「マーケティングで営業や販売を不要にはできない」

○鷲沢社長:「話をすり替えるな。読んだ、読まない、といった話じゃない。営業や販売を不要になどできないと言っているだけだ」

●明石専務:「どぶ板営業ばかり強調する社長にドラッカーは理解できないでしょう」

○鷲沢社長:「何だって。もういっぺん言ってみろ!」

●明石専務:「訪問回数を増やすとか、そんな原始的なやり方で当社が復活するとは思えません。もっとスマートで、もっと最先端のマーケティング手法を導入して――」

○鷲沢社長:「えええーいっ! いい加減にしたまえ!」

●明石専務:「あ……」

○鷲沢社長:「いつまで現状を変えないつもりか! 将来の大きな報酬よりも目先の小さな報酬か! それが現状維持バイアスだとわからんのか」

●明石専務:「く……。げ、現状維持バイアス」

○鷲沢社長:「いい加減、現状維持バイアスをはずしたまえ! 二代目をはじめ歴代の社長がどれぐらいプロモーション費用を使ってきたのか、忘れたのか」

●明石専務:「そ、そういえば……」

○鷲沢社長:「広告代理店から言われるまま、テレビコマーシャルや看板、Webプロモーションに大金をはたいてきたから、財務体質がここまで脆弱になった。そもそも当社は工業製品を主に取り扱う商社だぞ」

●明石専務:「確かに……」

○鷲沢社長:「一般消費財を扱っているメーカーだったら巧みなマーケティングで販売が不要になることがひょっとしてあるかもしれない。だが、それはうちじゃない。本を読むのはいいことだが当社は当社だ。本が書かれた時代の背景や、どの業種を対象に書かれた内容なのかを確認したまえ」

●明石専務:「も、申し訳ありません」

○鷲沢社長:「今は物があふれている時代だ。何もしなくても売れるなんてことはない。待っているだけでは駄目だ」

●明石専務:「お客様に強く売り込むことがやはり必要ということですね。私は営業をしたことがないので勘違いをしておりました」

○鷲沢社長:「いや、君はまだ勘違いしている」

●明石専務:「は?」

○鷲沢社長:「営業を知らない人ほど、営業を売り込みだと思い込んでいる。それがそもそもの間違いだ」

●明石専務:「違うんですか」

○鷲沢社長:「明石専務、明日から1カ月、営業に帯同したまえ。現場を知らない人間とこれ以上話をしたくない」