何かに取り組もうとしたとき、「うまくいく」「うまくいかない」のどちらかにすぐ決めつける人がいます。
それではうまくいきませんし、「うまくいく/うまくいかない」だけで判断しようとするとかえって疲れるものです。
「うまくいく/うまくいかない」以外の判断軸を持たないと物事はうまくいきません。次の会話文をお読みください。
●子犬課長:「社長、A社の本部長が飲み会の席で紹介されていた本、週末に買って読んでみたのですが、まったく参考になりませんでした」
○鷲沢社長:「そうか。私はまだ読んでいないが」
●子犬課長:「読まないほうがいいですよ。読むだけムダです。最近はいいビジネス書がないですね。昔はもっとあったと思いますが」
○鷲沢社長:「ビジネス書なら月に5冊ほど読んでいるが、参考になる本との出合いは結構あるぞ」
●子犬課長:「そうですか。私の本の選び方に問題があるのかもしれません」
○鷲沢社長:「ところで1月末のイベントに参加したお客様へのフォロー電話はどうなっている」
●子犬課長:「まだ4、5人に電話した程度です。反応はよくないですね。すぐ仕事になりそうなお客様はゼロと言っていいでしょう」
○鷲沢社長:「すぐ仕事になりそうなお客様なんて、そうそうないぞ」
●子犬課長:「だったらイベントをする意味がないのでは。イベント費用をドブに捨てるようなものです。そもそも年始のイベントに来るお客様なんて暇人でしょう。フォローするだけムダです。そうだ、ムダで思い出したのですが、週末の研修を受けないといけませんか」
○鷲沢社長:「当然だ。君には部下が4人いる。部下育成とは何か、しっかり勉強してこい」
●子犬課長:「同じことを2回も3回も言わないと理解できない部下ばかりですからね。苦労します」
○鷲沢社長:「口が悪いな、君は」
●子犬課長:「私は結構吼えますよ。社長の前では気をつけますが。この研修、何回やるのですか?」
○鷲沢社長:「年に4回はやる」
●子犬課長:「4回もですか。やってもムダですよ。1回でなんとかなる研修はないのですか」
○鷲沢社長:「あのさ、そういう発想で物事を考えていると疲れないか」
●子犬課長:「え」
「うまくいかないことはムダだと吠えていると空しい人生を送るぞ」
○鷲沢社長:「物事を『うまくいく/うまくいかない』のどちらかに決め付け、うまくいかない物事はムダだと吼えていると、空しい人生を送ることになるぞ」
●子犬課長:「……『うまくいく/うまくいかない』の他に何があるのですか」
○鷲沢社長:「色々あるさ。例を挙げよう。当社の営業部は四つの営業課に分かれている。昨年度、部の目標は達成できたが、全ての課が目標を達成したわけではない」
●子犬課長: 「それはそれは申し訳ありません。私どもの課が足を引っ張りました」
○鷲沢社長:「君の課はうまくいかなった。ムダがあったのかな。目標を達成した他の課はうまくいった。毎日毎日、全員がまったくムダのない、すべて意味のある行動をとってきたと思うか」
●子犬課長:「いや、そうは思いません。しかしですね……」
○鷲沢社長:「銭形課長は昨年、中小企業診断士を受けて合格した。知っていたか」
●子犬課長:「ええ。知ってますよ。銭形さんを尊敬します。同じ営業課長で3歳も年下なのに、目標を達成しているし、資格まで……」
○鷲沢社長:「診断士の合格にはざっと1300時間の勉強が必要と言われている。厚生労働省が調べた平均値だ」
●子犬課長:「え……! 1300時間……」
○鷲沢社長:「日本人の年間労働時間が平均して1800時間だぞ」
●子犬課長:「どうやって、さらに1300時間を……」
○鷲沢社長:「銭形課長はその1300時間を有効に使ってムダのない勉強をしていたと思うか」
●子犬課長:「いえ、さすがにそんなことはないでしょう。銭形さんは資格挑戦は初めてと言っていましたから。勉強方法で試行錯誤したと思います」
○鷲沢社長:「日々こなしていく一つひとつの物事を『うまくいく/うまくいかない』で割り切らないようにしたほうが精神的に楽だ。そう思わないか」
●子犬課長:「そうかもしれません」
○鷲沢社長:「本を読むのもそうだし、研修を受けるのもそうだ」
●子犬課長:「顧客フォローも一緒ですか」
物事に対する評価は「点」ではなく「線」で
○鷲沢社長:「その通り。当社は年に4回、大きなイベントに参加している。毎回の来場者は平均、何人いる?」
●子犬課長:「平均来場者ですか。当社のブースに400~500人は来場されると思います」
○鷲沢社長:「来場してもらうために平均何人ぐらいに声をかける?」
●子犬課長:「そうですね……。4課で分担していますから私の課の担当顧客で来てくださる方がざっと100人。5人に声をかけると1人はいらっしゃるとみているので、500人には声をかけていますね。部下と手分けをしてやっています」
○鷲沢社長:「イベントがあることで年間、何人に声をかけることになる?」
●子犬課長:「500人が4回、2000人……。いや、重複している人も多いですから、おおよそ1000人ですか」
○鷲沢社長:「年間の来場者は?」
●子犬課長:「来場者も重複していますから、それほど多くないでしょう。私の課で言うと年間4回で300人とか350人とかです」
○鷲沢社長:「そのお客様を継続してフォローしたらどうなる?」
●子犬課長:「季節ごとに開かれるイベントのたびにフォローしていくということですか」
○鷲沢社長:「そうだ」
●子犬課長:「顧客の育成につながりそうです」
○鷲沢社長:「物事に対する評価は『点』ではなく『線』で考えたまえ。すぐ契約がとれるかどうかという点ではなく、お客様を育成する線を引くと考えたら、気持ちが楽になる。しかも、フォローを習慣付けることで部下の育成にもつながる」
●子犬課長:「なるほど、課長の私が『点』で捉えていると、部下がなかなか育たないかもしれません」
○鷲沢社長:「物事に対する評価は時間を伸ばしてみて『線』で考える。ただし、行動するときは、もっと短い、あるいは小さい尺度で考えるんだ」
●子犬課長:「もっと短くですか?」
○鷲沢社長:「今からでも遅くない。1月末のイベントに来場されたお客様100名に対し、フォローしろ。いつまでに初回フォローを終わらせる?」
●子犬課長:「今の話を聞いていたら、すぐやるべきだと思えてきました。今週中にやりきります」
○鷲沢社長:「今日が月曜日だから金曜日までの5日間ということだな」
●子犬課長:「はい」
○鷲沢社長:「1人、何件フォローする?」
●子犬課長:「私と部下4人で手分けしますので、1人20件です」
○鷲沢社長:「1日に平均何件、フォローすることになる?」
●子犬課長:「5日間で20人、1日4件。4人に電話をかければいいのか……」
○鷲沢社長:「……」
●子犬課長:「楽勝ですね」
○鷲沢社長:「楽勝だ。楽勝の行動をひたすら積み重ねることが重要だ」
●子犬課長:「開眼しました」
人生という「長い線」の中でうまくいくには
何かに取り組むとき、点だけではなく線を考えたり、時間の単位をあれこれ変えたりしてみると、物事の捉え方や行動が前向きになっていきます。
物事を「点」だけでとらえ、「うまくいく/うまくいかない」という軸で判断していると、どうしても後ろ向きになっていきますし、そもそも疲れます。
「うまくいく/うまくいかない」という「点」ではなく、「うまくいく可能性が高い/うまくいく可能性が低い」という「線」でとらえて判断していけば、気持ちが楽になるものです。
実際の行動については長い期間で表現するよりも、短い時間の単位で伝えたほうがよいことが多いです。より具体的で身近に感じられるため、行動ストレスを減らす効果があります。
「楽勝」の線を思い浮かべ、「楽勝」にできる「点」を日々積み重ね、「楽勝」の線をしっかり引いていきましょう。楽勝を積み重ねれば、人生という「長い線」の中で「うまくいく」ことになるはずです。
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