リーダーはしっかりした軸を心の中に持つべきだ、と言われています。
「しっかりした」というところが肝要です。ぶれたり、折れてしまったりしては、リーダーとは言えません。
では、どうしたらしっかりした、ぶれない軸を持てるのでしょうか。
鷲沢社長と小鹿コンサルタントとの会話を読んでください。
○鷲沢社長:「今度の経営会議で発言してくれるのか」
●小鹿コンサルタント:「はい。社長よりも社外の私が言うほうがいいと思いますので」
○鷲沢社長:「うむ……」
●小鹿コンサルタント:「営業目標を絶対達成するため、社長方針である予材管理を徹底する」
○鷲沢社長:「その通り」
●小鹿コンサルタント:「予め仕込んでおく営業の材料、すなわち予材を営業目標の2倍まで積み上げる。そのために7月、幹部合宿をする」
○鷲沢社長:「営業課長は全員、缶詰だ」
●小鹿コンサルタント:「2倍の予材を仕込むまで帰ってはならない」
○鷲沢社長:「ん?」
●小鹿コンサルタント:「どうされましたか」
「課題をこなすまで帰宅は許さない」
○鷲沢社長:「帰宅を許さない、と言い切るのはさすがに労務上どうかな……」
●小鹿コンサルタント:「2倍の予材を必ず積む、その覚悟で合宿に臨め、という意味です。ただ、社長が宣言すると何でしょうから私が言います」
○鷲沢社長:「そうだな」
●小鹿コンサルタント:「竹虎常務に根回しはしておきました」
○鷲沢社長:「常務はどう言っていた」
●小鹿コンサルタント:「逡巡されていましたが、私が押し切りました」
○鷲沢社長:「まだ迷いがあったか」
●小鹿コンサルタント:「予材管理を断固として進める。この軸がぶれるようではいけません」
○鷲沢社長:「わかっている。わかっているが……家の事情でどうしても日曜日の昼までに帰宅しなければいけません、と言っていた課長がいたな」
●小鹿コンサルタント:「ええ。ですが、わかりました、とは言えません。例外を認めては駄目です」
○鷲沢社長:「だが」
●小鹿コンサルタント:「日曜の朝までに予材を2倍にすればいいだけの話です。顧客データを吟味し、『この客にはこういう予材があるはず』と仮説を立ててもらう。土曜の夜に集中し、一気に片付けてしまえばいいのです。時間を長くかければかけるほど、作業の密度が低くなります」
○鷲沢社長:「うーむ」
●小鹿コンサルタント:「何か問題がありますか」
○鷲沢社長:「いや、ないのだが」
●小鹿コンサルタント:「……」
○鷲沢社長:「君は確か40歳だったな」
●小鹿コンサルタント:「はい」
○鷲沢社長:「年齢は関係ないかもしれないが、それにしても君はクールだ。気持ちいいぐらい、淡々としている」
●小鹿コンサルタント:「褒めていただいたと受け止めます」
○鷲沢社長:「もちろん褒めている。私が君の年齢のころは銀行の支店長だったが、気性が荒いことで有名だった。すぐ感情的になってしまい、周りを困らせていたな」
●小鹿コンサルタント:「今でもときどきそうなるではありませんか」
○鷲沢社長:「はっきり言ってくれるな。確かにそうだが、昔の私は今の比じゃない。気性の荒さから『荒鷲』と呼ばれていた」
●小鹿コンサルタント:「そのニックネーム、似合っていますね」
○鷲沢社長:「馬鹿言っちゃいかん。私は気に入っとらんかった。ところで、どうしたら君のようにいつも冷静でいられるのかね。感情的になると肝心の軸がぶれてしまう」
●小鹿コンサルタント:「私もそれなりに気性が激しいほうだと思っています」
○鷲沢社長:「そうなのか。まったくそう見えないが」
●小鹿コンサルタント:「事情があって幼いころから父母の怒鳴り合いを毎晩のように聞かされました。ですが私も気性が荒く、両親に反発したり、周囲に当たったりしていました」
○鷲沢社長:「……」
●小鹿コンサルタント:「高校へは行かず、16歳から住み込みの寮に入り、力仕事をしていました。色々な現場を転々とされている方と一緒に働くことが多く、ちょっとやそっとのことでは動じなくなりましたね」
○鷲沢社長:「そこで感情を抑えられるようになったのかな」
●小鹿コンサルタント:「そうでもなかったようが気がしますが、とにかく仕事をしなければなりませんでしたから。ひょんなことから営業をやってみるかと言われ、結果を出せるようになると社長が営業幹部に引き上げてくださいました」
○鷲沢社長:「そこからの経歴は聞いている。金を貯めて独立し、住宅設備関連の会社を設立し、規模を大きくしてから売り、35歳までに一財産つくった」
●小鹿コンサルタント:「恐れ入ります。今のコンサルティング会社に入ったのはまあ、何かの縁ですね。まさか私がコンサルタントになるとは自分でも思っていませんでした」
○鷲沢社長:「根性がすわってるから向いているよ。君がそうなったのは経験によるところが大きいのだろうな」
●小鹿コンサルタント:「その件ですがご質問にお答えすると、ひとつ思い当たることがあります」
○鷲沢社長:「なんだ」
感覚を感情に変換しない
●小鹿コンサルタント:「私は極力、感覚を感情に変換しないようにしています。何らかの刺激があると何かを感じます。それをそのままにしておき、感情に形を変えないようする。そういうことを時々、意識しているのです」
○鷲沢社長:「よくわからんな。感覚と感情ってどこが違う」
●小鹿コンサルタント:「胸のあたりのざわつき、どきどきする感じ。体が熱くなったり、頭が締め付けられるような。うまく言葉にできないのですが、これが感覚です」
○鷲沢社長:「ははあ、面倒くさいとか、いらいらするとか、言葉にできるものが感情ということか」
●小鹿コンサルタント:「はい。感覚を言語に変換したものが感情だと私はとらえています」
○鷲沢社長:「なるほど。だが、感覚を感情に変換しないなんてことができるのか」
●小鹿コンサルタント:「トレーニングすればできます。やってみてはいかがですか」
○鷲沢社長:「無理だ。だいたい、これまで生きてきた境遇が違いすぎる」
●小鹿コンサルタント:「それは関係ありません」
○鷲沢社長:「関係がある! 君にはわからんのだ」
●小鹿コンサルタント:「感情的になってますね」
○鷲沢社長:「うっ」
●小鹿コンサルタント:「私より20歳も先輩なのですから、もう少し冷静になってください」
○鷲沢社長:「ぐっ! く、くそ……。私を試そうとしているな……」
●小鹿コンサルタント:「私の指摘が刺激になって何らかの感覚を覚えたのだと思います。それを面白くない、という感情にせず、感覚のままにしておくのです。できるようになりますよ」
リーダーがぶれると組織もぶれる
リーダーは組織という扇の要です。リーダーがぶれない軸を持っていれば、組織のメンバーは確かな覚悟を持つようになっていきます。
逆にリーダーが少しでもぶれると、組織全体が大きくぶれることになりかねません。メンバーにとってストレスになります。
しっかりした軸を持つために、リーダーは感情をコントロールしなければなりません。とはいえ、ネガティブな感情がいったん湧き上がってしまうと、それを抑え込んだり、別の感情に切り替えるのはなかなか難しいものです。
感情を抑えるのではなく、感情そのものを生み出さないトレーニングをしてみましょう。コツとしては、胸がざわついたり、痛みを覚えたり、といった感覚が沸き起こったときに、その感覚にのみ意識を集中し、決して言語化しないことです。
「瞑想」や「マインドフルネス」の原理と同じです。自分の体に起こった変化に焦点を合わせ、雑念を生み出さないようにするのです。最初は慣れなくても、繰り返すことで少しずつできるようになります。ぜひ試してください。
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