学校を出て社会人になったとき、あなたはどういう気持ちだったでしょう。昇進し初めて部下を持ったときはいかがでしたか。転職したり起業に関わったりした方であれば、その直後はどうでしたか。
人生と仕事の節目の時期を振り返り、今の自分と比べてみると色々な気付きがあるものです。
当時は何でも挑戦できたのに、最近はなぜか気持ちが乗らない、そのようなことはありませんか。がむしゃらに仕事をしていたのに数年経つと気が抜けてしまうことがあります。
もしそうだとしたら、あなたは知らぬ間に「含み損を抱えた人」になっている危険があります。
鷲沢社長と揚羽課長との会話を読んでみてください。
午前11時、会社でスマホに見入る課長
○鷲沢社長:「さっきから何をスマホで見ている」
●揚羽課長:「FXです。ドル円とユーロ円それぞれ両建てでポジションを持っているのですが値動きが激しすぎて……」
○鷲沢社長:「激しすぎるとどうなる」
●揚羽課長:「含み損が大変なことになります」
○鷲沢社長:「レバレッジをきかせているのか」
●揚羽課長:「10倍ほどです」
○鷲沢社長:「それじゃあキツイな」
●揚羽課長:「ええ。困りました」
○鷲沢社長:「ところで揚羽君」
●揚羽課長:「はい」
○鷲沢社長:「今は何時だ」
●揚羽課長:「え」
○鷲沢社長:「今何時と聞いている」
●揚羽課長:「ええと11時4分です」
○鷲沢社長:「夜の11時4分か」
●揚羽課長:「いえいえ、午前11時4分です」
○鷲沢社長:「君は今どこにいる」
●揚羽課長:「会社にいますが」
○鷲沢社長:「その通り、午前11時4分、君は会社にいる。では君の役割は何だ」
●揚羽課長:「営業です。社長の歓迎会のときに挨拶しましたよ」
○鷲沢社長:「もう一つ聞こう」
●揚羽課長:「なんでも聞いてください」
○鷲沢社長:「オーナーの蝶野会長と一緒にこの会社を始めた、いわゆる創業メンバーだよな、君は」
●揚羽課長:「ええ」
○鷲沢社長:「そして9人いる営業のトップ。課長だ」
●揚羽課長:「そうです」
○鷲沢社長:「創業メンバーの営業責任者が真昼間の11時4分、会社で何をやっているのかね」
●揚羽課長:「え」
○鷲沢社長:「聞こえないか。何をしている、と聞いておる」
「営業トップのくせに昼間からFXか」
●揚羽課長:「今、言った通り、エフ……」
(鷲沢社長が手に持っていた紙コップをいきなり握りつぶす)
●揚羽課長:「わっ」
○鷲沢社長:「驚くな。君はもう25歳だろ」
●揚羽課長:「ひ、人を威嚇するのはパワハラですよ……」
○鷲沢社長:「逆だ。これでも私なりに我慢している。君がまともな返事をしないからだ」
●揚羽課長:「ですから先ほどから説明しているではないですか。FXをしていると」
○鷲沢社長:「営業トップのくせに昼間からFXか」
●揚羽課長:「あ、そういうことですか。大丈夫です。これは仕事です」
○鷲沢社長:「どこが」
●揚羽課長:「当社はフィンテックのアプリを開発している会社です。会長から新しいFXゲームアプリの操作感をチェックしてほしいと頼まれたのです」
○鷲沢社長:「ゲームだと」
●揚羽課長:「そうです。実際の取引なんかしていません」
○鷲沢社長:「通貨ペアとか両建てがどうとか言っていたじゃないか」
●揚羽課長:「それもゲームの中の話です。このアプリすごくよくできていてFX取引をそのまま体験できます。飛行機のシミュレーターのようです」
○鷲沢社長:「……」
●揚羽課長:「ですから仕事なのです。社長もやってみますか」
(鷲沢社長が握りつぶした紙コップを勢いよくゴミ箱に放り込む)
●揚羽課長:「ひぇえ」
○鷲沢社長:「驚くなと言っておる。決して怒鳴らないと会長と約束した。『厳しく指導してほしいが社員は全員20代、怒鳴られた経験がないので』と説明された」
●揚羽課長:「あのう、見るからに怒鳴りたそうですが」
○鷲沢社長:「だから我慢している。話を続けるぞ。スマホでゲームなんて紛らわしいことを会社でするな」
●揚羽課長:「いえいえ、仕事のうちですって」
○鷲沢社長:「待て。君は営業課長だ。なぜ客のところへ出向かない。先日、全員の前で宣言してもらっただろう。金融機関に足しげく通うと」
●揚羽課長:「それは……」
○鷲沢社長:「1日10件まわる。君はそう宣言した」
●揚羽課長:「しましたよ。お言葉ですが会長から依頼された操作感の確認はどうすればいいのですか」
○鷲沢社長:「頭を使え! 移動中にやればいいだけだ」
●揚羽課長:「う」
「なんて情けない営業課長だ」
○鷲沢社長:「情けない……。なんて情けない営業課長だ。我々の会社が急成長しているのは会長が開発したフィンテック用アプリのおかげだ」
●揚羽課長:「創業メンバーですからわかっています。でも、金融機関にアプリを売り込んだのは私です。当時は寝ないで提案書をつくり、会ってくれるまで何度も行きました」
○鷲沢社長:「会長からそう聞いたよ。だから期待していたのになんということだ。創業してもう3年、仕事の引き合いはどんどん来ている。なのに当時の熱い気持ちがなくなってしまった」
●揚羽課長:「……」
○鷲沢社長:「今朝、何時に出勤した」
●揚羽課長:「9時半です」
○鷲沢社長:「9時半から11時すぎまで君は含み損を抱えた」
●揚羽課長:「含み損?」
○鷲沢社長:「それだけの時間があれば金融機関2件くらいに挨拶できただろう。時間はもう戻らん。無駄をしたのだから君のポートフォリオ上、損を抱えたはずだ」
●揚羽課長:「そ、そんな理屈は……」
○鷲沢社長:「今朝の含み損は一部に過ぎん。メディアに注目され、業界からもちやほやされるようになってから、君はがむしゃらに営業することを忘れてしまっている。その頃から君の含み損は膨らみつづけていると考えていい」
●揚羽課長:「……」
○鷲沢社長:「安心しろ。私が社長になったからにはレートを反転させ、君という人材に含み益が出るまでハードワークをしてもらう」
人の含み損は気を抜くとすぐに膨らむ
以前は確かにあったのに、いつの間にか無くなってしまった。それは「素直さ」であったり、「謙虚さ」であったり、「がむしゃらさ」であったりします。
一言で言うなら「マインド」です。スキルや知識、経験値、ノウハウは蓄積されていきますが、マインドは短期間で悪いほうに変わることがあります。
どんなに素晴らしいスキルや知識、ノウハウ、そして実績を持っていようと、マインドに欠けるところが出てきてしまっては、その人のマーケットバリューは落ちていきます。本人が気付かないうちに大きな含み損を抱えてしまっていると言ってよいでしょう。
人の含み損は気を抜くとすぐに膨らみます。大変なことになる前に自力でレートを反転させなければなりません。
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