「糖質制限ダイエット」が大流行りです。仕事においても糖質と同じように制限したほうがいいものがあります。
持田主任と鷲沢社長との会話を読んでください。
○鷲沢社長:「君が8月から入社した持田さんだな。よろしく頼む。期待しているよ」
●持田主任:「ありがとうございます。がんばります」
○鷲沢社長:「私がこの会社に来てからまだ1年も経ってない。亡くなった先代社長から『社長をやってくれ』と頼まれた」
●持田主任:「はい。伺いました。今は組織改革の真っ最中だそうですね」
○鷲沢社長:「そうだ。君にもぜひ力になってもらいたい」
●持田主任:「はい」
○鷲沢社長:「新しい風が入ってくることは、とてもよいことだ」
●持田主任:「ありがとうございます。期待に応えるようモチベーションを上げていきます」
○鷲沢社長:「……。ところで印刷会社で課長をしていたそうだな」
●持田主任:「はい。女性初の管理職だったもので、周囲の視線を感じてしまい、モチベーションが下がることが多かったですが」
○鷲沢社長:「そうか……。まずは主任で始めてもらうが、チームの目標を達成してくれれば、すぐにでも課長に就いてもらおうと思っている」
●持田主任:「わかりました。3人の部下と早速コミュニケーションをとっています。どうすればモチベーションを高めて、結果を出せるか、話し合っているところです」
○鷲沢社長:「おいおいおい!」
●持田主任:「え……」
モチベーションという言葉が日本で一番嫌いな社長
○鷲沢社長:「私の自己紹介をしておこう。おそらく日本で一番『モチベーション』という言葉が嫌いな社長だ。というわけで、私の前でその言葉を使うのは止めてくれ」
●持田主任:「モチベーションと言うな、と」
○鷲沢社長:「そうだ」
●持田主任:「あのう、意味がわかりません」
○鷲沢社長:「モチベーションってどういう意味だ」
●持田主任:「モチベーションというのは……やる気とか、意欲とか」
○鷲沢社長:「よし、『やる気』にしよう。その言葉を使いたまえ」
●持田主任:「はあ」
○鷲沢社長:「3人の部下と早速コミュニケーションをとって、どうすれば『やる気』を高めて結果を出せるか、話し合っているところなのだな」
●持田主任:「ええと……」
○鷲沢社長:「そういうことだろう」
●持田主任:「『やる気』と言うと、何か違う気がします」
○鷲沢社長:「何が違う」
●持田主任:「うーん……」
○鷲沢社長:「『モチベーション』と似た言葉に『イノベーション』がある」
●持田主任:「え! 全然違う意味ですよ」
○鷲沢社長:「そんなことはわかっとる! 意味をあまり考えず、気軽に口にする奴が多い。そこが似ているということだ。モチベーションをアップしよう! 当社もイノベーションを起こそう! こんなことを言っている奴が多すぎる」
●持田主任:「どうしてモチベーションという言葉を毛嫌いされるのですか。私はモチベーションをうまく上げられる方法を知っています。だからこそ今まで成果を出してこられたと思っています」
○鷲沢社長:「君は甘い物が好きだ」
●持田主任:「いきなり何でしょう。確かに好きですが」
○鷲沢社長:「君が初日に持ってきた差し入れはマカロンだった。しかも有名ブランドの。結構高かったに違いない」
●持田主任:「よく御存じで」
○鷲沢社長:「デパ地下が好きでな、時々スイーツの店を訪れる」
●持田主任:「そうでしたか! 私もスイーツには目がないです」
○鷲沢社長:「すごく美味しいケーキ屋を知っている。今度、お勧めのケーキを買ってきてやろう」
●持田主任:「ありがとうございます! あ、でも、今は糖質制限をしています。ご飯、麺類、それからケーキも控えていまして」
○鷲沢社長:「糖質制限ダイエットなんてする必要があるのか」
●持田主任:「ダイエットではないのです。糖質をとると血糖値が急にアップして、それから急にダウンします。するとまた糖質が欲しくなります。ショートケーキを食べると、しばらくしてシュークリームとか、プリンとか、食べたくなってきます」
○鷲沢社長:「わかる。ラーメンを食べた後、チャーハンが食べたくなったりする」
●持田主任:「炭水化物もそうですよね」
○鷲沢社長:「お好み焼きをおかずに食べるご飯もうまい」
●持田主任:「糖質をとると、さらに糖質が欲しくなります。我慢すると血糖値が下がってイライラしてきます。そうならないように、あらかじめ制限しているのです。ゼロにはしていませんが、ご飯は少なめ、ケーキは我慢です。タンパク質やビタミン、ミネラルが豊富な野菜を積極的に食べるようにしています」
○鷲沢社長:「糖質とモチベーションは同じだな」
●持田主任:「え」
○鷲沢社長:「モチベーションを上げようと何かを試みると、アドレナリンが分泌される。闘争本能を呼び起こすホルモンだから、あまり分泌していると、かえって疲労がたまってくる。ホルモンバランスが崩れる恐れすらある」
●持田主任:「そ、そうなのですか」
○鷲沢社長:「心当たりがあるだろう。仕事の成果は出ているかもしれないが、だるい気分にならないか」
●持田主任:「実はあります。モチベーションを上げようとすると、体に負担がかかるような感覚が」
○鷲沢社長:「糖質と同じだよ。依存していく」
●持田主任:「どうすればいいのでしょう」
○鷲沢社長:「モチベーションとやらを気にせず、もっと自然体で取り組むことだ。チームで営業目標を達成する。あたりまえのことだ。あたりまえのことをするのにモチベーションなど必要ない」
モチベーションを持ち出す人は「あたりまえ」の基準が低い
「やるのがあたりまえ」ではないことをしなければならない場合があります。そのときはモチベーションを意識してもよいでしょう。
そうではなく、「やるのがあたりまえ」のことをするのであれば、そもそもモチベーションなど必要ありません。
何かと言うとモチベーションを持ち出す人は「やるのがあたりまえ」のことの基準が低い人です。営業目標を絶対達成、と聞いたとたん、できない理由を並べ始める人は基準が低いのです。
そういう人は何か行動を起こすたびにモチベーションがどうのこうのと言います。いったん何かに頼ると、癖になり、不平不満をすぐ覚え、体も気持ちも疲れてきます。
仕事のシチュエーションをあれこれ思い起こしてみましょう。そして「やるのがあたりまえ」かどうか、整理してみてください。
ほとんどが「やるのがあたりまえ」のことでしょう。モチベーションのことなど考えず、さっさとやってしまうことです。
私はモチベーションを全否定しているわけではありません。「ここぞ!」という場面で必要かもしれません。ただ、そういう場面は稀だと申し上げているのです。
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