●多摩部長:「それでしたら申し上げますが、惑わせるようなことを言わないでほしいのです。せっかく私も他の営業部員も新規開拓にやる気になっているので」

○鷲沢社長:「惑わせるだと? どうしたんだ、君は。新規開拓も必要だが、既存のお客様もしっかりケアしてくれと言っているだけだ。常識だろう」

●多摩部長:「いつも社長は『常識を疑え』と言っているじゃないですか。ここで常識を出していいのですか。常識的な発想では新規開拓はできませんよ」

○鷲沢社長:「『ああ言えばこう言う』は止めてくれ」

●多摩部長:「社長が変なことを仰るからです」

○鷲沢社長:「変なこととは何だ。食事の準備をするとき、味噌汁も卵焼きも焼き魚も同時に調理するだろう。作るのが苦手な卵焼きに目を配るのは結構だが、それで魚を焦がしてもらっては困る。君は営業部を統括する部長だぞ。一点だけに集中すればいいなら新入社員だ」

「それならじっくり考えさせてもらいます」

●多摩部長:「なっ……。わかりました。じっくり考えさせてもらいます」

○鷲沢社長:「何を」

●多摩部長:「は」

○鷲沢社長:「何をじっくり考えるんだ」

●多摩部長:「ちょ、ちょっと待ってください。社長こそ『ああ言えばこう言う』じゃないですか。『じっくり考える』と申し上げたのですから、『じっくり考えたまえ』と仰ればそれでいいでしょう」

○鷲沢社長:「嫌味のように聞こえたらすまんな。気付いているかどうか、『じっくり考える』は君の口癖だ。いつも言うから、君の『じっくり』とはどういうことかと聞いている」

●多摩部長:「じっくりと言ったら、じっくりですよ」

○鷲沢社長:「どれぐらいの時間、腰を据えて考えるつもりだ」

●多摩部長:「そ、そんなことわかりませんよ」

○鷲沢社長:「5分か。それとも10分か」

●多摩部長:「そんな短時間ではじっくりになるわけないでしょう。じっくり考えると言ったら最低1カ月は考える、それが相場です」

○鷲沢社長:「そんな相場は初めて聞いたな。まあいい。ところで1カ月も考えることがあるのかね」

●多摩部長:「ありますよっ、いろいろと。何事も焦って考えるとよくありません」

○鷲沢社長:「いいか。『じっくり考える』が口癖なのに、具体的に何をどのくらい考えるのか、君は説明できていない。じっくり考えないと説明できないのか」