「マーケティングの理想は販売を不要にすること」

 ピーター・ドラッカーの有名な言葉です。この言葉を信奉する人にしばしばお目にかかります。ところが中には勘違いしている方がいます。

 今回、鷲沢社長とバトルするのはドラッカーに心酔する明石専務です。

●明石専務:「社長が銀行からやってきて、色々な改革を率先して進めていただいているおかげで当社は少しずつ良くなっています。とはいえまだまだ再建途上です」

○鷲沢社長:「その通りだ。私が来る前、20年近くも、おかしな経営を続けていたわけだから建て直しは容易じゃない。20年前、創業者の父親から社長を引き継いだ二代目は不運だったな。30代そこそこで経営など何も知らず、コスト意識も希薄なまま、場当たり的な舵取りをしてしまった。二代目が社長を降りて以降も迷走は続いた」

●明石専務:「二代目には申し訳なく思っています。すぐ近くに私がいながら力及ばずでした」

○鷲沢社長:「それを今言っていても仕方がない。当社は商社としてそれなりの歴史がある。素晴らしい取引先も多い。必ず復活するよ」

●明石専務:「そう信じています」

○鷲沢社長:「カギはなんといっても営業だ。お客様との接点を増やし、商談機会の絶対数を引き上げる。これしかない。そのためには営業に汗をかいてもらう。汗をかかない奴は再建中の当社に不要だ」

●明石専務:「営業部は頑張っていますよ。毎日走り回っています」

○鷲沢社長:「体を動かして汗をかくことも必要だが、大事なのは“脳の汗”だ。脳が汗をかくぐらい頭を働かせているか、そこが問われる」

●明石専務:「なるほど。実は私も初心に戻って色々な本を読んでいます」

○鷲沢社長:「いいことだ。読書はすべての基本だ。本を読まなくなったら経営陣として失格だ。最近何を読んだかね」

●明石専務:「昔よく読んだドラッカーをもう一度引っ張り出して読んでいます」

○鷲沢社長:「ドラッカーか。私は読んだことがない」

●明石専務:「えっ! そうなんですか。社長は1カ月に20冊は読むと聞きましたが」

○鷲沢社長:「『食わず嫌い』だな。素晴らしい経営学者なのだろうが、どうしても受け入れられないドラッカーの言葉があって、それがひっかかっている」

●明石専務:「そうですか。私は心酔しています。読めば読むほど素晴らしい発見があります」

○鷲沢社長:「専務がそこまで言うなら私も読んでみるか」

●明石専務:「私が一番気に入っているフレーズが『マーケティングの理想は販売を不要にすること』です」

○鷲沢社長:「何……」

●明石専務:「当社は商社ですから、お客様が欲しているものを探し当て、それを適正価格で仕入れることが一番重要です」

○鷲沢社長:「……」

●明石専務:「必死で駆けずり回っている営業の姿を見ていると、なんとかしてあげたいと思います。営業だとか販売だとかをせずとも自然と売れるマーケティングの仕組みを構築したいものです。ドラッカーを読み直して、ますますそう感じました」

○鷲沢社長:「君はアホか」