「肩書は社長でも誰も言うことを聞いてくれません」

●小鹿コンサルタント:「はい。前の会長派と社長派で社内が二分されていたのですが、社長が退いたことで、会長を支えた重鎮が幅をきかせるようになりました。肩書は社長でも誰も彼の言うことを聞いてくれません」

○鷲沢社長:「いつの話です」

●小鹿コンサルタント:「3年前です。私が支援に入ったのは彼が30歳になってからでした。30歳とはいえ、立派な人でした。130人いる従業員一人ひとりと半年かけて面談し、自分の思いを語ったそうです。一回話してみただけでは、実態を把握できないので、さらに半年かけてもう1回、全員と面談しました。面談というか、『1on1』と呼んでいました」

○鷲沢社長:「ワン・オン・ワン?」

●小鹿コンサルタント:「社長は外部から来たばかりですから、なかなか信用してもらえません。とにかく時間をかけ、この会社をよくするために真剣に考えている、それを理解してほしいと、言い続けました」

○鷲沢社長:「……」

●小鹿コンサルタント:「全社員と『1on1』を1年近く続けて、ようやく30歳の新社長の言葉に力が宿るようになりました」

○鷲沢社長:「ほう」

●小鹿コンサルタント:「なかなか骨がある社長でしょう」

○鷲沢社長:「その後、どうなったのかな」

●小鹿コンサルタント:「信用してもらえるようになってから2年ほどかけて、組織を大改造していきました。これまでは会長か社長のトップダウンで物事が決まっていたのですが、今は現場が自分で考えて動ける会社に変わりましたね」

○鷲沢社長:「おお、それはすごいな」

●小鹿コンサルタント:「私が来たからには御社にも「全社員が考える組織」になっていただきたいです」

○鷲沢社長:「その通りだ。『考える組織』にならないと」

●小鹿コンサルタント:「ですから鷲沢社長にやってもらわなければなりません」

○鷲沢社長:「何を? まさか全社員との『1on1』をか?」

●小鹿コンサルタント:「はい」

○鷲沢社長:「おいおい。私は29歳で社長になった人とは違う。それに状況ならほぼ把握している」

●小鹿コンサルタント:「やるべきでないからやらない、ですか。それとも、やりたくないからやらない、ですか」

○鷲沢社長:「そういう言い方はないだろう。誰に向かって口をきいてるんだ」

●小鹿コンサルタント:「私は御社の最高責任者である、鷲沢社長に申し上げています。どちらでしょうか」

○鷲沢社長:「……」

●小鹿コンサルタント:「部下一人ひとりとじっくり話すのが苦手だということは先ほどのお話から分かりました。それなら、なおのこと、社長自ら率先して苦手なことに力を注ぐべきです。これから、部下たちに苦手なことをさせていくわけですから」

頭ごなしに自分の価値観を部下に押し付けない

 経営者や上司が頭ごなしに自分の価値観を部下に押し付けるのではない、対話によって組織や社風を変えていくやり方が注目されています。

 『1on1』もしくは『1on1ミーティング』は上司が指示を出したり叱咤したりする場ではなく、部下の成長のために行うものです。議題は決めず、相手に話したいことを話させ、上司は傾聴し、信頼関係を構築していきます。

 企業の規模には大小ありますし、必ずしも『1on1』にこだわることはありませんが、組織改革をするつもりなら、トップ自ら社員と向き合い、本音で語ることが不可欠です。