人不足が深刻な時代となりました。若い人財を確保することは非常に難しく、これまで通りの募集の仕方では良い人財が集まらなくなっています。
採用が困難になると企業は守りの姿勢に入ります。人が入ってこないわけですから、今いる人財が流出しないよう躍起になるのです。人財流出を恐れるとはいえ、過剰な対応は慎みたいものです。
今回のテーマは「ヘリコプター上司」。過保護な小鹿常務と鷲沢社長との会話を読んでみてください。
●小鹿常務:「社長、探しましたよ。こんなところにいらしたのですか。どうしても申しあげたいことがあって探し回っていました」
○鷲沢社長:「どうしたんだ、突然」
●小鹿常務:「どうしたも、こうしたもないですよ、社長。経理部の犬塚さんに仕事を頼んだでしょう」
○鷲沢社長:「経理部の犬山さん?」
●小鹿常務:「犬塚さんですよ。名前も知らない相手に仕事を頼むんですか、社長は」
○鷲沢社長:「そんなに突っかかるな。どうした、その犬塚さんは」
●小鹿常務:「社長が仕事を頼んだのですよ」
○鷲沢社長:「私が?」
●小鹿常務:「今朝、社長室スタッフの仕事を経理部の犬塚さんに頼んだそうじゃないですか」
○鷲沢社長:「ああ、それか。ちょっとした資料作成を頼んだ。スタッフがひとり風邪をひいて休んだと言うから」
●小鹿常務:「困るんですよ、勝手に犬塚さんに頼まれると」
○鷲沢社長:「そうか。だが常務の君が言いに来ることかね」
●小鹿常務:「それなら犬塚さんが直接社長に言えばいいとでも言うのですか。彼女は派遣社員ですよ。いくらなんでも社長に面と向かって言えませんよ」
○鷲沢社長:「そうかもしれん。ただ、私はその犬塚さんに聞いた。『少しの時間、助けてもらってもいいかな。急にスタッフが休んでしまって』と。笑顔で承諾してくれたぞ」
●小鹿常務:「相手が社長なんですから誰だって笑顔でイエスと言うでしょう」
○鷲沢社長:「その隣にいた上司の馬淵課長は『どうぞどうぞ』と言っていた」
●小鹿常務:「ですから相手が社長だからです。そもそも馬淵課長はよくわかっとらんのですよ。とにかく、いくら社長でも余計な仕事を経理部に持ち込まないで下さい」
○鷲沢社長:「……」
●小鹿常務:「まだあります」
○鷲沢社長:「今度は何だ」
●小鹿常務:「人事部の龍川君のことです。下半期の評価に納得がいきません。何とかできませんか」
○鷲沢社長:「龍川君は確か3年目の……」
●小鹿常務:「そうです。3年目の若手です。ものすごく頑張っています」
○鷲沢社長:「人事部長ではなく、どうして常務の君が言ってくるのかね」
●小鹿常務:「人事部長がわからずやだから、こうして社長に頼んでいるんじゃないですか」
「いくら何でも細かすぎるぞ」
○鷲沢社長:「龍川君が君に泣きついたのか、評価が低すぎるって」
●小鹿常務:「龍川君はそんなことをする子じゃありません。私が人事部の課長に言って評価を見せてもらいました」
○鷲沢社長:「なんでまた」
●小鹿常務:「どうも龍川君と人事部長のソリが合わない気がしているので。評価シートを見てみたら案の定、到底納得のいく評価ではありませんでした」
○鷲沢社長:「そんなひどい評価ではなかったはずだが。私も覚えている」
●小鹿常務:「評価シートの18項目のうち10個が『B』でした」
○鷲沢社長:「あとの8個は『A』だったはずだ」
●小鹿常務:「そういうことじゃないのですよ社長、私の見立てでは12個は『A』がつくはずです、龍川君は」
○鷲沢社長:「いくら何でも細かすぎるぞ。常務なんだから、もっと違う視点を持ちたまえ。そもそも本人が望んでもいないのに、なぜ君が私に申し出てくるのかね。さっきから聞いていると、社員の細かい仕事や評価にまで口を出している。ひょっとして君は『ヘリコプター上司』か」
●小鹿常務:「何を言っているのですか」
○鷲沢社長:「『ヘリコプターペアレント』って聞いたことはないか。ヘリコプターのようにいつも子供の周りを旋回し、子供を観察し、何かあると干渉する過保護な親のことを言うそうだ。いつもうろうろしていて部下に何かあると思い込むとヘリコプターを急降下させ、介入する。それが君だ」
●小鹿常務:「な……! なんて暴言ですか。こともあろうにヘ……ヘリコプター野郎だなんて」
○鷲沢社長:「野郎とは言っとらん。『ヘリコプター上司』と言っただけだ」
●小鹿常務:「言っていいことと悪いことがあります! だいたい社長は部下のことをちゃんと見ていないじゃないですか」
○鷲沢社長:「いい加減にしたまえ。さっきから言いたい放題だな。そうやって君たち幹部が過干渉だから若い社員が育たず、辞めていったのだろうが! 忘れたのか」
●小鹿常務:「……私のせいだと言うのですか」
○鷲沢社長:「そうだ。現状維持バイアスをはずしたまえ! 君の行動は本当の優しさじゃない」
●小鹿常務:「優しさじゃ……ない」
○鷲沢社長:「頼まれてもいないのに干渉ばかりされたら自分で考える力がついてこない」
●小鹿常務:「私は部下が困っているだろうと思って……」
○鷲沢社長:「君のヘリコプターは旋回する場所が違う。もっとお客様の上を旋回し、何かお客様にお困りごとがあれば急降下したまえ」
●小鹿常務:「私は若い人に辞めてもらいたくないから……」
○鷲沢社長:「気持ちはわかるが、それより今はお客様が離れていかないようにすることだ。攻めるべき顧客リストを作ってある。全体を俯瞰し、どのように旋回し、どのタイミングで急降下するか、考えてくれ。お客様が離れなくなり、業績が安定すれば、離職率も減っていく」
過保護は逆効果
自分の子どもがどんなに大きくなっても、頭上を旋回するヘリコプターのように寄り添い、トラブルが起きたら急降下して、すぐさま介入する親のことを「ヘリコプターペアレント」と呼ぶそうです。子どもを監視し、干渉するわけです。
「ヘリコプター上司」も同じです。部下を離職させないためだと言いながら、必要以上に寄り添い、干渉してしまうのです。上司が過保護になればなるほど、部下の成長を妨げ、働く喜びを奪っていくことになりかねません。採用が難しい時代になったからといって、過保護は逆効果です。
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