改革を推し進める鷲沢社長は援軍として外部から小鹿コンサルタントを招聘しました。しかし、鷲沢社長と小鹿コンサルタントの意見がなかなか合いません。
強いリーダーシップで組織を引っ張りたい社長と、対話重視のコンサルタントの考えがぶつかり合います。
外部コンサルタントと鷲沢社長との会話を読んでください。
●小鹿コンサルタント:「社長、そんなに立腹されなくとも……」
○鷲沢社長:「いい加減にしてもらいたい、本当に」
●小鹿コンサルタント:「しかし……」
○鷲沢社長:「しかし、じゃないっ」
●小鹿コンサルタント:「うーん」
○鷲沢社長:「営業部長のくせに、いまだに自分が達成しなければならない目標を即答できない。何度言ったらわかるのか。まったく信じられん」
●小鹿コンサルタント:「社長、そう感情的にならず……」
○鷲沢社長:「あなたは最近当社に出入りし始めたからまだわからない。社長になったときから、目標に焦点を合わせてほしい、と口を酸っぱくして言ってきた」
●小鹿コンサルタント:「存じ上げています」
○鷲沢社長:「目標に焦点を合わせているかどうか、何を聞けばわかる」
●小鹿コンサルタント:「目標そのものですね。焦点を合わせているなら脳のワーキングメモリに常駐しているはずですから即答できるでしょう」
○鷲沢社長:「その通り。営業部長なら『私の目標は7億8200万円です』と1秒以内に言えなければ駄目だ。続けて『この目標を絶対達成するには新規の取引先を最低7社は獲得しなければなりません。そのために毎月私が心掛けるべきことは……』といったようにアクションプランも言えないといけない」
●小鹿コンサルタント:「メモなど見ずに、すらすらと、ですね」
○鷲沢社長:「だが何度聞いても営業部長は『ええっと……』『私の個人の目標ですか、それとも部の目標でしょうか』などと、のらりくらりで即答できない」
●小鹿コンサルタント:「何度も社長から言われているのであれば、いい加減、即答できるようにならないといけませんね」
○鷲沢社長:「ああああ、腹が立つ!」
「もう61歳だ。体のあちこちにガタがきている」
●小鹿コンサルタント:「社長」
○鷲沢社長:「……」
●小鹿コンサルタント:「しゃ、社長……」
○鷲沢社長:「う……」
●小鹿コンサルタント:「どうされたのですか」
○鷲沢社長:「ちょっと胸が苦しい」
●小鹿コンサルタント:「ええっ」
○鷲沢社長:「…………大丈夫だ」
●小鹿コンサルタント:「しかし」
○鷲沢社長:「このまましばらく……うずくまっていると元に戻る」
●小鹿コンサルタント:「誰か呼んできましょうか」
○鷲沢社長:「騒がないでくれ。最近、こうなることがある」
●小鹿コンサルタント:「……」
○鷲沢社長:「……ふう」
●小鹿コンサルタント:「社長」
○鷲沢社長:「大丈夫だ」
●小鹿コンサルタント:「心配しました」
○鷲沢社長:「悪かった……。恰好悪いところを見せてしまって」
●小鹿コンサルタント:「いやいや……。最近なる、とおっしゃっていましたが」
○鷲沢社長:「たまに、な。もう61歳だ。体のあちこちにガタがきている」
●小鹿コンサルタント:「そうですか……」
○鷲沢社長:「それに今週は接待が多かった」
●小鹿コンサルタント:「無理をされていたのでは」
○鷲沢社長:「そうかもしれん。それにルーティーンはやはり守らないと」
●小鹿コンサルタント:「ルーティーンといいますと」
○鷲沢社長:「年をとってくると毎日のルーティーンが増える。あなたは40歳ぐらいだろうから、そうでもないかもしれないが」
●小鹿コンサルタント:「毎日何かされているのですか」
○鷲沢社長:「朝5時10分に起きる。顔を洗い、着替えてから、水を500ミリリットル飲む」
●小鹿コンサルタント:「500ミリリットルも」
○鷲沢社長:「それから観葉植物に水をやる。次にストレッチを20分、入念に。外へ出て20分ウォーキング。帰宅してからトイレに入る」
●小鹿コンサルタント:「へええ」
○鷲沢社長:「その後で妻と話をしながら朝食をとる。歯を磨き、髪を整え、背広に着替え、靴を5分間、自分で磨いてから出勤する」
●小鹿コンサルタント:「靴まで磨くのですか。一連の動作は決まっているのですね」
○鷲沢社長:「ああ。昔は朝の支度なんて適当だったものだが、今はきっちりやらないと。特に水を飲む、ストレッチ、ウォーキングだな。三つをさぼると体のあちこちが痛くなる」
●小鹿コンサルタント:「ひょっとして帰宅後も何かされていますか」
○鷲沢社長:「家に戻ってからまず腹筋を50回。ヨガのポーズを30分。これも日課だ。歯磨きにもけっこう時間をかけている。歯ブラシ、歯間ブラシ、フロス……いろいろ使うからな」
●小鹿コンサルタント:「そうでしたか。接待があると確かにやれなくなるところがあるでしょうね」
○鷲沢社長:「ルーティーンを今週は守れなかった。夜遅くまで飲んで帰ってくると、さすがに腹筋やヨガはできない。起床も少し遅くなり、ウォーキングを省略することになる。そうなるとやはり調子が悪い」
「小さなことを続けていかないと大きな問題に」
●小鹿コンサルタント:「一つひとつはちょっとしたケアかもしれませんが、小さなことをきちんと続けていかないと、大きな問題になったりしますよね」
○鷲沢社長:「まったくそうだ。昔、36歳で銀行の支店長になったころは、毎晩夜通し飲んでいてもまったく平気だった。体をケアするルーティーンなんて、何ひとつなかったな」
●小鹿コンサルタント:「そういうものでしょうね。仕事とか付き合いとか外のことに夢中で」
○鷲沢社長:「この年になると自分自身にも目がいくようになる。ストレッチとかウォーキングとか、これって自分の体と話をするようなものだな。ここの筋は今日どうか、とか、両足の調子はいいか、とか。そのルーティーンを崩すと、体がバラバラになってしまう」
●小鹿コンサルタント:「……会社もそうですよね」
○鷲沢社長:「何?」
●小鹿コンサルタント:「創業のころはよくても、ある程度、年齢を重ねると、会社にもケアのルーティーンがいるだろうな、と思いまして。今日、社長にそのことを教えていただきました」
○鷲沢社長:「どういうことだ」
●小鹿コンサルタント:「いろいろな会社のコンサルティングをしていますが、正直なところ、会社を興して10年ぐらいは勢いだけでなんとかなるものです。従業員の皆さんに多少の無理をしてもらっても、ついてきてくださいます」
○鷲沢社長:「……」
●小鹿コンサルタント:「しかし、創業してから何十年も経ったり、規模が大きくなったり、創業者がいなくなったりすると、日々の体のケアが必要になる、と思いました。社長のお言葉を借りますと『体と話をする』ルーティーンですね」
○鷲沢社長:「そういうことか」
●小鹿コンサルタント:「……」
○鷲沢社長:「営業部長のことを言いたいのだろう。確かに、部長の顔を見ると、ついつい叱りつけてしまう。お互いの関係をよくするためのケアを定期的にしてきたかというとそうではないな」
●小鹿コンサルタント:「営業部以外にも会社の体はたくさんあります。体をケアする対話をルーティーンでこなしていく必要があるのではないでしょうか」
○鷲沢社長:「それぞれの部署や担当者のケアということか。なるほど、考えさせられるよ」
昔は無理ができたとしても、今はそうではない
人間も組織も同じで年をとってくると体のケアが必要です。そうしないと、いざというとき踏ん張れません。昔は無理ができたとしても、今はそうではないのです。
面倒に思えるかもしれませんが、各部門や部下との対話をできる限り行いたいものです。組織の長にとって、組織を健全に保つために、日々の『対話』というルーティーンが不可欠です。
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