○鷲沢社長:「そうだ。そのためにはお客様を知らなければならない。お客様をよく知り、こういう商談になりそうだ、という仮説、すなわち予材をしっかり溜めていく。これが増えているかどうか、そこが管理すべき点だ。つまり君たち課長には、お客様や予材という単位で管理してもらいたい。1日や1週間という単位で細かく行動を管理しなくていい」

●亀戸課長:「1日という単位では予材がどうなっているかまでは分からないですからね。ただ、予材を増やすような活動をしているかどうか、そこは把握しないとまずいでしょう。この会社をなぜまた訪問したのか、とか。行きやすいところばかりでなく、もっと行きにくいところにも顔を出して関係を構築しろ、とか。そう指導しています」

○鷲沢社長:「君たちに期待しているのはまさにそこだ。君の指導は正しい。そこでもう一度聞くが、そうするために日報がいるのか。君は日報だけでコミュニケーションしているのか。部下の顔を見ると、声をかけてヒアリングしていないか」

●亀戸課長:「していますね。ただ、日報で状況を把握していないと、結局詳しく聞くことになり……あっ、これが現状維持バイアスですか」

○鷲沢社長:「頭がまわってきたじゃないか。データの話を一つしようか。君の部下が営業日報を書くのに、どれぐらい時間をかけているか、知っているか」

●亀戸課長:「え、いや」

○鷲沢社長:「明石専務が調査済みだ。平均45分。長い場合、1時間もかけて書いているのもいる」

●亀戸課長:「そんなにですか? そんなはずは……」

○鷲沢社長:「文章ファイルを開いて書き込み、メールに添付して君に送る、すべての処理の合計時間だ。全員にキッチンタイマーを持たせて計測させた」

●亀戸課長:「キッチンタイマー?」

○鷲沢社長:「調査結果をもう少し聞きたまえ。日報処理をするために、それがなければ家に直帰できるにもかかわらず、オフィスに戻ってくる営業もいる。オフィスに戻ると日報の提出だけでなく、他の事をやり始めるので結局、退社時間が遅くなり、時間外労働が増えている」

●亀戸課長:「……そんな」

○鷲沢社長:「それに対し、予材管理シートなら1週間に1度見直して差分を書き込むだけだ。文章を書く欄もほとんどない。20分もあれば終わる。ということは営業日報を止めるだけで、営業1人当たり毎月10数時間、時間外労働を削減できる」

●亀戸課長:「そ、そんなになりますか」

○鷲沢社長:「多くの企業が働き方改革を意識している。こっちのほうこそ、おそらく常識だぞ。優秀な人材に来てもらうために、無駄な労働時間を減らしていかなければならない。もっと時間感覚を身に付けたまえ。それにはキッチンタイマーがいい。予備も含めて10個ほど持っているから、一つプレゼントするよ」

●亀戸課長:「キッチンタイマーって、ピピピ、ピピピとうるさいじゃないですか」

○鷲沢社長:「君に渡したそのキッチンタイマーはバイブレーション機能が付いている。仕事に使うには便利だよ。日報は止めても、営業とのやり取りは今まで通りやってくれ。営業の予材管理シートを定期的に見ていけば状況はつかめる。君ならできるよ」

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