現場に入ってコンサルティングをしていると、達人と言えるマネジャーか、その逆のマネジャーか、すぐに分かります。
達人は動きに無駄がありません。部下への指示も的確です。達人ではない人はマネジメントの仕方が行き当たりばったりで雑、しかも無駄な動きが多いです。
鷲沢社長と小鹿コンサルタントとの会話をお読みください。
○鷲沢社長:「それにしても当社のミドルマネジャーはいかんな。これまできちんと教育してこなかったツケがまわってきた」
●小鹿コンサルタント:「マネジャーの教育を怠る会社は弱いですね」
○鷲沢社長:「やはりそうか。先代の社長は立派な方だったが、ほとんど何でも自分で決めていたからなあ。的確な指示をマネジャーに出していたが、教育するという発想は無かった」
●小鹿コンサルタント:「ワンマンで経営できる時代ではもうありません」
○鷲沢社長:「とはいえ私がいたメガバンクでも実践的なマネジャー教育ができていたかというと疑問があるな。教科書通りのリーダー研修とやらはあったが」
●小鹿コンサルタント:「気休めの研修ですね」
○鷲沢社長:「きついことを言う。確かに研修という名前が付いていたが、どちらかと言えば交流が目的のイベントだったな」
●小鹿コンサルタント:「あまり身にならないですよね」
○鷲沢社長:「コンサルタントの君にも研修のオファーが来るだろう」
●小鹿コンサルタント:「はい。研修の依頼が来たらもちろんやります。ビジネスですから。正直言って、研修が一番お金になります」
○鷲沢社長:「ほう。コンサルティングはどうだ」
●小鹿コンサルタント:「今やっているような現場に入り込むコンサルティングは実のところ、それほど儲かりません。四六時中、コンサルティング先のことを考えているわけですし」
○鷲沢社長:「そういうものか。マネジャー教育の話だが、どうしたらいいと思う」
「資格試験に合格するぐらい真剣にやらないといけません」
●小鹿コンサルタント:「最低でも半年、いや1年は続けないといけません」
○鷲沢社長:「それだけの期間、マネジャーは研修を受けなくちゃならないということか」
●小鹿コンサルタント:「受けるっていうか……。受講するだけでは駄目ですね。すぐ忘れます。資格試験に合格するぐらい真剣にやらないと。例えば中小企業診断士の一次試験に合格するには1000時間の勉強が必要と言われています。二次試験も合格するなら、もっとです」
○鷲沢社長:「1000時間か。平日は2時間勉強するとして5日間で10時間。土日は5時間やって1週間に20時間。このペースで50週間、つまり、約1年間勉強しないといけないわけだな」
●小鹿コンサルタント:「それで一次試験だけです。二次試験も結構難しいですから、二次の準備もそれなりにしないと受かりません」
○鷲沢社長:「1年で二次まで合格しようと思ったら、かなりの覚悟が必要だな」
●小鹿コンサルタント:「そういう覚悟でマネジャーも勉強してほしいです」
○鷲沢社長:「1年に1000時間は無理だろう」
●小鹿コンサルタント:「時間ではなく覚悟の話です。本気になって100時間ぐらいマネジメントの教育を受けるといいです。マネジメントの基本が全然分かっていない人が多いですから」
○鷲沢社長:「確かに、教育しなさすぎだな、マネジャーたちに」
●小鹿コンサルタント:「マネジャー次第で企業は変わりますからね。そう考えると不思議です。これだけ大事なことなのに、しっかり教育投資をする企業が少ない」
○鷲沢社長:「君がコンサルティングしている先でマネジャー教育をみっちりやっている企業はあるか」
●小鹿コンサルタント:「それほどありませんが過去に1社ありました。その会社は年間100時間以上は研修していたと思います。週に2~3時間きっちりと。年間50週、100時間は超えますね」
○鷲沢社長:「それだけ研修を受けると、どうなる」
●小鹿コンサルタント:「達人になりますね」
○鷲沢社長:「た、達人?」
●小鹿コンサルタント:「そうです」
○鷲沢社長:「もう少し具体的に教えてくれ。達人のマネジャーって、どんな感じだ」
●小鹿コンサルタント:「無駄な動きをしません。勉強すれば勉強するほど、トレーニングを積めば積むほど、そうなっていきます」
○鷲沢社長:「うーむ。興味深い」
●小鹿コンサルタント:「一番分かりやすいのは会議です。マネジメントの達人がする会議は美しいです」
○鷲沢社長:「会議が美しい?」
●小鹿コンサルタント:「無駄がまったくないからです」
○鷲沢社長:「武道のようなものか。剣道や柔道を極めた達人は無駄のない動きで相手をやっつけるそうだ」
●小鹿コンサルタント:「茶道のようでもあります。派手さはありません。静かで清らかなのです」
○鷲沢社長:「むむむ……。怒鳴り合ったりしないということか」
●小鹿コンサルタント:「皆無です。水を打ったような、凛とした静けさが会議室の中に立ち込めています」
○鷲沢社長:「おいおい、さすがにそれはないだろう。そんな会議があるものか」
達人の会議は15分以内に終わる
●小鹿コンサルタント:「会議資料は美しいくらい必要最小限です。核心をついたデータしか記載されません。質疑応答はありますが、これも必要最小限。会議での合意形成がとてもスムーズです」
○鷲沢社長:「……」
●小鹿コンサルタント:「達人が部下を招集した会議はたいてい15分以内に終わります」
○鷲沢社長:「たったの15分か」
●小鹿コンサルタント:「会話に無駄がないからです。達人が一言えば、部下たちは十を理解してくれます」
○鷲沢社長:「優秀な部下たちばかりだから美しい会議とやらができるのだろう」
●小鹿コンサルタント:「そのように部下を育てるのがマネジャーの仕事です」
○鷲沢社長:「う」
●小鹿コンサルタント:「会議を見ればマネジャーのレベルが分かります。目的がはっきりしない。ルールに則らず誰かが延々と喋り続ける。分かりにくいデータや文章が入り乱れた資料が配布される。ひたすら長い。マネジャーが何も勉強せずやっているから、そういう会議になるのです」
○鷲沢社長:「うちはそういう連中ばかりだな」
●小鹿コンサルタント:「社長が今、提唱している予材管理はシンプルな考え方です。目標の2倍の営業の材料を予め仕込み、予算を絶対達成する」
○鷲沢社長:「そう、予材管理はシンプルだ。だが、それを美しく運営してくれるマネジャーが少ない」
●小鹿コンサルタント:「もっと徹底して教育しましょう。教育時間をしっかりとれば、マネジメントにかかる時間が激減し、みんなのストレスも減っていきます」
マネジャーたちがいかに教育を受けてきていないか
現場に入っていると、ミドルマネジャーたちがいかに教育を受けてきていないか、すぐに分かります。
技術者であれば、徹底した実務教育を受けています。ところが、なぜかマネジャーはそうではないのです。研修を受けたとしても1年に1回程度。内容も表面的で、実務で生かしているマネジャーはほとんどいない。これが実情です。
教育を受けていないマネジャーは我流でやるため、武道に例えると作法が分かっておらず、すべてが適当です。無駄な動きが多く、剣道で言うと竹刀をただ振り回しているだけ。見た目も美しくなく、ストレスがたまるやり方です。
労働生産性を上げて時短に励まなければならない現在、企業はマネジャー教育をしっかりやるべきだと言えます。
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