ツケにするとは、本来払うべき金を払わずに、ものやサービスを買うことです。当然、金は後で払わないといけません。

 本来納めるべき成果を納めず、やるべきことをせず、時短と称して早く帰ってしまう。私はこれを「ツケ払い帰宅」と名付けました。当然、後で相応の時間を費やして所定の成果を納めないといけません。

 ツケが癖になってなかなか返せなくなるように、「ツケ払い帰宅」も癖になり、やるべきことがさらにできなくなっていきます。

 竹虎常務と鷲沢社長の会話文を読んでください。

○鷲沢社長:「どうした。浮かない顔をして」

●竹虎常務:「最近、何か変なのです。それが気になってしまって」

○鷲沢社長:「何が変なのだ」

●竹虎常務:「社内の様子です。はっきり言えませんがどうも変なのです」

○鷲沢社長:「そうか……。私もそう思っていた」

●竹虎常務:「社長も」

○鷲沢社長:「一体何だろうな。最近特に気になったことはないか」

●竹虎常務:「そういえば、この前の新人歓迎会は妙でした」

○鷲沢社長:「どういう風に」

●竹虎常務 :「新入社員がみんなイキイキしていました」

○鷲沢社長:「すごくいいことじゃないか」

●竹虎常務:「社長は当社に来てからまだ1年経っていませんからご存知ないでしょうが、歓迎会であんなにイキイキとした新人たちを見たのは初めてです。普通はもっと緊張して、少々不安な顔つきをしているものですが」

○鷲沢社長:「いい人材が入社してくれたのだろう」

●竹虎常務:「だといいのですが。その新人たちと一緒に盛り上がっていた連中もいます」

○鷲沢社長:「新人が盛り上がれば、みんな盛り上がるさ」

●竹虎常務:「いつも飲み会で盛り上がらない連中がはしゃいでいました。宴会が明るくなるのは結構ですが、いつも威勢のいい部課長が静かでしたね」

○鷲沢社長:「……うーん」

●竹虎常務:「そうだ、あの歓迎会の雰囲気なのですよ、このところの社内は」

○鷲沢社長:「雰囲気は明るくなっている」

●竹虎常務:「その通りです。にもかかわらず……」

○鷲沢社長:「……」

●竹虎常務:「ストレスがたまっています」

○鷲沢社長:「誰が」

●竹虎常務:「私が、です」

○鷲沢社長:「うむむ……」

●竹虎常務:「社長」

○鷲沢社長:「私もだ」

若手が元気、時短も進む、それでも嫌な予感が

●竹虎常務:「やはり同じですか」

○鷲沢社長:「そうだ。社員はイキイキしている。若い連中の表情が晴れやかだ。だがなあ」

●竹虎常務:「先日、夏の研修旅行を企画しようと言ったら、若手からたくさん手が挙がりました。秋のイベント企画についてもプロジェクトへの参加希望を募ったら、たった2時間で20名も集まりました」

○鷲沢社長:「若手がそんなに元気になったのはいつからかな」

●竹虎常務:「今年に入って『働き方改革』の方針を打ち出してからじゃないですか」

○鷲沢社長:「そういう気がしていたよ」

●竹虎常務:「労働時間は確実に減っています」

○鷲沢社長:「いいことだ」

●竹虎常務:「いいことなのですよ。社長が掲げた『働き方改革』の方針が奏功しているとしか言いようがありません。社内で『ワークライフバランス』がキーワードになっていますし」

○鷲沢社長:「この方針は間違っていないと信じたいのだが」

●竹虎常務:「若手がはつらつとしている。時短も進んでいる。でも、何か嫌な予感がします」

○鷲沢社長:「君の直感は当たっていると思う。こういうことは理屈じゃない。どう表現したらいいかわからないが、台風が来る前の静けさのようなものを私も感じる」

●竹虎常務:「いったい何でしょうか。この妙な感じは。社長のほうで特に気になったことはございませんか」

○鷲沢社長:「そうだ、この資料を見てくれ。営業全員に書かせているシートだ。目標を絶対達成させるために、営業の材料を目標の2倍まで予め積み上げ、それを書き込んでおく」

●竹虎常務:「予材管理シートですね。これが何か」

○鷲沢社長:「ちょっと極端になってきている。予材を仕込めている営業と、そうでない営業と」

●竹虎常務:「確かに。営業部全体でみると2倍まで仕込めている課のほうが多いですが、個人別に見ると偏っていますね」

○鷲沢社長:「予材管理を始めた当初はここまで偏ってはいなかった」

●竹虎常務:「……ははあ、わかってきました。予材管理シートにしっかり書き込めていない営業ほど最近イキイキしています」

○鷲沢社長:「なんだって」

●竹虎常務:「逆に予材を目標の2倍以上しっかり仕込んでいる営業ほど最近静かです。というか、予算達成が見えているはずなのに追い込まれている感じで、表情がどんよりしています」