「前提になる知識が決定的に足りないです」
●小鹿コンサルタント:「ところで先日、獅子山課長の部下の方、お二人に同行いたしました」
○獅子山課長:「あ、聞いています。ありがとうございました。どうでしたか、二人は。コンサルタントの目から見て、うまく商談を進めていたでしょうか」
●小鹿コンサルタント:「お二人とも前提になる知識が決定的に足りないですね」
○獅子山課長:「な……」
●小鹿コンサルタント:「お客様が宣伝したい製品の基礎情報、強みと弱み、お客様のやりたいこと、まったくといっていいほど、頭に入っていないようでした」
○獅子山課長:「……」
●小鹿コンサルタント:「御社は広告代理店です。お客様は自分の製品をアピールしたいから広告を出すわけです。ところが、御社は主要なお客様の製品や業界の情報を調べて、データベースにしていません」
○獅子山課長:「うーん。お客様の数は多いし、色々変わりますから、データベースと言われても」
●小鹿コンサルタント:「ありとあらゆることを調べてデータベースを構築しろ、と言っているわけではないですよ。営業部門として、必要不可欠な知識や情報を集めておき、利用できるようにしていますか、と聞いているのです。先日のお二人はお客様の製品のみならず、競合他社の製品情報も収集できていないようでした。それで、どんな広告を提案できるのでしょうか」
○獅子山課長:「いや、それは……」
●小鹿コンサルタント:「自社製品のデータベースも物足りないです」
○獅子山課長:「自社製品?」
●小鹿コンサルタント:「社内の別の営業課が手掛けている広告や、新しい媒体の利用について、お二人とも関心がないようでした。ひょっとすると、お客様が望む広告に近いものを隣の課がもうやっているかもしれません」
○獅子山課長:「それぐらいは自分でやってもらいたいが」
●小鹿コンサルタント:「個人の自主性に任せることではないと思いますよ。組織として、データベースにすることが重要です。ついでに申し上げておくと、営業の常識のデータベースもありませんね。広告の営業なら知っておくべき、当たり前のことがわかっていません」
○獅子山課長:「ちょっと待ってください。それは言い過ぎではありませんか。私の部下だって、みんな一所懸命やっているのです」
●小鹿コンサルタント:「言い方に問題があったのなら、お詫びします。しかし、それも印象論ではないでしょうか」
○獅子山課長:「ぐ……具体的に、どんなことを知らなかったと言うのですか」
●小鹿コンサルタント:「一例ですが、AIDMAの話をしたら、聞いたことがないとお二人に言われました」
○獅子山課長:「Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、そしてAction(行動)という流れで顧客が意思決定するというあれですか」
●小鹿コンサルタント:「古典的な用語ですから、いまさらAIDMAではないだろう、と思われるかもしれません。が、お客様に気付いていただく広告、興味をもってもらう広告、欲求を喚起させる広告、行動を起こさせる広告。すべて作り方が違います。広告を営業するなら、今回の商談はどういう広告なのか、それをはっきりさせて提案すべきでしょう」
○獅子山課長:「……そ、その通りですね」
●小鹿コンサルタント:「そういう営業の常識もデータベースにしておく必要があります」
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