あらゆるモノがインターネットに接続する「IoT」の時代がやってきたと言われ、センサーの役割が高まりつつあります。
高性能センサーに対抗するわけではありませんが、人間としても検知能力を高めておかないとスピードが問われる今の時代を乗り切ることはできません。
愛社精神は人一倍あるものの何事にも先入観を持ってしまう明石専務と、鷲沢社長とのバトルを読んでみてください。
●明石専務:「社長、今は『センサー』の時代だと聞きました」
○鷲沢社長:「センサー?」
●明石専務:「先日、あるセミナーに参加して、モノがインターネットにつながる『IoT』の技術が普及すればするほど、センサーがさらに重要となってくると聞きました」
○鷲沢社長:「何らかの情報を検知して集め、分析する必要があるからな。確かに、高性能なセンサーが求められるだろう」
●明石専務:「年間1兆個のセンサーが活躍する時代がやってくるそうです」
○鷲沢社長:「食べ物の袋にもパンツの中にもセンサーが入ってくるというわけか」
●明石専務:「当社も色々考えていったほうがいいですね」
○鷲沢社長:「当社は商社だから、社員一人ひとりが情報を検知する力をもっと養わなければならんな。情報に鈍感な人間は取り残されていくだろう」
●明石専務:「人間がセンサーということですか」
○鷲沢社長:「そうだ。検知能力が高い社員をマーケッターとして活用したい」
●明石専務:「マーケッターで思い出したのですが、ライバルのX社を見習って当社もマーケティング部を置いてはどうでしょう。X社の広報戦略には見習う部分が多くあります。マーケッターを5人も抱えたマーケティング部があるから、ああいうことが出来るのだと思うのです」
○鷲沢社長:「誰に吹き込まれた。君のアイデアじゃないだろう」
●明石専務:「じ、実はそうです。この間当社にやってきた人事コンサルタントがそう言っていました」
「そのコンサルタントはかなり鈍いな」
○鷲沢社長:「そのコンサルタントはかなり鈍いな。頭に高性能センサーを付けてやりたいくらいだ」
●明石専務:「ど、どうしたのですか、社長」
○鷲沢社長:「X社の広報戦略って一体何だ。インターネットにページを作って『いいね!』を集めているだけじゃないか」
●明石専務:「いや、とてもよくできたページですよ。『いいね!』だけではなく、コメントの数も多いですし」
○鷲沢社長:「だからどうした。君のセンサーも壊れているのか」
●明石専務:「フェイスブックなんて時代遅れだと」
○鷲沢社長:「そんなことは言っとらん」
●明石専務:「お言葉ですが社長のほうこそ、ご自身のセンサーを取り替えたほうがよろしいのではないですか。X社はインスタグラムまで活用してプロモーションをするようになっていますよ。ソーシャルメディアの影響力を軽視してはいけないと思います」
○鷲沢社長:「話が噛み合わないな。ソーシャルメディアを軽視とか、そういう話じゃない。君こそセンサーを交換したまえ。私の考えをまったく検知できていない」
●明石専務:「何が問題なのですか」
○鷲沢社長:「当社もX社も大手のメーカーを相手にする商社だ。一般消費者はお客様ではない」
●明石専務:「わかってますよ」
○鷲沢社長:「大手メーカーの担当がソーシャルメディアを見るのかね」
●明石専務:「見るんじゃないでしょうか。……。見ないとも限りません」
○鷲沢社長:「意固地になるな。見るわけないだろう」
●明石専務:「どうして決め付けるのですか。やはり社長の頭は古すぎます。もっとセンサーを働かせて世間の動きを検知すべきです」
○鷲沢社長:「君こそ何でそう意固地なんだ。世間の動きって流行か。そんなことをキャッチしてどうするつもりだ。私たちが正しく検知すべきは現場だ。世間の空気に振り回されるな。現地現物にセンサーを取り付けろ。空高いところにアンテナを張ることはない。IoTだって同じだ。年間に1兆個もセンサーが必要なのは、それだけ現場に近いところにセンサーを取り付けるからだ」
●明石専務:「現場というとお客様ですか」
○鷲沢社長:「そうだ。そして我々のセンサーは営業担当者や我々だ。据え付けるセンサーのようにはいかんが、何度も訪問し、そのつど現場の様子をセンスしなければならん」
●明石専務:「スパイみたいなものですか」
○鷲沢社長:「人聞きの悪い例えだな。細部にまで神経を使うことが重要だと言いたいだけだ。まだ納得していないようだから、現場でセンスした話をしておく。この間、業界団体の会合に出たら、X社の管理職にばったり会った。偶然にも私が銀行員だった時の知り合いだった。彼も銀行を辞めて同業他社に移っていたのだな」
●明石専務:「世間は狭いですね」
○鷲沢社長:「ああ。向こうもつい気が緩んだのか、愚痴をこぼしていた。X社の社長は広告代理店から有名なマーケッターを引き抜いてマーケティング部を創設したそうだが、彼らマーケッターと現場の営業部門が噛み合っておらず、困っているそうだ」
●明石専務:「そ、そうなのですか……」
○鷲沢社長:「実際のお客様の動きにあまり興味を持たず、プロモーションの手段にこだわるそうだ。確かにフェイスブックやインスタグラムへの反応はいいが、それがきっかけで注文を取れた例はまだないらしい。X社の業績が堅調なのは、営業が一所懸命、お客様に顔を出しているからだと言っていた」
●明石専務:「……」
○鷲沢社長:「ところで話は変わるが加治木君の件だ。私から説得しておいた。もう少しやってみると言っていた。少なくとも年内は退職しない」
●明石専務:「ええっ? 加治木係長が」
○鷲沢社長:「知らなかったのか。君の検知力はどうなっている。性能の問題じゃないな、センサーが壊れている」
●明石専務:「社長、誰に聞いたのですか」
○鷲沢社長:「誰からも聞いてない。最近の加治木君の言動を観察していればわかる。だから呼び出して事情を聞いた」
●明石専務:「面目ありません」
○鷲沢社長:「そんなセンサーでは困るぞ。社外のコンサルタントに会うのはかまわないが、社内の様子にも、もっと気を配ってくれ。そうでないと今の時代、渡っていけない」
激流の中でビジネスをしているのが現代
川の激流の中でビジネスをしているのが現代と言えます。高い空ばかりにアンテナを張っていると、足元をすくわれ、溺れてしまいかねません。
現場のありとあらゆる所にセンサーを取り付けるつもりで、細部にまで神経をとがらせておきましょう。
といってもセンサーと同じで異変があったときだけ作動すればよいのです。24時間ずっと気にしているということではもちろんありません。
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