バイアス!」
●蝶野会長:「失礼しました。しかし、そうじゃありませんか」
○鷲沢社長:「うーむ」
●蝶野会長:「まず褒めるプランを決めましょう」
○鷲沢社長:「褒めるプラン?」
●蝶野会長:「数字で決めます。1日に1回とか、午前と午後に1回ずつとか」
○鷲沢社長:「褒めることがあればいつでも褒めるつもりだ」
●蝶野会長:「やるときはやる、というのは、少し前のうちの営業のせりふと同じです」
○鷲沢社長:「無理やり褒めろと言うのか」
●蝶野会長:「営業の行動習慣と同じ。褒める習慣をつけるために『量』から入りませんか」
○鷲沢社長:「うむむむ」
●蝶野会長:「褒める中身を考えるのは、褒める習慣がついてからでいいと思います」
○鷲沢社長:「中身を考えても、褒める量は減らさない、ということだな」
●蝶野会長:「はい。社長に褒められたらみんな嬉しいですよ。厳しい人だからこそ、嬉しさが倍増します。私が褒めるより、社長が褒めたほうがはるかに効果があります。目標を絶対達成できる組織にしたいので、ぜひお願いします」
普段から部下に厳しい人に効果あり
相手に厳しく接すれば、相手の行動や意識が変わり、結果を出すでしょうか。目標を達成させるうえで厳しさは必要ですが、思考停止になるほど相手を追い込んでしまうと逆効果です。
そこで「ホメジメント」です。「褒める」と「マネジメント」をくっつけた私の造語です。
褒めてマネジメントする、という意味もありますが、真意は「褒めること自体をマネジメントする」という点にあります。すなわち、褒めるPDCAサイクルをまわすのです。
意識しないと、部下を褒めることができない経営者、マネジャーは案外います。そうした人はまず、褒めるプラン(P)を考えます。
1日1回は褒める。あるいは、部下がこうできたら「すごいね」と声をかける。このように決めるのです。そして実行(D)します。
実行に入ってからは、定期的に「正しく褒めているか?」「褒めるタイミングを逃していないか?」とチェック(C)し、改善(A)していきます。
普段から部下に厳しい人には特に効果があります。ぜひホメジメントを試してみましょう。
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