名刺フォルダーを鞄に入れて顧客回りをする。これが一昔前の営業スタイルでした。ところがパソコンが1人1台割り当てられるようになって以降、事務所のパソコンの前から動かなくなる営業が出現しました。
パソコンの前にずっと座っている営業を私は「パラサイト営業」と呼んでいます。オフィスに寄生している営業なのです。
そんなパラサイト営業課長と鷲沢社長との対決を読んでみてください。
●亀戸課長:「社長、先ほど戻られたのですか」
○鷲沢社長:「ああ。商談を2件こなすため、午前中から出かけていた」
●亀戸課長:「そうですか。今日の午後7時から営業会議を開くとメールしたのですがチェックされてますか」
○鷲沢社長:「まだ見ていない」
●亀戸課長:「今日の昼前に送ったのです」
○鷲沢社長:「そうか。外出していたからな」
●亀戸課長:「ということは午後2時ごろに出したメールも見ていないですよね」
○鷲沢社長:「見ていない」
●亀戸課長:「3時半に出したメールは?」
○鷲沢社長:「見ていないって! さっきも言っただろう、午前中から商談があって外出していたと」
●亀戸課長:「しかしスマホをお持ちですよね。外出先でもメールは見られますよ」
○鷲沢社長:「何を言っているのかね、君は」
●亀戸課長:「え? スマートフォンならメールをチェックできるでしょう」
○鷲沢社長:「君は“メール魔”だと聞いていたが本当に酷いな。どういう神経なんだ。スマートフォンのフォンの意味を知っているか」
●亀戸課長:「フォン?」
○鷲沢社長:「フォーンだよ」
●亀戸課長:「ええっと……。電話ですか」
○鷲沢社長:「そうだ。スマートフォンは、で、ん、わ、だ! 私に連絡したかったのなら、どうして電話をかけてこない」
●亀戸課長:「どうして、と言われましても……」
○鷲沢社長:「それに、だ。今、このスマホでチェックしてみるが……。ああ、やっぱり。見ろ、これが君のメールだ」
●亀戸課長:「は、はい」
○鷲沢社長:「文章がやたらと長い。会議で話し合う内容とか、6時まで誰々が参加できないので夜に開くことになり申し訳ないとか、余計なことが一杯書いてある。夜7時から営業会議、それだけでいいだろう」
●亀戸課長:「余計とはちょっと言い過ぎでは。説明しておかないと、なぜ夜にやるんだ、と質問してくる人がいますので」
○鷲沢社長:「この長いメールはキーボードから入力したのだろう」
●亀戸課長:「もちろんです。キーボードじゃないとメールなんて書けないですから」
○鷲沢社長:「なぜ昼前に、昼の2時に、3時半に、これほど長いメールを出せるのか。ずっとオフィスにいてパソコンとにらめっこしていたのか」
「どれだけメールが好きなんだ、君は」
●亀戸課長:「い、いや、そういうつもりでは……」
○鷲沢社長:「質問に答えたまえ。今日、外出したのか、しないのか」
●亀戸課長:「ずっと社内にいました。ただ、メールで部下とやり取りはしておりました」
○鷲沢社長:「どれだけメールが好きなんだ、君は。よし、決めた。総務部長に言って、君のパソコンからキーボードを取り外してもらう。これで外に行けるぞ」
●亀戸課長:「ええっ! キーボードがなければパソコンを使えませんよ」
○鷲沢社長:「結構だ。そもそも営業にパソコンなんて要らん」
●亀戸課長:「いくら何でも極端じゃないですか」
○鷲沢社長:「いいか、当社は再建中だ。営業がパソコンの画面ばかり見ていてどうする。社内外を動き回る。相手の顔を見てコミュニケーションをとる。当然のことだ。社長の私も同じだ。だから本当に必要なときしかパソコンは使わない。スマホで十分だ」
●亀戸課長:「ただ社長、私はもうすぐ50歳です。スマホで長い文章を書けないのです」
○鷲沢社長:「書かなくていい。フォーンだ! 要件があれば喋りたまえ」
●亀戸課長:「だからといってパソコンを使えなくするなんて横暴です」
○鷲沢社長:「分かった。君の部下全員のパソコンからもキーボードを外す」
●亀戸課長:「滅茶苦茶です、社長!」
○鷲沢社長:「滅茶苦茶は君たちだ! 現状維持バイアスを外したまえ!」
●亀戸課長:「げ、現状維持バイアス……」
○鷲沢社長:「お客様との直接コミュニケーションをとるのが君たちの仕事だ。パソコンの前に一日中、座ってメールばかり書いて、しかも夜遅くに会議をやるような連中がお客様から仕事をもらえるのか」
●亀戸課長:「……」
○鷲沢社長:「優先順位はどっちだ。お客様のところへ行くことか。メールを書くことか」
●亀戸課長:「そ、それはお客様です」
○鷲沢社長:「君の年齢なら分かるだろう。昔はパソコンなんか使わずに営業ができた」
●亀戸課長:「……昔のほうがお客様と向かい合って仕事をしていたかもしれません」
○鷲沢社長:「『相手の立場に立って考えろ』とよく言うだろう。だが、相手と向き合う時間が短ければ、相手のことなど考えようがない。メールのやり取りでは無理だ」
●亀戸課長:「確かに……」
○鷲沢社長:「ということで、パソコンは捨てて、スマホだけ持ちたまえ」
●亀戸課長:「ええっと……」
○鷲沢社長:「まだ何かあるのか」
●亀戸課長:「外に出たほうがよいのは仰る通りです。ただ、提案書や管理資料をどうすればいいのでしょう」
○鷲沢社長:「資料は管理部に作ってもらえばいい。私から話しておく。そもそも君たちは資料作りなんて得意じゃないはずだ。営業として、営業課長として、付加価値を最も出せる仕事をしてくれ」
営業は「喋ってなんぼ」の世界
営業はなんだかんだ言って「喋ってなんぼ」の世界です。お客様と面と向かって話す、これが一番インパクトがあります。ところが、コミュニケーションの手段がなまじ増えたため、迷っている営業が出てきています。
鷲沢社長はわざと極端な話をしていました。私はパソコンや電子メールを一切使うなと主張するものではありませんが、メールに頼るのは考えものです。
パソコンを使うのはほどほどにし、スマホを片手に外へ飛び出していきましょう。社員にスマートフォンを支給する企業が増えてきました。GPSは大半の人が外にいる営業部門にとって便利な機能です。音声通話とメッセージ交換を使えば部門内のやり取りは十分こなせます。
Powered by リゾーム?