●多摩部長:「社長、一体どうしたのですか。今日は絡み過ぎです!」

○鷲沢社長:「いい加減にしたまえ! それなら言うぞ。私は社長に就任してからずっと、新規顧客の開拓をしろと言ってきた。ところが『じっくり考えさせてください』と繰り返すばかりで動かなかったのはどこのどいつだっ!」

●多摩部長:「……」

○鷲沢社長:「このままなら部長から降格させると言ったら、ようやく重い腰を上げた。そうだろう」

●多摩部長:「で、ですから……この4月から新規開拓を頑張ると申し上げたわけで」

○鷲沢社長:「くどい! 現状維持バイアスを外したまえ! じっくり考えるどころか、君は頭がまったく整理できていない」

●多摩部長:「……」

○鷲沢社長:「部長職なのにバランス感覚がなさすぎる。新規開拓をやるのは結構、既存顧客のケアも頼む。私はこう言っただけだ。君こそ『わかりました。既存顧客の対応もしっかりやります』と言えばよかったんだ」

●多摩部長:「そうでした……。私のほうから『惑わせるようなことを言わないでほしい』と突っかかったのでした」

○鷲沢社長:「まあ私も嫌味な言い方をしたな。それは悪かった。だが、『じっくり考える』という口癖はいい加減に止めてくれ」

●多摩部長:「し、しかし、考えるのはけっして悪いことではないのでは」

○鷲沢社長:「当たり前だ。考えないでどうする。だが、長時間は必要ない。ひとつの事柄について脳が処理するのにかかる時間はどれほど長くても1分や2分程度だ。これ以上考えている場合、空回りしてる危険がある。空回りというか、ほとんど何も処理していない」

●多摩部長:「考えているつもりですが、時間を浪費しているだけということですか……」

○鷲沢社長:「その通り。『じっくり考える』は大抵の場合、その場しのぎの逃げ口上に過ぎん」

●多摩部長:「そういえば同じように話す部下がいます。私の口癖が移ったのかもしれません」

○鷲沢社長:「まずは君だ。今日から改めてくれ」

「じっくり考える」は行為として成立しない

 ビジネスの世界で考えるのは、対案や解決策を探したり、何かの意志決定をするときです。さすがに1分や2分で妙案は浮かばないかもしれませんが、だからと言って何時間も何日間も考えたとしても解決策が出てくるとは限りません。

 そもそも「考える」という行為を長時間継続させることはできるのでしょうか。「考える」とは、脳の長期記憶に格納されているデータにアクセスし、しかるべきデータを抽出して処理する行為だと私は考えます。だとすれば本来、それほど時間がかかる行為ではないはずです。

 外から見ると「考える」と似ていますが、根本的に異なる行為に「悩む」があります。「悩む」とは、脳の長期記憶にアクセスできず、容量の少ない短期記憶にだけアクセスを繰り返すことだと私はみなします。しかるべきデータにアクセスできていないので、結論を出せず、堂々巡りになります。

 つまり長時間「考える」ことはできませんが、「悩む」ことなら延々と続けられるわけです。「じっくり考える」は言葉として成立しますが、実際の行為としては成立しません。「じっくり悩む」という言い方はしませんが、実際の行為としてはよくあるのです。