営業目標の2倍の「予材(予定材料)」を積み上げて、目標を絶対達成させる手法「予材管理」を私は提唱しています。本欄でも何度か紹介してきました。
予材管理で必要なことは、お客様との接点の量を増やす「大量行動」です。大量行動なくして、目標の2倍の予材を仕込むことはできません。
しかし、大量行動というと、「大量の売込み」だと勘違いする人が少なくありません。今回は猪突猛進する猪俣リーダーと鷲沢社長のバトルです。
●猪俣リーダー:「社長、何ですか。話って?」
○鷲沢社長:「先月私が渡した顧客リストはどうした」
●猪俣リーダー:「あの97件のリストなら、すでにアプローチしました。受注した商談はまだ一つもありませんが」
○鷲沢社長:「受注のことはさておいて、すべてのリストに連絡をしたのか」
●猪俣リーダー:「とっくにやりました。社長はまだ私のやり方をご存じないでしょうが、100件以内の顧客リストなら、その日のうちに全員にメールを出し、その後、3日以内に電話をかけてアポイントをとっていきます。リストをもらったら1週間以内には片付けます」
○鷲沢社長:「ものすごいスピードだな」
●猪俣リーダー:「ありがとうございます。脇目を振らずに突進するのが私のやり方です」
○鷲沢社長:「1週間で片付けたから、専務にも顧客リストをたかっていたわけか」
●猪俣リーダー:「たかる? いやらしい表現をしますね、社長。専務は18社のリストしか持っていませんでしたので、1日でアプローチを終えました」
○鷲沢社長:「そうか。それで今度は過去のイベントに参加した顧客リストをあさって、電話をかけたのか」
●猪俣リーダー:「たかるの次はあさるですか。何とでも言ってください。営業は結果がすべてですから。結果さえ出せば文句はないでしょう」
○鷲沢社長:「結果を出せないようでは困るが、結果がすべて、と言われるとそれはそれで極端だな」
●猪俣リーダー:「極端な価値観を持たないと、営業はやっていけませんよ。それとも何ですか、結果を出さなくてもいいって言うのですか」
○鷲沢社長:「先月から4件のクレームが入ってきている。すべて私の顧客からだ。長年付き合ってきた御社から突然激しい売り込みをされて驚いたという内容だ。名前も知らない営業だし、正直なところ話し方が無礼だった、と言ってきている」
●猪俣リーダー:「私のことですか」
○鷲沢社長:「君は以前、訪問販売をして健康食品を売っていたそうだな」
●猪俣リーダー:「ええ。これぐらいのクレームは普通でした。97件で4件ですよね、自慢にはなりませんが、以前はもっと高い確率でクレームが舞い込んでいました」
○鷲沢社長:「相手が個人だから、すぐ言ってきたのだろう。当社のお客様は企業で『大人の付き合い』を重視するから、個人ほどすぐには言ってこない」
●猪俣リーダー:「潜在的なクレームはもっと多いと仰りたいのですか」
○鷲沢社長:「君はどう思う。それほど激しい売り込みをしたのか」
●猪俣リーダー:「激しいと言いますか、いつものやり方で。電話をかけて一気に商品を説明し、とにかく一度会ってくれと頼みました」
○鷲沢社長:「すでに付き合いのあるお客様に、そんな電話をかけたら、相手が困惑するのも無理はないな。専務の顧客リストから来たクレームはもっと酷いぞ」
18社中6社からクレームが来た
●猪俣リーダー:「専務のお客様からもクレームが来たのですか」
○鷲沢社長:「専務のリスト18件中、すでに6件のクレームが届いている。打率3割だな。過去の君の数字と比べてどうだ」
●猪俣リーダー:「……ち、ちょっと高いです」
○鷲沢社長:「そのうち1社は今後の取引を断ると申し入れてきた」
●猪俣リーダー:「えっ」
○鷲沢社長:「これから専務と私で謝罪に行く。後で専務に謝るんだぞ」
●猪俣リーダー:「申し訳ありません。大口をたたいておきながら、どう説明していいかわかりませんが、今後厳重に注意します」
○鷲沢社長:「……」
●猪俣リーダー:「前の会社が倒産し、この会社に雇ってもらって、何とか結果を出そうと焦っていたのかもしれません」
○鷲沢社長:「……」
●猪俣リーダー:「社長にも失礼なことを申し上げました。二度とクレームを出さないようにいたします」
○鷲沢社長:「馬鹿野郎!」
●猪俣リーダー:「……え?」
○鷲沢社長:「本心でそう言っているのか」
●猪俣リーダー:「も、もちろん、本心で……」
○鷲沢社長:「クレームが来たくらいで動揺してどうする。頭を下げるのは私たち経営者の役割だから気にするな」
●猪俣リーダー:「……」
○鷲沢社長:「君はイノシシだろう! ヒヨコになってもらったら困る。イノシシのままで攻めてくれ。攻めていると、お客様から少しぐらい嫌味を言われたり、怒られたりぐらいのことはどうしてもある」
●猪俣リーダー:「それでいいのですか」
○鷲沢社長:「顧客リストを探し回り、攻めの姿勢で突進するのはいい。だが相手の気持ちを無視して売り込むのは止めろ」
●猪俣リーダー:「突進はいいが、売り込みは駄目と言われましても……」
○鷲沢社長:「いきなり売り込むなと言っているだけだ。まず、お客様の役に立つ情報を、これでもか、というぐらい提供しろ。それには製品知識が必要だし、業界動向などを常にチェックしておけ」
●猪俣リーダー:「お客様の役に立つ情報がまだ私には……」
○鷲沢社長:「最初は新製品のパンフレットが出たらそれを置いてくるだけでもいい。それだって情報だ。説明とか、ましてや買えとか、そういうことはしなくていい」
●猪俣リーダー:「パンフレットなんか要らないと言われませんか」
○鷲沢社長:「急に弱気になったな。いきなり買えと言われたら怒るが、挨拶だけしてすぐ帰れば大丈夫だ。業界でこんな話を聞きました、と一言伝えるだけでもいい。とにかく顔を覚えてもらえ。そのうち何か質問してもらえるかもしれん。そうしたら猛スピードで回答しろ」
●猪俣リーダー:「そんなことでいいのでしょうか」
○鷲沢社長:「接触を増やすことがスタートだ。攻める姿勢は崩さず、君のエネルギーをお客様にご奉仕するというパワーに転換してくれ。『大量売込み』ではなく『大量奉仕』だ。ただし相手を間違えるな。奉仕すべき相手かどうか、作戦を立てないといけない。明日の朝から専務を交えて考えよう」
●猪俣リーダー:「えっ、専務とですか」
○鷲沢社長:「専務に謝れと言ったが、そんなに怒っとらんよ」
●猪俣リーダー:「あ、ありがとうございます」
○鷲沢社長:「再建中のわが社には君のような猪突猛進のパワーが欠かせない。頼むぞ」
目先の業績にばかり焦点を合わない
営業活動をする際、お客様との信頼関係を構築することがまず基本です。そうでないと、まず相手は「聞く耳」を持ちません。聞く耳を持たない相手に対して、一方的に売り込みをすると、クレームにつながることもあります。
ですから「大量売込み」ではなく、お客様の役に立つ情報をストックし、その情報を提供していく「大量奉仕」を心掛けましょう。
相手が知りたいと思っている情報をしっかり把握し、月に1回ぐらい訪問し、奉仕するという気持ちでコミュニケーションをとるのです。そうして関係を構築し、お客様のほうから声がかかってから動く。そうするとストレスなく営業活動ができます。
そのためには、目先の業績にばかり焦点を合わせず、未来思考で営業するマインドが上層部にも必要です。
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