「実はな、私自身が辞めようと思っている」

○鷲沢社長:「実はな」

●正田課長:「どうかされましたか」

○鷲沢社長:「私自身が辞めようと思っている」

●正田課長:「えっ?」

○鷲沢社長:「ある広告代理店から、ぜひとも社長を引き受けてほしいと言われている」

●正田課長:「な、なんと」

○鷲沢社長:「正田軍次課長、いや、ショーグン課長。後は頼むぞ」

●正田課長:「じょ、冗談でしょう?」

○鷲沢社長:「その広告代理店の創業社長が病気で亡くなったのは7月だ。銀行時代まで含めると長いお付き合いで大変世話になった。『私に万一のことがあったら後は鷲沢に』と言い残されたそうだ」

●正田課長:「だからと言って」

○鷲沢社長:「最後にお会いしたとき、『これからいよいよグローバルに打って出る』と熱く語っておられた。さぞ無念だったと思う」

●正田課長:「……」

○鷲沢社長:「ショーグンの言葉で覚悟が決まった。君の言う通りだ。何事も変化する。ポジティブな離職もある」

●正田課長:「……そんな。考え直していただけませんか」

○鷲沢社長:「『辞めるというなら辞めればいい』と言われてすっきりしたよ。どうした。なんだか顔色が悪いぞ」

●正田課長:「社長が退職するって聞いたら、誰だって動揺しますよ」

○鷲沢社長:「大丈夫だ。ショーグンもさっき言ったじゃないか。『一人や二人、退職者が出たからといって、動じる必要はない』と」

従業員が離職したら駄目という話ではない

 離職率が低い、それをもって「ホワイト企業」と呼ぶようになってから、離職者が出ることを恐れる企業が増えています。

 離職率や離職者数ははっきり見える数字ですが、結果の数字だけ見ていても問題の所在はわかりません。

 いい会社であるかどうかを論じるのなら、その指標として最も参考になるのはやはり財務諸表です。財務が不健全なのに、離職者が少ない企業もあります。業績が悪化しているのに、従業員の大半が会社に不満を持たない場合もあります。

 離職は色々な要因が絡み合って起こる出来事です。原因を探ることは必要ですが、離職率の数字だけに過剰反応しないようにしましょう。従業員が離職すると即駄目だ、という話ではありません。