○鷲沢社長:「どんな小さな点でもいいから拾い上げ、それを集めて線にし、そこから面にしていく。雛形君が接触している技術部門の係長からたどり、本社の誰かを紹介してもらう。すぐに管理部門にリーチできなくてもかまわない」

●多摩部長:「は、はい……」

○鷲沢社長:「本社といっても本丸ではなく、コールセンターのチーフディレクターにまずつながるかもしれない。そこから品質管理部の部長につながったとしよう。その部長でも管理部の本部長とそれほどつながりがなかった。そのかわり、技術部門の部長へとたどり着くかもしれん。雛形君だけでなく、熊岡課長と君が連携して、A社内の人脈をたどっていくんだ」

●多摩部長:「せっかく本社に入れたのに府中の技術部門へ戻るのですか」

○鷲沢社長:「そういうこともある。そうして技術部門の部長や最初に会っていた係長と会話している間に、本社の社長室長へとつながるかもしれない」

●多摩部長:「……も、もの凄い遠回りをしている気がしますが」

○鷲沢社長:「そうとも限らん。いきなりキーパーソンを紹介してくれる人を見つけたとしても、その一人だけの紹介だったら断られた時、後の手がない。人脈の線が一本では切れやすい。いろいろな線をたどっていけばリカバリもできる」

●多摩部長:「なるほど、しかし骨の折れる作業ですね」

○鷲沢社長:「骨が折れて当然だ。本社の社長室へたどり着いたら、室長が管理部の部長に橋渡ししてくれ、ようやく本部長へと面会できるかもしれない」

●多摩部長:「そこで社長の出番ですね」

○鷲沢社長:「だが始まりに過ぎない。本部長と会っただけでは商談にならん。私、君、熊岡、雛形、場合によったらもう数人、とにかく総出で、いろいろな人にこまめに会い続ける。こうすると、A社の中で我々の存在感が増してくる。ようやく君の質問に答えられたな」

●多摩部長:「ははあ、それが『お客様を揉む』ということですか」

○鷲沢社長:「そうだ。それぞれの部署で、それぞれの人が、私たちに対して警戒心を持っている。それを少しずつ和らげてやる。そういう地道な作業を『揉む』と言っている」

●多摩部長:「うーん」

○鷲沢社長:「前職の銀行でA社に営業を仕掛けたことがある。若い営業ひとりで攻略できる相手ではないがポテンシャルは大きい。だから『揉む』んだ」

●多摩部長:「わかりました。熊岡君と雛形君と話してアタックしてきます。社長も一緒に揉みにいけるように面を広げるようにします」

ゆっくり、じわじわ、組織の距離を縮めていく

 組織営業をするうえで「一点突破」はご法度です。個人の力だけで、組織の厚い壁を破ろうとしても、ほとんどのケースでうまくいきません。ごく一部のスーパーセールスパーソンは突破できるかもしれませんが、普通の営業には真似できませんから、後が続きません。

 組織が相手なのですから、こちらも組織で立ち向かう総力戦になります。押したり引いたり、単純接触を繰り返しながら、少しずつ相手の心を開いてもらい、最終的に組織全体の心を開いてもらうのです。

 鷲沢社長が使った表現、「お客様を揉む」というイメージで、ゆっくり、じわじわ、相手の組織との距離を縮めていきましょう。