なかなか行動を変えない部下がいます。態度を改めない部下に上司はどう接すればいいでしょうか。コーチングでもなく、ティーチングでもない。「プッシング」という荒業をご紹介します。
今回のバトルでは番狂わせがあります。いつも威勢のいい鷲沢社長が部下の正田課長に言いまかされます。正田課長は「「やらされ感」を言う人へのカウンターパンチ」で初登場した“ショーグン課長”です。正田軍次という名前なので、ショーグンと呼ばれています。
それでは鷲沢社長とショーグン課長のバトルをお読み下さい。
○鷲沢社長:「君が入ったのは半年前だったな。そうとは思えないぐらい、存在感がある。ショーグン課長の名を知らない奴は社内でいない」
●正田課長:「そうでしょうか。普通にやっています」
○鷲沢社長:「若手をビシビシ鍛えていると聞いた。私が望んでいたことだ。長い間ぬるま湯に浸かっていた連中が多いから、君のようにインパクトを与えてくれるマネジャーを待っていたところだ」
●正田課長:「恐れ入ります。ただ、それほどビシビシやっていません。営業以外の部署に思い込みの激しい人たちがいて、そう言っているようですが」
○鷲沢社長:「そうか……。面談記録を読んだが部下一人ひとりとしっかり話をしているな」
●正田課長:「それは当然です。ほとんどの部下は私より社歴が長いのです。いくら私が課長でも頭ごなしに命令はできません。言い分があれば耳を傾けます」
○鷲沢社長:「それで思い出したが君はコーチングのトレーニングを受けているそうだね」
●正田課長:「はい。3年ぐらいかけて、300~400時間ほどトレーニングを受けてきました」
○鷲沢社長:「本格的だな」
●正田課長:「以前コーチングも実際にしていましたから」
○鷲沢社長:「コーチというとソフトな人だというイメージがあったが」
●正田課長:「もちろんソフトにやります。質問話法を使いながら相手をモチベートさせないといけませんから」
○鷲沢社長:「なるほど。ただ、部下に強い姿勢でのぞんでいるという話も聞いたが」
●正田課長:「締まってないなと感じたらビシッと締めます。ただ、いつもそうしているわけではないので、ビシビシやっているのかと聞かれると違うという答えになります」
○鷲沢社長:「それならソフトじゃないだろう」
●正田課長:「なんだか話が噛み合いませんね、社長。部下にコーチングはしていませんよ」
○鷲沢社長:「え、そうなのか」
コーチングは自主性や主体性が乏しい相手には効き目薄
●正田課長:「コーチングは、自主性や主体性がしっかりある相手でないと効果が出にくいのが現実です」
○鷲沢社長:「自主性に、主体性か……」
●正田課長:「私が以前コーチをしていたとき、クライアントの方から1時間で1万2000円ほど頂戴していました。もちろんご自身のお金です。私が今抱えている部下の中に、身銭を削ってコーチングを頼む人がいるでしょうか」
○鷲沢社長:「いないだろうな。金を払ってコーチングを受けたいと思う奴はうちには一人もいないかもしれない。君から見て部下はどうかね」
●正田課長:「何かの行動をする前にそのリスクをすぐ考えますね。『それをするとこうなるかもしれません』といったように。観ている世界がちょっと狭すぎですね」
○鷲沢社長:「行動するリスクばかり考えて、行動しないリスクを考えない、ということだな」
●正田課長:「そうです。それを教えないといけません」
○鷲沢社長:「コーチングではなくティーチングをするわけか」
●正田課長:「はい。とはいえ、ティーチングだけでは駄目ですね」
○鷲沢社長:「え、どういうことだ」
●正田課長:「プッシングが必要です」
○鷲沢社長:「プッシング?」
●正田課長:「部下の話は聞きます。きちんと向き合って傾聴しています。面談記録を見ていただいた通りです。ただし、傾聴をするのは3回くらいです。それを過ぎたらティーチングに入ります。どうすべきなのか、私の意見をハッキリ伝えます。たいていの場合、部下は同意してくれます」
○鷲沢社長:「同意?」
●正田課長:「ですが行動は変わりません」
○鷲沢社長:「同意したら行動を変えるだろう、普通」
●正田課長:「変えませんね。お言葉ですが社長はもっと現場を見たほうがよいと思います。どんなに教えても、やらない部下はやりません。動かない部下は動きません。いくらティーチングしても、こちらがじっと待っていても駄目です」
○鷲沢社長:「うーん」
●正田課長:「せっかくの機会ですから申し上げますが、社長が想像している以上に怠け者が多いです」
○鷲沢社長:「君、怠け者って……。やはり噂通りのショーグンだな」
●正田課長:「上司が部下に背中を見せていたらよかった時代は終わっています。部下に背中を見せても彼らは怠けるだけです。上司が部下の背中を見て、押すのです」
○鷲沢社長:「なるほど、それがプッシングか……」
●正田課長:「ちょうどいいです、社長、今から部下と面談があるので一緒に来てください」
○鷲沢社長:「え、何を言い出したんだ、突然」
●正田課長:「たまには面談に付き合ってくれてもいいでしょう」
○鷲沢社長:「社長の私が同席したらやりにくいだろう。それに私もこれから色々と仕事が……」
●正田課長:「いいから、行きましょう! 騙されたと思って来てください」
○鷲沢社長:「うーん、わかった。付き合おう。部屋はどこかね」
●正田課長:「ありがとうございます、社長。これがプッシングです」
○鷲沢社長:「……背中を押されたよ」
自主性のない人に自主性を求める上司は駄目上司
部下に何か要求を出し、部下が同意したとしても、部下が行動を変えるとは限りません。変えることは稀と言ってもよいでしょう。
本気で部下の行動を変えたかったら、その場で要求し、部下が動きを変えるまで見届けるのです。部下から「やります」と言われただけで満足してはいけません。
自主性がない人にコーチングはもってのほかです。ティーチングでも駄目ならプッシング、背中を押す努力をしましょう。自主性のない人に自主性を求める上司は駄目上司です。
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