現場に入ってコンサルティングをしていると、駄目な上司に出会います。多くの場合、駄目な上司は『あるなしマネジメント』をしています。
「あるなしマネジメント」とは何でしょうか。
獅子山課長と部下の蟻田が、外部コンサルタントの小鹿の前で面談を始めました。次の会話を読んでみてください。
○獅子山課長:「蟻田くん、調子はどうだ」
◎蟻田:「そうですね。なんとかやっています」
○獅子山課長:「先月の売上達成率は98%。もう一息だったな」
◎蟻田:「あと少しでした。申し訳ありません」
○獅子山課長:「今月はがんばっていこう」
◎蟻田:「はい、がんばります」
○獅子山課長:「新規開拓はどうだ」
◎蟻田:「やっています」
○獅子山課長:「ならいい。ただ、なかなか成果は出ないかな」
◎蟻田:「そうですね。すぐには形にならないものです」
○獅子山課長:「そうだな。とにかく意識してやっているな」
◎蟻田:「はい。意識して新規の開拓をやっています」
○獅子山課長:「ならいい。先日の展示会のフォロー電話だが、かけているな」
◎蟻田:「かけています」
○獅子山課長:「ならいい。反応はどうだ」
◎蟻田:「悪くありません」
○獅子山課長:「商談になりそうか」
◎蟻田:「それはなかなか……」
○獅子山課長:「そうか。残業は大丈夫だな。仕事を効率よくやって残業を減らしてくれ」
◎蟻田:「はい。部長からも、きつく言われているので」
○獅子山課長:「やっているな」
◎蟻田:「やっています」
○獅子山課長:「ならいい。すぐに効率を上げられなくても効率を意識してやっていこう」
◎蟻田:「しっかりやっていきます」
○獅子山課長:「よし、これから小鹿さんと話があるから君はもういい。現場に戻ってくれ。とにかく予材管理だ」
◎蟻田:「はい。予材管理ですね。やっています」
○獅子山課長:「予材管理をやっていれば時間がかかっても必ず目標を絶対に達成できるようになる。いいな」
◎蟻田:「はい。ありがとうございます」
○獅子山課長:「あ、もう一つ、来週のプロジェクト会議の準備、やっているかな」
◎蟻田:「あ、やっています」
○獅子山課長:「ならいい」
◎蟻田:「失礼します」
○獅子山課長:「おう、お疲れさん」
●小鹿コンサルタント:「……」
○獅子山課長:「ふう」
●小鹿コンサルタント:「……」
○獅子山課長:「あれが蟻田です」
●小鹿コンサルタント:「知っています」
○獅子山課長:「がんばってはいるのですが、なかなか芽が出ません。当社に中途で入ってきて3年目になります。そろそろ35歳ですから主任にしたいと思っているのですが、肝心の営業成績がいまひとつです」
●小鹿コンサルタント:「……」
○獅子山課長:「どうすればいいのでしょうか。以前はマネジメントなどほとんどやらなかったのですが、最近反省して、このようにやっているのですがなかなか」
●小鹿コンサルタント:「マネジメントをやっている、と言いましたか」
○獅子山課長:「ええ」
●小鹿コンサルタント:「マネジメントって何ですか」
○獅子山課長:「え」
●小鹿コンサルタント:「獅子山課長は何がマネジメントだと思っていますか」
○獅子山課長:「どう答えたらいいのか」
●小鹿コンサルタント:「それではこうします。蟻田さんの何が問題なのか、お聞きしたいです」
○獅子山課長:「何でも聞いてください。私の部下ですから」
●小鹿コンサルタント:「蟻田さんは営業をやっていますか」
○獅子山課長:「もちろんです。彼は営業マンですから、営業をやっているに決まっています」
●小鹿コンサルタント:「ならいいです」
○獅子山課長:「はあ? ならいいって」
「やっているというならいいじゃないですか」
●小鹿コンサルタント:「営業という職種で営業をやっている。ならいいじゃないですか」
○獅子山課長:「どういうことですか。営業をやっているなら、それでいいって」
●小鹿コンサルタント:「さっきから蟻田さんとそう話していたじゃないですか」
○獅子山課長:「ちゃんと説明してもらえますか。遠まわしに言うのは止めていただきたい」
●小鹿コンサルタント:「新規開拓をやっているか、と聞いたら、やっていると蟻田さんが答えていました」
○獅子山課長:「そうだが」
●小鹿コンサルタント:「『やっているか』『やっています』『ならいい』の連続でした」
○獅子山課長:「…」
●小鹿コンサルタント:「『フォローの電話をかけているか』『かけています』『ならいい』」
○獅子山課長:「あ」
●小鹿コンサルタント:「『残業対策をやっているか』『やっています』『ならいい』」
○獅子山課長:「う……」
●小鹿コンサルタント:「『予材管理をやっているか』『やっています』『ならいい』」
○獅子山課長:「うう……」
●小鹿コンサルタント:「『プロジェクトの準備をやっているか』『やっています』『ならいい』」
○獅子山課長:「ちょ、ちょっと待ってください!」
●小鹿コンサルタント:「そんなことばっかり言っているから、私は聞いてみたかったのです。蟻田さんは『営業をやっているか』と。そうしたら『やっています』とお答えになったので『ならいい』と私も思ったわけです」
○獅子山課長:「私を馬鹿しているのですか!」
●小鹿コンサルタント:「馬鹿にしてるのは獅子山課長ですよ」
○獅子山課長:「なんだと!」
「あなたのやっていることをマネジメントとは呼びません」
●小鹿コンサルタント:「マネジメントを馬鹿にしています。あなたのやっていることをマネジメントとは呼びません。『マネジメントをやっているのですか』と聞いたら『やっています』と言われたので驚いてしまいました」
○獅子山課長:「く……」
●小鹿コンサルタント:「『やっている』か『やっていない』とか、『ある』か『なし』とか、それで判断するものではありません。そもそも蟻田さんは新規顧客の訪問件数が極端に少ないし、フォロー電話の数も少ない。かけるタイミングはばらばら。なのに残業は増える一方です」
○獅子山課長:「そ、それはわかっています」
●小鹿コンサルタント:「社長が進めている予材管理についても『予材管理をやっているかどうか』という話ではありません。予材ポテンシャルのある企業に、どのような予材を仕込んでいくのか。どうすれば目標の2倍まで積み上げられるか。そういうことをもっと具体的に話し合わないといけません」
問題点をあぶりだそう
現場に入ってコンサルティングをしていると、「やっているのか」「やっていないのか」と確認するだけの上司にしばしば出会います。
「ある」か「なし」をチェックするだけのやり方を私は『あるなしマネジメント』と呼んでいます。正確には「あるなしマネジメントもどき」です。
新規顧客の訪問を「やっているか」と尋ねて、部下が「やっている」と答えました。新規顧客を1社しか訪問していない営業マンも、100社訪問している営業マンも、どちらも「やっている」と答えます。
しかしそれだけではマネジメントのサイクルを回すことはできません。
「訪問回数」「タイミング」「スピード」「品質」など、いろいろな切り口で「何を、どれぐらい、どのぐらいの量、やっているのか」を確認し、問題点をあぶりだし、指導する必要があります。
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