「残業が多くて不安を感じるそうです」「言い訳だ」

●鳥山人事課長:「なるほど……。状況は分かりましたが、それでも様子を見るなんて悠長なことを言ってはいられません。他の部署に示しがつかないです。みんな創意工夫しながら時短に取り組んでいるのですから」

○鷲沢社長:「わかっている! 私にも葛藤がある。獅子山課長だってそうだろう。あまり急がせるな」

●鳥山人事課長:「実は獅子山チームの営業から退職願いが出ています」

○鷲沢社長:「何、誰だ」

●鳥山人事課長:「鮫貝です」

○鷲沢社長:「苗字のわりにおとなしい奴だな」

●鳥山人事課長:「社長、苗字は関係ないですよ。鮫貝に話を聞いてみると、残業が多くて将来に不安を感じると言っています」

○鷲沢社長:「言い訳だ」

●鳥山人事課長:「そんな、いきなり決めつけるのはいかがなものかと」

○鷲沢社長:「鮫貝君が一番結果を出せていない。予材もまるで仕込めていない。創意工夫する癖がないから頭を整理できない。獅子山課長も手を焼いている」

●鳥山人事課長:「そうなのですか。しかしまずは残業を減らし、彼を安心させないと」

○鷲沢社長:「奴の残業を減らしたらどうなるかわかるか」

●鳥山人事課長:「安心することはない、と仰りたいのですね……どうなるのでしょう」

○鷲沢社長:「パニックになる」

●鳥山人事課長:「ええっ!」

○鷲沢社長:「いいか、予材を増やすには創意工夫の癖、考える習慣が必要だ。ところが彼は人よりも考えるのに時間がかかる。時短だと言って、その時間を彼から奪ったらどうなる。混乱するに決まっている」

●鳥山人事課長:「考えるのもいいですが、もう少し効率よく営業できないのですか」

○鷲沢社長:「効率効率と言うな。営業はクリエイティブな仕事なんだよ。ルーティンワークなんてない。新規のお客様を開拓しようと思ったら想定外の連続だ。杓子定規に時短なんてできない」

●鳥山人事課長:「そうは仰いますが60時間もの残業を放置できません」

○鷲沢社長:「放置はせん。見守ろうと言っている」

●鳥山人事課長:「しかし……」

○鷲沢社長:「いい加減にしたまえ! 君ももう少し創意工夫しろ」

●鳥山人事課長:「う……」

ジタハラはパニックを引き起こす

○鷲沢社長:「時短、時短、と言いすぎると『時短ハラスメント』になってしまう。時短を強要するな」

●鳥山人事課長:「……ジタハラですか」

○鷲沢社長:「君は社労士の資格を持っていたよな」

●鳥山人事課長:「はい。なんとか資格をとりました。5年もかかりましたから落ちこぼれの社労士です」

○鷲沢社長:「冗談じゃない。仕事をしながらそう簡単に取得できる資格じゃないぞ。立派だ」

●鳥山人事課長:「ありがとうございます」

○鷲沢社長:「落ち続けたときは辛かっただろうな」

●鳥山人事課長:「まだ子どもが小さかったこともあって妻からいろいろ言われました。でも一度決めた以上、やり抜きたいと。まあ資格をとればいいってものではないですが、最後は執念でした」

○鷲沢社長:「執念は大事だ。執念で燃えている状況で、誰かから『勉強時間を30%カットしろ』と言われたらどう思った」

●鳥山人事課長:「え」

○鷲沢社長:「社労士の資格は持っていないし、試験も受けたことがない奴から、勉強時間が長すぎる、3割短くしろ、と言われたら」

●鳥山人事課長:「腹を立てたでしょうね。こっちは一所懸命やっているわけですから」

○鷲沢社長:「上司からそう言われたら」

●鳥山人事課長:「上司ですか、うーん」

○鷲沢社長:「社労士は絶対に合格しろ。でも仕事に影響が出るから勉強時間は3割カットしろ、と言われたら」

●鳥山人事課長:「そんな……無理です」

○鷲沢社長:「パニックになるだろう」

●鳥山人事課長:「なるほど、鮫貝もそうなりかねないと」

○鷲沢社長:「社労士の勉強のコツがわかってからなら時短もいいが、そうでないとしたらむやみに勉強時間を減らせない。獅子山課長は今、頑張って部下たちと向き合っている。もう少し見守ってやってくれ。猶予は8月までだと伝えてある」

一人ひとりの状態をよく見よう

 ルーティンワークならともかく、創意工夫を伴う仕事であるなら、単純に時間で区切ることはできません。何か新しいことに慣れるまでに時間がかかる人もいます。

 「時短だ」「働き方改革だ」「ワークライフバランスだ」と一律にプレッシャーをかけてしまうと、真面目に結果を出そうとする人ほど激しいストレスを覚えるものです。

 時短ハラスメントにならないよう、一人ひとりの状態をよく見て、マネジャーはリードしていかなければなりません。今は時間をかけるべきだと思ったら、ある程度まで見守りましょう。休ませるべきだと思ったら、どうするか、それは言うまでもありません。