夏のボーナスの時期が近づいてきています。営業の成績優秀者に対し、何らかの報奨金を支払う企業もあるでしょう。
報奨金を現金で出したがる鷲沢社長と、それに異を唱える日高人事部長のバトルを読んでください。
●日高人事部長:「社長、本気で今年の夏のボーナスから成績優秀者に報奨金を出すのですか」
○鷲沢社長:「ああ、そうしたい」
●日高人事部長:「 10万円、 5万円、3万円の3種類と」
○鷲沢社長:「ナンバーワンの営業には25万円を渡そうかと考えている」
●日高人事部長:「現金で支払いたいと仰っているとか」
○鷲沢社長:「そうだ。給与としての課税処理はするが」
●日高人事部長:「賛成しかねます」
○鷲沢社長:「なぜだ」
●日高人事部長:「現金支給なんて下品だと私は思います」
○鷲沢社長:「下品?」
●日高人事部長:「人を札束で動かそうとする行為ですから」
○鷲沢社長:「見かけによらず君は神経質だな。営業は現金でもらったほうが嬉しいだろう」
●日高人事部長:「お言葉ですが、その発想が貧困です。政府のバラマキと同じじゃないですか」
○鷲沢社長:「話が飛躍しているぞ。借金をして営業に払おうというわけではない」
●日高人事部長:「それはわかっています」
○鷲沢社長:「上半期、営業部はよく頑張ってくれた。業績は回復しつつある」
●日高人事部長:「それもわかっています」
○鷲沢社長:「本来なら一律の特別手当を出したいところだが、そうはいっても営業ごとに成績のバラつきがある。だから報奨金として一人ひとりに払いたい」
●日高人事部長:「将来への投資にまわしませんか。教育とか」
○鷲沢社長:「まず、営業部の面々に報いることが重要だ。もちろん、教育は教育でやればいい」
●日高人事部長:「営業に報いたいというお気持ちは尊重しますが、それと現金を渡すことは別です。やっぱり下品です」
○鷲沢社長:「さっきから下品下品と、君はくどいな」
●日高人事部長:「札束攻勢がとにかく嫌なのです」
○鷲沢社長:「揚げ足を取るようだが札束というほど沢山出すわけじゃないぞ。要するに、銀行振り込みにしろということか」
●日高人事部長:「報奨金そのものに反対なのです。ただ、どうしても出すと仰るならボーナスと同じ扱いでいいじゃないですか。課税処理もわかりやすいですし、スマートです」
○鷲沢社長:「……妹さんの結婚式は先週末だったかな」
●日高人事部長:「あ、はい。どうしたのですか。突然」
○鷲沢社長:「結婚おめでとう。まだお祝いの言葉を言っていなかった」
●日高人事部長:「ありがとうございます。お陰様で無事結婚できました」
○鷲沢社長:「お兄さんの君もさぞかし嬉しかっただろう」
●日高人事部長:「はい。そりゃあもう」
○鷲沢社長:「ご祝儀も奮発したのか」
●日高人事部長:「もちろんです。たった一人の妹でしたから」
結婚式のご祝儀を銀行から振り込むか
○鷲沢社長:「銀行振り込みにしたのだろうな」
●日高人事部長:「ええっ」
○鷲沢社長:「そのほうがスマートだ」
●日高人事部長:「いやいや社長、ご祝儀を銀行から振り込む人なんていませんよ」
○鷲沢社長:「どうして」
●日高人事部長:「どうしてって、気持ちが伝わらないからですよ。当たり前じゃないですか」
○鷲沢社長:「その通りだ!」
●日高人事部長:「え……」
○鷲沢社長:「君は間近で妹さんを見てきたから喜びもひとしおだったろう。私も頑張っている営業たちを近くで見てきたから、彼ら彼女らが成果を出してくれたことが嬉しい。君はどう思っているか知らないが」
●日高人事部長:「そ、そりゃあ、私だって……」
○鷲沢社長:「頑張った社員に報いるために、一声かけて手渡ししたい。現金で渡すことが本当にいいかどうかはわからん。それでも私はそうしたい。突然言い出してすまんが協力してくれ」
●日高人事部長:「申し訳ありません。現金を準備するのは手間だなどと考えていました。お恥ずかしいです」
○鷲沢社長:「下半期もさらに業績が上向くといいんだが」
●日高人事部長:「報奨金をもらえなかった営業たちが奮起してくれるといいですね」
○鷲沢社長:「本当は全員に渡したいよ」
配慮して渡すことが不可欠
成績優秀者に報奨金を支払うことは諸刃の剣です。お金が万人のモチベーションを上げるとは限りません。頑張っていたのに色々な事情があって成績を残せなかった営業のやる気をそぐ危険もあります。
とにかく出せばいいというものではなく、社長自ら、配慮して渡すことが欠かせません。報奨金の支給対象にならなかった社員に対する声掛けも重要です。
Powered by リゾーム?