「働き方改革」を成長戦略の重要なファクターとして捉える政府は、残業時間の上限を月平均60時間、年間720時間とする方向で調整に入りました。これまで以上に踏み込んだ内容ですから、多くの企業経営者は対処に頭を悩ませていることでしょう。
無駄な労働時間を増やす元凶として私は「メール」をピックアップしたいと思っています。メール時間をいかに減らしていくか。次の会話文をお読みください。
●鳥山人事課長:「社長、いよいよ『残業60時間』時代に突入です。細かいことはともかく、違反したら罰則を科すそうです」
○鷲沢社長:「悠長に残業する奴は『非国民』ということだな」
●鳥山人事課長:「『非国民』……もう死語ですよ」
○鷲沢社長:「『残業』や『36協定』も死語になっていくのかもしれん」
●鳥山人事課長:「残業が本当に死語になったら世の中どうなるのでしょうね」
○鷲沢社長:「結構なことだ。わが社は広告代理店だ。日本国民の大半が残業を止め、仕事以外の活動を増やしてくれたら、広告をもっと見てもらえるだろう」
●鳥山人事課長:「そうなる前に当社の長時間労働対策をしておきたいです。平均残業時間は今、57時間です。60時間を超えてはいませんが何かあると超えるかもしれません。今のうちにもう一段の策を考えたいと思います」
○鷲沢社長:「平均はそうだとしても個別に見たら違うだろう。事務職の大半はそこまで残業していない。にもかかわらず平均57時間ということは、月間100時間に迫る残業をしている奴がいるってことだ」
●鳥山人事課長:「仰る通りです。広告を作っているクリエイティブ部には『夕方6時から本気を出す』という連中が結構いますから」
○鷲沢社長:「そんな連中はこれから肩身の狭い思いをするぞ。『6時から本気を出す』、これも確実に死語になるな。いつの時代の戯言だ、と将来笑われるだろう」
●鳥山人事課長:「とはいえ、色々やむを得ないところもあり、簡単に残業を減らせるとは思っていません。まず、それぞれの部署で業務の棚卸しをさせようと考えています。部署によって問題はさまざまですから」
業務の棚卸しで出てくるのは言い訳ばかり
○鷲沢社長:「業務の棚卸しか。駄目だな、はっきり言って。今の業務にムリ、ムダ、ムラはありません、それより人が足りないです、といった報告が上がってくるだけだ。私が銀行マンをしていたとき、色々な取引先で棚卸しをしてもらったが、出てきたのは言い訳の材料ばかりだった」
●鳥山人事課長:「しかし……」
○鷲沢社長:「もっとシンプルに物事を考えて、何かひとつに焦点を合わせろ。複雑なことをして意識をあちらこちらに向けさせても中途半端になって何も定着しない」
●鳥山人事課長:「ひとつと言われても何がよいのでしょうか」
○鷲沢社長:「メールだ」
●鳥山人事課長:「え!」
○鷲沢社長:「着任してすぐ、この会社のメールの多さに私は驚いた」
●鳥山人事課長:「確かにメールは多いですね」
○鷲沢社長:「はっきり言って異常だ。パソコンの前に座っている奴は全員、メールばかりしている。それで仕事をしたつもりになっている」
●鳥山人事課長:「いくらなんでも、そこまでひどくはありませんよ」
○鷲沢社長:「いや、そうに決まっている。クリエイティブ部も営業部も昼間はメールしかやってない。本来の仕事は夕方からだ。自分たちで認めているじゃないか。『6時から本気を出す』と」
●鳥山人事課長:「彼らの残業時間が長いのは確かですが、メールのせいだと決めつけるのはよくありませんよ、社長」
○鷲沢社長:「私の思い込みだと言うのか」
●鳥山人事課長:「先入観が強すぎると思います」
○鷲沢社長:「よし、はっきりさせよう」
●鳥山人事課長:「はっきり?」
○鷲沢社長:「メール時間の上限を決めよう。月に60時間だ」
●鳥山人事課長:「60時間……」
○鷲沢社長:「メールソフトを起動してキーボードを使っている時間を計測できるか、情報システム部に聞いてみよう。可能なら、政府を見習って60時間を超えたら罰則を科すことも先々検討しよう」
●鳥山人事課長:「そんな」
○鷲沢社長:「何か問題があるか」
●鳥山人事課長:「いくらなんでも横暴ですよ。メールの時間を制限するだなんて」
○鷲沢社長:「いいか、月間60時間、つまり1日3時間弱だ。3時間近くもメールを見たり書いたりできる。文句などないはずだ」
●鳥山人事課長:「……」
○鷲沢社長:「どんな職種であろうと1日3時間以上もメールを眺めたり書いたりしているだなんておかしい。誰が60時間を超えているのか、はっきりさせよう」
●鳥山人事課長:「私も気をつけないと……」
長時間残業の元凶を見つけて取り除く
月間60時間を超えて残業していると処罰の対象となる時代が来るかどうかはともかく、長時間労働をなんとかしないと企業は生き残っていけないでしょう。若くて優秀な人が入社したいと思わなくなるからです。
もちろん、これ以上の業務効率化は簡単ではありません。私は企業の現場に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントです。業務を細分化し、各業務の作業時間をどう短縮するか、これまであらゆることをやってきました。
その経験から言いますと、複雑な解決策は組織に定着しません。対策はまず一つに絞ること。長時間残業の元凶を見つけ、取り除く。その対策を徹底して浸透させることから始めましょう。メール時間を管理対象にする、これは多くの企業で効き目があると私はにらんでいます。
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