多くの会社が「働き方改革」に向けた取り組みをしています。新年度を迎え、「我が社の働き方をこう変えよう」と訓示した社長も多いことでしょう。

 もっともメディアでたびたび取り沙汰されている影響でしょうか、働き方改革を勘違いする社員が出てきています。

 物事の優先順位を間違え、やるべきことをやっていないのに、「ワークライフバランスの時代だ」などと言って、平気な顔で帰宅してしまう人もいます。

 いつも吠えてばかりの子犬課長と、鷲沢社長の会話文を読んでください。

●子犬課長:「ああ! むかつく!」

○鷲沢社長:「なんだ、荒れているな」

●子犬課長:「周りから『マッドドッグ』と呼ばれるようになりました」

○鷲沢社長:「一体どうした」

●子犬課長:「ワークライフバランス、ワークライフバランスって部下たちがうるさいのです。若いうちはもっと働けって怒鳴りたくなります」

○鷲沢社長:「何だって」

●子犬課長:「うちは広告代理店ですよ。その営業がワークライフバランスだなんて。朝までお客様と飲み歩いて仕事をとってくる。それが当然でしょう」

○鷲沢社長:「おいおい。それはまずいぞ。今の発言は聞かなかったことにしたい」

●子犬課長:「本当のことを言って何が悪いのですか。社長だって本音はそうでしょう」

○鷲沢社長:「何が」

●子犬課長:「とぼけないでください! 銀行マンだったころ、お客様に夜通し付き合っていた時代があったでしょう」

「君が言う『あたりまえの基準』は古すぎる」

○鷲沢社長:「当時はそうだったが昔の話だ。今では武勇伝にもならない。恥ずかしくて人に言えん」

●子犬課長:「恥ずかしいことなんかありますか。飲んで仕事をとる! 広告でも銀行でも、営業マンの『あたりまえの基準』です」

○鷲沢社長:「君が言う『あたりまえの基準』は古すぎる。今の基準にアップデートしたまえ」

●子犬課長:「本気ですか。入社1年目からワークライフバランス、社長はこれでいいのですか」

○鷲沢社長:「いいに決まっている。仕事と家庭や余暇のバランスはとるべきだ。そうでないと良い仕事もできない」

●子犬課長:「絶対におかしいと思います、その考え方は」

○鷲沢社長:「相変わらず噛みつくなぁ、君は」

●子犬課長:「部下より上司に噛みつく、私のモットーです」

○鷲沢社長:「私の考えのどこがおかしい」

●子犬課長:「若いうちに苦労すべきです。修羅場をくぐったことがないと将来もっと苦労します。私は部下のために親心で言っているのです」

○鷲沢社長:「そんなことは私だってわかっている」

●子犬課長:「本当にわかっていますか」

○鷲沢社長:「君は吠えすぎだ。すぐ吠えるから相手の言っていることが頭に入らない。だから話が噛み合わない」

●子犬課長:「相手にずっと噛みついていれば、話も噛み合いますよ」

○鷲沢社長:「いい加減に落ち着け。若いうちは苦労するものだ。ある程度の修羅場も経験してもらわないといけない。でないとポテンシャルがある若者であっても育たん」

●子犬課長:「その通りです。だからワークライフバランスなんて駄目だと申し上げているのです」

○鷲沢社長:「それとこれとは違う」

●子犬課長:「意味がわかりません」

○鷲沢社長:「いいか。今は昔と違う。競争がずっと厳しい。社員一人ひとりに昔以上の結果を出してもらわなくてはならん」

●子犬課長:「その通りです」

○鷲沢社長:「だが昔ながらのやり方は通じん。さっき言った通り、今は昔と違う。お客様に朝まで付き合えば本当に仕事をとれるのか」

「バカの一つ覚え」が通用した時代は終わった

●子犬課長:「……。お客様も世代交代していますから、飲みに行きましょうと言っても付き合ってくれるお客様の数そのものが減っています」

○鷲沢社長:「『バカの一つ覚え』が通用した時代だったな。今はあの手この手で攻めなきゃならん。イベントをやったり、テレマをしたり、ホームページを駆使したり、電話にメール、ニュースレター……。営業の一人ひとりがあらゆる手立てをしないとお客様の心をつかめない」

●子犬課長:「昔は良かったなあ。酒さえ飲んで、ご機嫌をとっていれば目標ぐらいすぐ達成できたのに」

○鷲沢社長:「商談の規模も確度も違ってきている。営業の材料を昔は目標額と同じぐらい持っていればなんとかなったが、今では目標の2倍の材料をあらかじめ積み上げて管理しないと、なかなか達成できない」

●子犬課長:「例の『予材管理』の考え方ですね」

○鷲沢社長:「そうだ。色々な手を打ちつつ、予材をこつこつ積まないといけない。しかも昔とは違って、限られた時間の中でやらなくてはならん。ダラダラ残業はもう許されない。若いうちに苦労すべきだとわざわざ言わなくても、昔より今のほうが苦労するに決まっている。君だって目標達成のために苦労しているだろう」

●子犬課長:「私は何とか目標を達成できています。それより部下がなかなか……」

○鷲沢社長:「まあ君はしっかり目標に焦点を合わせているからな」

●子犬課長:「目標を絶対達成させる。当然です。私にとっては」

○鷲沢社長:「そうでない部下がいるのか」

●子犬課長:「いるから吠えているのです。目標達成よりワークライフバランスが大事と言わんばかりの部下もいます。先ほど仰ったように、今の営業マンはやらないといけないことが沢山あります。ところが、やることもやらず定時に帰ってしまうのです」

○鷲沢社長:「なんだって!。聞き間違いか。もう一回言ってくれ」

●子犬課長:「目標達成よりワークライフバランス維持の優先度が高い。そんな部下がおります。忙しいと言っているわりには、毎日のようにフェイスブックやインスタグラムに投稿していますが。『イタリアンで自分へのご褒美』とか『スポーツジムで汗をかきました。明日から仕事がんばります』とか」

○鷲沢社長:「ふざけるな! そんな非常識な奴はどいつだ!」

●子犬課長:「社長、声が大きいです」

○鷲沢社長:「まだ半人前のくせに一人前のリア充ふりまいているのか。そのリア充ヤローを連れてこい。修羅場を見せてやる!」

●子犬課長:「ちょっと、リア充ヤローって、怒りすぎです。落ち着いてください、社長」

成し遂げる手順を間違えないように

 ワークライフバランスは大事です。時短も進めないといけません。だからといって、目標達成よりもワークライフバランスを優先する人がいたら、非常識です。「あたりまえの基準」が低すぎます。

 工場で働いている工員を例にとりましょう。今日は30種類の部品を組み立てないといけません。途中で「早く帰りたい」と言って退社することがあり得るでしょうか。仕事のやり方を工夫して定時までに組み立てるか、所定の数を仕上げるまで残業するはずです。

 ワークライフバランスと並んで若者が重視するのは仕事の「やりがい」や「働きがい」です。上司の指示に対し、「もっとやりがいのある仕事をしたい」と言ったりします。

 これまで何度か書きましたように、「やりがい」や「働きがい」は「やった価値があった」「働いた甲斐があった」という意味です。

 一所懸命やって何かを成し遂げたとき、湧き出る感情です。あるいは後で振り返って気付くものです。やりたいことをやらせてもらったからといって手に入るとは限りません。

 何事においても成し遂げるための手順を間違えないようにしましょう。