「営業にどのような教育をしていますか」と尋ねると「OJTで」と答える経営者やマネジャーが結構おられます。
OJT、すなわちオン・ザ・ジョブ・トレーニングで何をどうトレーニングしているのでしょうか。働き方改革の時代に従来通りのOJTを続けていていいのでしょうか。
鳥山人事課長と球田コンサルタントの会話を読んでみてください。
●球田コンサルタント:「人事部は人材育成をどう考えているのですか。部下の指導やキャリア形成の方針をうかがいたい」
○鳥山人事課長:「どう考えている、といきなり言われましても」
●球田コンサルタント:「営業部を観察してきたが、部下の指導についても、キャリア形成に関しても、営業課長ごとに方針がばらばらだ」
○鳥山人事課長:「会社としての方針がない、ということですか」
●球田コンサルタント:「まるでない。営業課長全員にヒアリングしたが言うことが違う。なぜ人事部から方針を出さないのか」
○鳥山人事課長:「営業部のことはそれぞれの課長に任せていますので」
●球田コンサルタント:「それは方針を決めない理由にならない」
○鳥山人事課長:「当社は広告代理店ですからガチガチにルールを決める業態ではないのです」
●球田コンサルタント:「ガチガチに決めろと誰が言ったのか」
○鳥山人事課長:「あなたが言ったでしょう」
●球田コンサルタント:「いつ」
○鳥山人事課長:「え」
●球田コンサルタント:「いつ私がガチガチに決めろと言ったのか。あなたは妄想癖があるようだ。よく人事の責任者が務まりますね」
○鳥山人事課長:「なんですって」
「こんなことで会社として成立するのか」
●球田コンサルタント:「質問に答えてほしい。部下指導、キャリア形成の方針はどうなっているのか」
○鳥山人事課長:「そ、それは」
●球田コンサルタント:「営業部は一枚岩になっていない。他部門もそう。こんなことで会社として成立するのか」
○鳥山人事課長:「それでは言わせてもらいます。そもそも営業部の人材教育の方針を我々人事が決めるべきなのですか」
●球田コンサルタント:「どういう意味か」
○鳥山人事課長:「営業部の人材なのですから営業部で決めるべきです」
(球田コンサルタントが無言のまま、思い切り、机を叩く)
○鳥山人事課長:「ひぃ」
●球田コンサルタント:「妄想の次は詭弁ですか」
○鳥山人事課長:「詭弁とは失礼な」
●球田コンサルタント:「それなら人事課の教育方針を言ってください」
○鳥山人事課長:「え……」
●球田コンサルタント:「営業部の教育方針は営業部で決めろと言った。それなら人事課の教育方針はあなたが決めるわけだ」
○鳥山人事課長:「い、いや」
●球田コンサルタント:「私はあなたの部下たちからもヒアリングしている。教育方針などありません、と口を揃えていた」
○鳥山人事課長:「人が悪い。部下に聞いたのなら私に聞かなくても」
●球田コンサルタント:「あなたが方針を出しているが部下に伝わっていない可能性もある。もう一回聞く。人事課の教育方針を言ってください。それから『ああ言えばこう言う』は止めてもらいたい」
「具体策も指標も無い」
○鳥山人事課長:「……色々なことをこなせる人材を育てたい。人事だけやっていればそれでいい、というわけにはいかないので」
●球田コンサルタント:「なるほど。一応方針があるじゃないですか。具体策を聞かせてください。それから方針通りに育っているかどうかを確認する指標も」
○鳥山人事課長:「ぐ、具体策ですか。色々な仕事があるのでOJTで。指標と言われましても」
●球田コンサルタント:「課長個人の思いはあるが具体策も指標も無いということか。営業部と同じだ」
○鳥山人事課長:「具体策が無いというのは言い過ぎでは。それから明確な指標はありませんが人事考課はしているわけで」
●球田コンサルタント:「仕事を通じて育てるとか、『背中を見て盗め』とか、要するに放ったらかしということだ。言わなくてもわかるだろう、これは日本らしい。アメリカでは言語化しない教育などありえないし、現場指導や実地訓練をきっちりやっている」
○鳥山人事課長:「日本のマネジャーは言葉にするのが不得意なのです」
●球田コンサルタント:「『結論ありき』の言い方だ。そうだと言い切れる客観的な事実は何か。それを見せない限り、人を説得できない」
○鳥山人事課長:「……」
●球田コンサルタント:「私に反論するならそれなりの覚悟をもってほしい。そもそもキャッチコピーをつくる広告代理店が言語化が不得意とか言って済むのか」
○鳥山人事課長:「……」
●球田コンサルタント:「今度はだんまりですか。質問を変えます。今、人事課が一番関心を持っていることは」
○鳥山人事課長:「それはもう、働き方改革です」
●球田コンサルタント:「だったら現場任せのOJTなど容認できないはず。どのくらいの時間をかけているのか、かけていないのか、わからない。成果もばらつく。いいことなど何一つない」
○鳥山人事課長:「お恥ずかしい話ですが皆がOJTと言っているだけで、何がOJTなのか誰もよくわかっていません」
●球田コンサルタント:「広告代理店の営業だから放任したほうがいい、という論理はない」
○鳥山人事課長:「ただ、忙しい営業にトレーニングの話を持ちかけてもなかなかなので」
●球田コンサルタント:「さっきも言った通り、事実をつかんで話さないと相手を説得できない。説得できないから部門任せにする。それこそ話にならない」
○鳥山人事課長:「どうすればいいでしょう」
●球田コンサルタント:「営業部のデータは私が揃えます。それを踏まえ、人事として方針を決め、言語化したトレーニングプログラムを作ってください。これを学べば時短ができる、というものを」
自信なく「うちはOJTで」と仰る幹部たち
私は企業の現場に入って営業目標を絶対達成させるコンサルタントです。数多くの現場を見てきましたが、日本企業の営業部にしっかりしたトレーニングプログラムが存在することは稀です。
私のセミナーに来られる経営者やマネジャーにヒアリングすると、8割近くの方が「うちはOJTで部下を育成しています」と仰います。
ただし大半が球田コンサルタントの言うように「放ったらかし」でしょう。なぜ決め付けるかと言えば、皆さん、とても自信がなさそうに「うちはOJTで」と仰るからです。
「そのうちやります」と言う人は「やるつもりはない」のです。「うちはOJTで」と言う人は「部下を育成していない」のです。
短い勤務時間でこれまで以上の成果を出さなければならない時代です。「うちはOJTで」と唱えている企業に働き方改革ができるはずがありません。
Powered by リゾーム?